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社畜魔王とクズ勇者  作者: 新増レン
第七章 「クズ勇者、狙われる」
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第七章4 『勇者の遺品』



 仲間の引き籠りに勇者と魔法使いのモルが立ち上がった。

 あらゆる策を使い、どうにか戦士エリカが立ち直ると、勇者一行はようやくシュテム王国を出立した。




「エリカちゃん、これからどうするの?」

「そうです。どうするんです?」


「あんた達、私が復帰したからって早速頼る気なの?」


「「もちろん(です)」」


「仲良いわね、さすがデートしただけあるわ。私の事を放っておきながら」


「「…………」」


 エリカちゃん、完全に恨んでるよな。

 昨日、例のデートの件を根掘り葉掘り聞かれ、僕が必死に弁明する一方でモルちゃんが話を盛ったせいもあり、滅茶苦茶な展開になってしまった。

 以降、このようにチョイチョイ突っ込んでくるようになったわけで。


「勇者様、これは本格的に旅の中のロマンスが生まれるのではないです?」

「モルちゃん、少し黙ってようね」


 そんな馬鹿話をしながら生い茂った道を進む。

 晴れた草原を進むのは風が気持ちよくていいのだが、なにせ関所が遠い。

 こんな風に話をしていないと、疲れたと口に出してしまいそうだった。


 歩いている中で、不意にエリカちゃんはモルちゃんに話しかける。


「関所の通行手形……。モル、エスタ王国とファダムード王国の戦争、どう見てる?」


「かなり、長引きそうですよ。今朝も新聞で読んだです」


「そうね……」


 新聞……さすがだな。僕は読んでないけど。

 あ、そういやエリカちゃんに聞きたいことがあったんだ。


「ねえねえ、エリカちゃん?」

「なによ?」


 先頭を歩くエリカちゃんに、話しかけると声だけで返事が返ってくる。


「こないだ、シュテム王国の王様に勇者の遺品ってのをもらったんだけど、これってなんなの?」


「……それ、本当?」

「うん」


「勇者の遺品を集め、賢者の末裔と出会う。これが勇者の旅の道中に課せられた使命なのよ」


「使命って、そうしたらなんかいいことあるの?」


「勇者としての力を手に入れることができるらしいわよ」


 やっぱり初耳だった。

 いや、待てよ? なんか、遠い昔に教えられた気もするなぁ。

 けどまあ、バイトが忙しかったから憶えてなくてもいいよね。うん。


「とにかく、幸先のいい旅のスタートね」

「です」


 二人が頷いている。

 あのメダルが、まさかそんな凄いものだったとは。


「それで、残りの遺品はいくつあるの?」


「全部で三つ。つまり、あと二つになるのね。ちなみに賢者の末裔は三人いて、それぞれの遺品に関連してるって聞いたことがあるわ」


「すげぇ詳しいんだね」


「……私は魔王を倒すつもりだからよ。なのに、あんたときたら」


 やべ、もしやこれは霧の湖畔の件?!

 話を逸らすべし。


「あ、そうだ。モルちゃん、次の王国はどんなところ?」


「……」


「勇者様、バレバレですよ」


 まあ、そうだよね。

 魔王を取り逃したことを怒られたのではない。

 魔王にあんな取引を持ち掛けた事。それに対してエリカちゃんは昨日、僕に説教してきた。


 エリカちゃんにとって魔王は、恨みすら覚える相手。そんな相手に惨敗だったし、怒りも増すことだろう。


「これから行く王国ですが、エスタ王国は海産物を中心とした食糧産業で有名です。白浜のビーチに首都の王国があって、城は貝殻で造られているようです。

 一方、ファダムード王国は貿易王国です。この大陸の食料を輸入している場所で、そちらに巨大な港町があるですよ。

 二つの王国は土地の色の違い、茶色と焦げ茶色で判別されていて、何度も国境問題が勃発し、戦争をしているので有名です」


「ふうん……」


 大陸の要所だということは分かった。

 海岸や海産物、実に魅力的だが……戦争なんてキーワードを耳にすれば、興味も削がれるし、ビキニの美女たちも拝めない。

 この馬鹿野郎!! 海と言うものがありながら、国境で喧嘩するなんて……水着を返せ!!


 いやしかし、この世界の水着は非常に興味がある……今度、二人を騙して拝みたいものだな。特に二人の水着を見たい!! 近しいからこそ見たい!! それに加えてビーチの女の子たちのワガママボディを無償で拝みたい!! そろそろ潤いがほしいんだよ!!


「ぐへへへ……」 


「……何アホな妄想してんのか知らないけど、次の王国に留まるつもりはないわよ」


「え、そうなの?」


「当り前よ。人間同士の諍いに首を突っ込む暇なんてないの」


 さすがエリカちゃん。これだけは賛成だ。

 しかし、次のモルちゃんの一言で状況は変わってしまう。


「港が封鎖されているですから、首を突っ込む必要があると思うですよ」


「「え……」」


 ようやく見えてきた大きな川と大きな橋。

 その関所を目前にし、僕達は足を止めた。


「そ、そうだった?」


 エリカちゃんが確認すると、モルちゃんは自信満々で頷いた。


「港が封鎖されている情報は、今朝の新聞にも書いてあったですよ。エリカさんも読んだのでは?」


「……そ、そうだったわね」


 あ、これ読んでないな。


「エリカちゃん、嘘はいけないなぁ。僕みたいに胸を張って読んでないと言い――」


「あぁ?」


「すんません」

 

「でも困ったわね。勇者の遺品の情報もないし賢者の末裔の在り処も掴めない王国で足踏みすることになるなんて……こういう王国こそ、魔王が滅ぼせってのに」


 エリカちゃん、こえぇ……。でも、あれ?


「エリカちゃん、どうして勇者の遺品がないって言い切れるの?」


「勇者の遺品は同じ大陸に存在しないと言われているのよ。シュテム王国で保管されていたから、あとの二つは別大陸にあるわ」


 そうだったのか。

 こう考えると、勇者の遺品とか賢者の末裔とか……探すもの多すぎね?

 あぁ、早く終わらねぇかなぁ。勇者の旅。

 終わったら権力を乱用して好き放題暮らせんのになぁ。


「エリカさん、どうするです?」


「仕方ないわ。港で直接交渉しましょう。勇者を名乗れば船を出すかもしれないし」


 これを本気で言ってるのだから、頼りになるよな、我らがリーダー。

 しかし対する慎重派のモルちゃんは、エリカちゃんに聞こえない音量で、僕に訊ねてきた。


「……勇者様、どう思うです?」


「行ってみるしかないんじゃね?」


「はぁ……もう少し理知的なメンバーを募集するですよ」


「とりあえず、大橋の関所を越えたらエスタ王国よ。とにかく、そこからは気を引き締めていきましょう。海に近づくと魔物も少しずつ増えてくるわ」


 魔物いんのかよ!

 やだなぁ……自信はついたけど、とにかくやだなぁ……。

 ってか、魔物いるのに戦争とかしてんじゃねえっての。


「いざ、新たな王国へ!!」

「おー」

「です」


 エリカちゃんの元気な声に、僕はやる気なく返事する。

 こうして僕達は、新たな王国へと入ることになったわけだ。






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