死亡少女の転生契約
次から本編になります。
にこやかに悪魔のようなセリフを口にするファル様とのやり取りは、数時間にも及んだ。
分かったことは二つ。
ファル様が私には到底理解できないような、特殊な思考回路の持ち主であるということ。
そして、私が困るこのやり取りさえも、ファル様にとっては暇つぶしだということ。
長時間の話し合い――拒否と説得の末、なんとか雑用という名の恐怖体験の回避に成功した。
「まぁ、僕には時間が有り余ってるからね。君の人生もう一回分くらい、様子を見てあげる。それで満足できたら、輪廻の環に乗せてあげるよ」
という、優しくも有難いお言葉と共に、転生の権利を頂戴した。
現状の大本はファル様なのだが…。
内容は簡単だ。
私は地球とは違う異世界に転生し、新しい人生をスタートする。
平凡でも波乱万丈でも、最終的にファル様が満足すれば良しと。
私はファル様といくつか取り決めを作り、転生契約を交わした。
「確認するけど、記憶は持ったままの転生でいいんだよね?」
「そうですね。後で記憶が戻って混乱するより、そっちの方がいいと思います」
確認するファル様の問いに、私は特に深く考えずに頷いた。
ファル様の視線の意味にも気づかずに。
まさかこれが転生早々に後悔する事態になるなど、この時は思いもしなかった。
「じゃあ、始めるよ」
ファル様の手から放たれた温かな光が、私の体を包み込んだ。
「次に君の意識が覚醒するのは、転生が完了した後だね」
次第に強くなる光に、ファル様とのお別れを実感した。
「ファル様、ありがとうございました」
ここに来てから数時間…思うところはいろいろあれど、私はファル様に感謝していた。
もう一度、人生を与えてもらえるのだから。
次は病室の中で一人寂しく過ごす人生ではなく、健康でのびのびと生きてみたい。
私の突然の感謝の言葉にキョトンとしていたファル様だったが、笑って見送ってくれた。
「君の新しい人生が素晴らしいものであることを楽しみにしているよ」
揺れ始めた視界の中で、ファル様が優しく微笑んだように見えた。
「またね、子猫ちゃん」
薄れ始めた意識の中、死ぬ前の日々を思い出した。
死にたいと思っていたし、死んでよかったと本気で思っている。
今でもその気持ちに嘘はない。
自殺だって何度考えたことか。
それでも自殺できなかったのは、単に勇気がなかったのと…面倒をみてくれた従兄を悲しませたくなかったから。
歳の離れた従兄は、交通事故で両親を亡くした私に手を差し伸べてくれた。
高額な治療費を負担し、忙しい時間を割いては病室を訪れ、私が困らないように、寂しくないようにと、ずっと気にかけてくれていた。
死んでしまったことに後悔があるとしたら、従兄――お兄ちゃんにお別れを伝えられなかったことだけだ。
優しいお兄ちゃんだから、きっとたくさん悲しんでくれただろう。
ごめんね、お兄ちゃん――
ありがとう、お兄ちゃん――
私、今度こそ自由に…
私の意識はそこで途絶えた。