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異世界転送  作者: 画谷とをり
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第2話

「君がそうか。いらっしゃい。とりあえず中に入ってくれ」

「あ、はい……」


 カナタを本家の屋敷まで連れてきたところ、玄関でクルジオ家現当主であるイリアさんとゲルダに出迎えられた。


 君がそうか、とイリアさんが言ったということは、ゲルダは恐らく、僕が連れてきたカナタについて話があることを察して伝えてくれたのだろう。やはりゲルダは気の利くいい奴だな、と改めて思った。


「さあ、入って」


 ゲルダにそう言われてカナタに目配せをしつつ玄関から数歩の所にある扉をくぐり、部屋の中に入る。


 中に入ってから、イリアさんが椅子に座ったのを見て僕も座る。テーブルを挟んで、イリアさんとゲルダ 、僕とカナタでちょうど対面する形になった。


「そういえば、君はセルジュに似てるな」


 唐突にイリアさんがそう言い出した。僕とカナタが似ている?


「あ、それ僕も思った」

「そうですか?」


 ゲルダもイリアさんの言ったことに同意のようだが、僕とカナタはそこまで似ているだろうか?

 気になってカナタの方を見ると、カナタも同時にこちらに振り向いた。

 しばらく見つめてみれば、確かに顔のパーツはそっくりかもしれない。


「そう言われれば………そうかも」

「気付かなかったのか……」


 カナタに呆れられてしまった。カナタは僕とカナタが似ていることに気づいていたのだろうか? 自分の顔なんて普段から見るものでもないので、僕はそんなこと露ほども気にしなかった。


「なんか、顔だけ見たらどっちがどっちだか分からないね」

『…………』


 改めて顔を見合わせる。思わず無言になってしまった。


(それにしても、ほんとに僕に似てるなぁ……)


 服を同じにしたら双子と言っても通じそうだと思った。




「カナタ君と言ったかな。君はどこから来たんだい?」


 変な空気になってしまったが、イリアさんがカナタに質問した事でそれも和らいだ。


「トウキョウ」という地名は僕は聞いたことが無かったけど、イリアさんならもしかすれば何か知っているかもしれない。


「あ、東京……って言っても分からないですよね……」

「東京……」


 イリアさんが顎に手を当て考え込む。何か心当たりがあるのかもしれない。



「トウキョウってどこの国? 僕聞いたことないよ」

「僕もです。イリアさん、聞いたことありますか?」


 博識なイリアさんならば、という気持ちで聞いた質問だったが、帰ってきた返事は予想外のものだった。


「ん? あぁ、いや、俺も聞いたことないな。もしかしたら、………異世界かもしれないな」

「い、異世界?」


 異世界……ってあの異世界だろうか? 別の世界という意味の異世界。そんなものがあるとは到底思えなかった。


「異世界!?」


 奏多が立ち上がり、勢いよく机に手を置いた。

 僕もイリアさんもゲルダも一様に驚き、カナタのあまりの剣幕に思わず引いてしまう。急激に上がったカナタのテンションに僕としては、もう何が何だか分からなかった。


『………………』

「あ、スミマセン………」


 カナタが恥ずかしがるように椅子に座り直す。異世界と聞いただけでアレほど取り乱すなんて、よほどこの場所に来たことが不安なのかもしれない。僕は後悔の念に押しつぶされそうになった。


「異世界について知っていたりするのか?」

「いえ、それを題材にした本がありまして……」

「そうか……」


 イリアさんが質問し、カナタが簡潔に答える。あくまで淡々と答えたように見えたが、カナタの目に興奮の色が浮かんでいたのを僕は見逃さなかった。もしかすれば、先ほど取り乱したのは不安からではなく、興奮が抑えきれなかっただけなのでは……


 そう思うと僕の後悔の念は何だったんだろうかと虚しい気分になった。


「しかし、異世界の転送となると……未だ成功してない魔法ですよね?」


 落ち込んだ気分を払拭するかのように、僕はイリアさんに質問、というよりは確認の意味で聞いてみた。


「あぁ……私も研究しているところだ」

「でも僕は初歩の転送魔法をしたのですが……」


 生物転送というのは本来初歩の魔法とされている。僕は生憎、生物転送はあまり得意ではなかったので10年近くも研鑽しなければ成功しなかったが、もっと才能のある人なら数年、早ければ数ヶ月でできるような魔法であるのだ。

 それなのに、何故、異世界から人間を転送するという結果になったのか。全くもって意味がわからない。


「………こちらでも調べておこう。セルジュ、カナタ君にこちらの世界を少し教えてあげなさい。元の世界へ戻るまでの間、こちらの事がわからないと不便だろう」

「わかりました」


 イリアさんが調べてくれると言うなら安心だ。

 イリアさんは歴代クルジオ家当主の中でも1位2位を争うほど優秀で、大体の仕事はすぐに終わらせてしまう。今回も数日も経たずに解決してくれるのだろう。


 ただ、イリアさんにばかり任せていてはダメだ。予想外の事態とはいえ、僕がカナタを、1人の人間の尊厳を無視して呼び出してしまったのは事実。ならば、僕もカナタを元の世界に返すために働くのが筋というものだ。


「カナタ君。わからない事があったらセルジュに聞きなさい。それと、その服だと不自然だろうから、服も貸してあげよう」

「わざわざすみません。ありがとうございます」

「いや、別にいいさ。それじゃあ私は部屋に戻るよ。セルジュ。後は頼んだよ」

「はい」


 イリアさんに返事をすると、軽く手を振ってくれた。あれは小さい頃から見てきたクルジオ家ならではのハンドサインだ。意味は『頑張れ』。それを見て、なんとしてでもカナタを元の世界に返さなくては、と強く思う。


 さしあたっては、カナタにこの世界のことを知ってもらわなければ。数日か数週間か数ヶ月か。どのくらいの間カナタがこの世界にいるのかわからないけど、常識くらい知らないと流石に不便過ぎるだろう。


「カナタ。また来てね!」

「あ、うん。ありがと」


 ゲルダはカナタのことを気に入ったようだった。何がゲルダのお気に召したのかはわからないけど、仲良くなる分にはいいかな。

 僕はこれからのことを色々と考えながら、自分の家に向かうため玄関へと向かった。



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