プロローグ 『ある会社員の告白と結末』
【2018年1月19日改稿。内容に変更はありません。見やすくしました。】
俺は混雑した駅のホームに立ち、空を見上げていた。
その日は朝から太陽が隠れていて、鬱屈した感情が増幅させられる。
周囲には自分と同じ格好をしたスーツの連中が今か今かと電車を待っていて、気持ち悪かった。
新卒入社から三年目の何月何日かの朝――。
俺はここで死ぬ。
決意したのは数か月前で、そう思わせてくれたのは入社後まもなくだった。
終わらない量の仕事を押し付けられ、上司の人を殺すような怒号と同僚の陰湿な嫌がらせに心が破壊される毎日。
家に帰る日があってもシャワーを浴びて寝るだけで、会社に泊まることが当たり前になり感覚もおかしくなっていた。
ずっと眠れない日が続いた。
今日という日もそうだった。
『これ、今日中にやっておけ。期日厳守だ。終わるまで帰るなよ』
『まだ終わってないのかよ。要領悪いな、くそつかえねー』
『頭悪すぎ。やっぱ○○大学ってだけあるわ』
もうあんな黒い場所には行きたくない。
死ぬことに後悔はない。と言ったら嘘になる。
一度でいいから女性を抱いてみたかったが、今となっては叶わない願いだ。
でも、それでいい。
俺には、誰かを幸せになんて出来ない。自分を幸せにすら出来ないのだから。
『電車が来ます。白線の内側に御下がりください』
時間が来たみたいだ。
じゃあな、世界。
二度と会いたくないよ。
「おい、あんた何して――」
そう、俺はこの日、震える足で駅のホームから飛びおりる。
誰かが背中から声をかけてきたが、次の瞬間には電車が目前に迫ってきて身体を潰した。
そんな勇気があるなら別の道選べよ。とか思ったりもしたけど、最後は謎の勢いだった。
だが、今となってはひどく後悔している。
機会があるのなら、あの時の愚かな自分を止めてやって転職を勧めてやりたい。追い込まれて狭くなっている視野を広げてやりたい。
なにせ、もう元の世界には戻れない。普通の人間ではいられないのだから。
この先に待っているのは、ゴールではない。
魔王としての、第二の人生が待っていたのだ。
拝啓、俺が死んで清々しているであろう職場のクソども。
俺は、魔王になりました。