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社畜魔王とクズ勇者  作者: 新増レン
第八章 「社畜魔王、変革する」
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第八章1 『たまには休もう』

社畜魔王さんのターンです。

第六章の続きになっています。

 


 悪魔サタナキアとの交渉を終え、魔王の兄でもある悪魔皇帝ルシファーから魔界の真実を聴かされた社畜魔王。

 更に、セイレーンとサキュバスの二人から人生初の告白をされる。

 魔界での告白は結婚の申し出と同等であり、魔王は妻の人数に制限はない。

 しかし、セイレーンとサキュバスは魔王のたった一人の正室になりたいと言っており、またしても選択を迫られることとなった。




 舞踏会から数日後――。


 俺は今、深刻な事態に陥っていた。

 これまで受けたこともない告白を、二人から同時に受けてしまったのだ。


 しかも結婚を前提に!!


 前の世界なら、裁判に発展しそうな修羅場。

 作家が面白がってテーマにしたり、ワイドショーが賑わいそうな展開。


 けれどこちらでは魔王が何人と結婚しようが問題はないらしい。実に魔王という名にふさわしいルールだ。


 ただし、例外がある。

 それはたった一人だけ「正室」を決める必要があること。


 魔界では一夫多妻は一般的で、ハーレム・逆ハーレムは多く実在する。実際に存在するというのはここ数日で調べておいたが、真実のようだ。

 ハーレムでは多くの妻を抱えることになるわけだが、正室だけは“一人“しかおらず、他は側室とされる。


 それほど、正室は特別な存在らしい。


 男性なら羨ましいと思うだろうか。以前の俺はそうだった。

 しかし、実際のハーレムは俺のような小心者には過ぎたものだった。


 一人を妻にするよりも、正室を選ぶほうがキツイ。


 選んでも、もう一人と結婚するわけだから、すごく恨まれるんじゃないの?


 二人に限ってそんなことはないと思うけど、万が一を想像してしまう。ハーピーの時のような血みどろの展開は御免だ。


 故にあの日から、ほとんど眠れていなかった。

 きっと、魔王の身体でなければ胃痛がひどかっただろう。胃がギシギシと軋み、プレッシャー半端なかったはずだ。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「はぁ……」


 これは、昨日の今日で決めることは出来ない選択。

 だが長びかせるほどに、身体への負担も大きかった。


 昨晩はベッドの上で寝付けず、ずっと二人の顔が浮かんでは消えてを繰り返し、悩みに悩んで結論は出ないまま、寝不足。


 二人とも、本当に俺になんか勿体ないくらいの女性なのに、なぜ俺なのか……。

 セイレちゃんは「あの時」に教えてもらった。サキさんは……心当たりこそあるけど、十分に説明できそうにない。


「はぁ……」


 好意を寄せてくれることは嬉しい。こんな経験初めてだ。

 これは選択に悩んでの溜息ではない。そんな贅沢なことではなく、目の前にある書類に溜息をついていた。


 もう一つの深刻な事態が、目の前にあるわけで。


 ドッサリ。


「はぁ……」


 はい、溜息三つ目。


 ガリガリガリ。


 頭の中では悩みながらもペンを走らせ、サインを書く。サタナキアとの一件から増えた事務処理だ。


 下級悪魔の意思を尊重したことで、少数であったがサタナキアの力になりたいと申し出てくる者達がいた。

 これを種族全体で許可すれば簡単なのだが、一人一人に許可を出す必要があるらしく、かなり大変だった。


 こんな渦中では、彼女達の想いに応えることは難しそうだ。


「落ち着いて考える機会があればな……」


 中途半端に答えたくない。それは本心だ。

 俺は告白された側だから、ちゃんと考えて結論を出す。でもそれが遅くなりすぎてはいけない。

 昔、なにかの雑誌で書いてあった。


 待たせる男は嫌われる。


 あの二人に嫌われるのだけは嫌だ……。

 もし、こういう時、あのチャラい勇者だったら――。



『簡単じゃん。好みで決めればいーんだって』



「ぬああああああああ!! お前と一緒にするなあああああ!!」


 俺にはそんなことできん!!

 しかも、俺の頭の中に出てくるな! このそっくりさんめ!!



「ま、魔王様! どうしました!?」



 ガチャッッ!


 あまりにも狂気的な叫び声を上げていたのか、外で待機していたミノ子さんが鈍器片手に慌てて部屋に入ってくる。


 目が合った途端、恥ずかしくなった。


「魔王様、あの、大丈夫ですか?」


 かけられる心配にも、顔が熱くなってくる。


「あ、うん。だいじょぶだいじょぶ」


「全然大丈夫そうじゃないです!! お顔が真っ赤ですよ!? どこか体調が悪いのでは? お仕事を中断されて、休憩なさってはどうですか?」


「休憩……」


 確かに、こんな精神状態じゃ仕事も捗らない……最悪だ。負のスパイラルに突入してどっちも破滅しかねない。


「そうするよ」


「そ、それがいいと思いますよ! じゃ、じゃあ、わたしはミルクティーを持ってきますね」


 ミノ子さんの提案に乗り、俺はペンを置いた。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 しばらくして、ミノ子さんはカップをトレイに乗せて戻って来る。

 どうやら、俺の部屋に行っていたようで、見慣れたカップにいつかのミルクティーが注がれていた。


「どうぞ、魔王様」

「ありがとう……」


 ミルクティーを飲み、少しだけ冷静さを取り戻してきた。


「ふぅ……」


「あのぅ、ひょっとして、結婚の事を悩んでいますか?」


「ま、まあね。二人とも、俺には勿体ないくらいだし……それに、二人と結婚だなんて急すぎない?」


「そうでしょうか? 多くの女性と結婚するのは、魔王様程の殿方なら不自然ではないと思いますよ?」


 調べた通り、魔界で重婚は常識のようだ。それも上に立つ者になればなるほど多くの妻を娶るらしい。

 どうしたもんかね。


「あ、そうだ!」


「急にどうしたの? ミノ子さん」


「魔王様は、ゆっくりと考える時間が欲しいってことですよね?」


「そうだけど……この書類の量だし、休んでいられな――」



「いえ、休みましょう!! 火山近くに、わたしの古くからの文通友達が温泉宿をやっているんです。様々な種族の方に好評らしくて、きっと魔王様のお気に召すと思います! そこでゆっくりと考えるのはどうでしょうか?」



 温泉宿……温泉!?

 ま、まま、まさか、魔界にあるのか?

 あの温泉が?


「じょ、冗談でしょ? 温泉の文化はさすがに――」


「え……人間界では、変なのですか? 魔界では温泉は文化ですけど……」


 本気のようだ。

 温泉……確かに身体を休める必要はあるよな。交渉とかで疲れたし。


「温泉、行ってみようかな」


「はい!! 是非休んできてください!」



 …………ん?



「みんなは来ないの?」


「勿論、わたし達は護衛で付いていきますよ?」


 護衛で?

 おかしい。何か噛み合ってない気がする。


「――じゃなくて、みんなは休まないの?」


「休むなんてそんなっ!! 魔王様を護るためにいるのが護衛衆ですから」


 あぁ、そうか。


 きっと遠慮しているんだろう。そうじゃなきゃ、休もうって提案に乗らないはずがないもんな。

 階級では魔王の次に秘書が偉いみたいだし、サキさんを説得すればミノ子さん達も休めるに違いない。


 よし、そうとなれば――。


「サキさんに相談してみるから大丈夫だよ、ミノ子さん」


「……はい?」


「じゃあ、俺が話してくるから、待っててね」


 善は急げと、俺は執務室を出てサキさんの部屋へと向かった。


 こうして俺は魔王業を少しばかり休み、休暇をとることにした。

 しかし休暇を取るまでが大変だとは、この時は気づいていなかった。






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