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異世界転送  作者: 画谷とをり
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第8話

 レイダーとの(いさか)いから数分後、僕とカナタはバグザムの街中を歩いていた。


 バグザムは中心に王城があり、その周りを騎士団の駐屯所が囲んでいる。

 王城を中心にして伸びている東西南北の大きな道の一つ『南中央道』が、僕達が今歩いている場所だった。



「え!? あいつ本家の人間なの!?」



 道を歩いていると、カナタが先ほどのレイダーさんについて聞いてきたので「クルジオ家の人だよ。イリアさんの子供」と答えたら驚かれた。



「うん。イリアさんの後継ぎ予定の人」

「だから偉そうなのか」

「多分違う。あの人は僕のことが嫌いなんだと思う……」



 昔からレイダーさんには嫌われていた……と思う。僕と顔を合わせる度になにか嫌味を言ってきたりするのだ。



「セルジュのことが?」

「僕がイリアさんに修行をつけてもらった時からあんな感じなんだよ」

「セルジュが修行するのに反対してたのか?」

「いや。イリアさんがつくことに怒っていると思う……レイダーさんもイリアさんに修行をつけてもらっていて、それを横取りしたから……」



 いわゆる『嫉妬』と呼ばれるやつだ。今でも本当に嫉妬しているのか、それとも意地になって僕に嫌がらせをしているだけなのか、どちらかは分からない。ただ、僕は前者の方な気がする。



「それだけでか? 小さい男だな」

「レイダーさんはクルジオさんの後を継がなきゃだから、それだけプレッシャーなんだと思う」

「プレッシャーなぁ……」



 カナタがなにかを考えるように言葉尻を伸ばす。

 カナタにも色々と思うところがあるのかな?



「だとしても、あんなに機嫌悪くなくてもいいのに。そもそもそれって結構前の話だろ?」

「でもレイダーさんにとっては人生に関してのことだから………」



 納得はいかないけど、多少なりとも理解はできなくもない。これに関してはもう割り切るしかないと諦めている。



「てかなんで、レイダーはこっちの街にいるんだ?」

「転送魔法で荷物の移送をしているんだよ」

「あっちでイリアさんもやってるじゃん。二人も必要なのか?」

「小さい物だったら一人での魔力でも転送できるけど、大型の荷物は一人じゃ転送できないんだよ。だから二人で行うの」

「ふーん」



 まぁ、実際はできなくもないけど途轍もなく非効率的なので、基本は二人で行う。一人でやるのと二人でやるのとでは魔力の消費量が数十倍以上は違うので、この手段を使わないとまず大型の荷物の移送は不可能に近い。



「この話はやめよう。それよりバグザムを案内するよ」

「わかった、行こう。騎士団に会えるかなぁ」

「ははは。会えるといいね」



 説明すると長くなりそうなので、話を切り上げる。カナタに強請られたら話すのもやぶさかではないが、今は特に話してくれとも言われていないので後でいいだろう。

 それよりも、まずは街の散策だ。


(カナタにこの世界の魅力を沢山教えてあげなくちゃ!)



 そう意気込んだ僕は次々と色々な場所をカナタに紹介した。

 まずは商店街。今回は強盗には会わなかった。当たり前だけどね。流石にそう何回も遭遇するはずもない。

 次がポーション店。カナタはポーションを初めて見たようで凄い感動してた。途中でポーションの瓶を割かけたのは驚いたけどね。

 その次は図書館に行った。カナタは文字が読めなかったらしい。会話は出来るのになぜだろう?

 後はイリアさんから頼まれた例のモノ____と言っても何かは分からないけど____をイリアさんの友人に届けたり、出店で買い食いしたりして過ごした。


 そして、いよいよここからが本題。このバグザムに来た一番の目的は『情報収集』。ということで、僕は知り合いの情報屋を訪ねていた。



「お、セルジュ君いらっしゃい。久しぶりだね。三年ぶりか?」

「お久しぶりですコーワさん」

「イリアさんから話は聞いてるよ。手掛かりになりそうな文献があるんだ。見てくれ」



 コーワさんにカウンターへと呼ばれる。そして、一冊の本を見せられた。



「これなんだが」



『異空間論について』著書 デメカッツァル



「これですか………ってこれ、エルフ文字……」

「そうなんだよ。図書館から借りてきたはいいものの、読めなくてさ。セルジュ君も読めないか……」

「無理ですね……他に何か手掛かりになりそうな物は?」

生憎(あいにく)、時間が無くて探せなかった。異世界の事なんてまず聞かないしね。今までの情報録を漁ったけど、一つも出てこなかった」

「そうですか……」



 思わずその情報に肩を落とす。が、完全に情報がない訳でもなかったのでまだよかった。僕はコーワさんがカウンターに置いた本を手に取ってまじまじと見る。


「これが唯一の手掛かりか……」

「ごめんね。忙しい身で他種族の言語を学んでいる余裕が無いんだ」

「いえ、これだけでも充分です。探していただきありがとうございます」

「うん。こちらも何か情報が入ったら伝えるよ」

「ありがとうございます」


 収穫は僅かなものだが、あっただけマシだ。それに、この本をきちんと読めばカナタを元の世界に帰す方法が分かるかもしれない。可能性があるだけで、十分なものだろう。


 僕とカナタは店を出ようと席から立ち上がる。そして、入口に向かおうとした時だった。



「情報屋! ラルクルで人が行方不明なのだが! 何か情報は届いてないか!」



 突然、甲冑を纏った女騎士が飛び込んできたのだ。騎士は後ろにもう一人と、外にもまだ二人いるのが見えた。


「え、きょ、今日は行方不明の情報は来ていません。ラルクルも比較的静かだと聞いています」

「ここもか……!」



 女騎士は歯を食いしばって(うつむ)いた。一体何があったのだろう?


 用はすんだ、とでも言うように女騎士はすぐに店を出て行く。すると、後ろで控えていた男の騎士が声を上げた。


「騎士長! 何処(どこ)へ!」

「決まっているだろう! ラルクルへ向かうんだ!」



 かなり慌てている辺り、なにか不味い事件でも起こったのかもしれない。

 そんな事を考えていると、カナタが突然地面に膝を付いた。いきなりの行動にその場にいた全員の視線がカナタに向けられる。



「き、騎士団だ………!」



 やたらとキラキラ目を輝かせ、少量の涙を浮かべながら感激したようにカナタはそう言った。

 いや、もうちょっと状況考えよ?

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