第23話
4連投3話目です。
「そ、そうなんですか!?」
アーティルさんがかなり取り乱している。緑軍の隊長になる人なのにこんな弱気で大丈夫なのだろうか。
(アースドラゴンとの戦闘の時はかっこよかったのに……)
カナタに問われた二人は黙ったままでいる。その表情は険しくなっていた。
ヒエクラフトさんは黙ったままだが、やがてダオスさんが重い口を開く。
「………」
「そう思った理由を伺おう」
「以前俺達が乱入した一回目の昇格試験の時。貴方は俺達をこっそり見ていたと言ってましたよね?」
「あぁ。言ったな」
あ、確かに言っていた。カナタはよくそんな細かい事まで覚えてるなと内心で感心しながら話の続きを聞く。
「昇格試験なのですから、アーティルさんの行動を見るために、今回も観察しているのではないかと。そのために、洞窟には以前から観察用の魔法を仕掛けていたのではないかと思いました」
「つまり、その時に洞窟の状況は知っていたのではないかと、疑った訳だ」
「はい」
よくそこまで頭が回るものだ。僕はそんなこと露ほども考えなかった。ただ目の前の危機に立ち向かうことに必死で余裕などなかった。
「そうか。しかし、その類の魔法は、人に掛けることもできる。騎士の一人にその魔法を掛けて、こっそり観察していた可能性もある。それは根拠にはならない」
「そうですね。それは、ただの憶測に過ぎません。では、洞窟にあった死体ならどうでしょう」
(死体?)
不思議に思った僕は心の中でつぶやく。その僕の疑問はヒエクラフトさんの言葉と被った。
「死体?」
「はい。洞窟にあった死体は、おそらく盗賊の者の死体だと思います。それは、白骨化……つまり、骨だけになってました」
「それがなにか?」
「セルジュから聞きましたが、今回俺達を襲ってきたリザードマンは、鉱石を食べて生きているらしいですね。つまり、人の肉は食べない。もしも、数日前に死んだのであれば、白骨化はしてません」
「そうか! つまり、あの人達が死んだのは、最近ではない!」
カナタの言おうとしていることが分かり、その嬉しさからつい叫んでしまった。恥ずかしい。
「そう。もっと前の事になる。だから、あの洞窟は、とっくの昔からリザードマンの巣だったことになる」
「そ、そうなんですか!?」
アーティルさんは先ほどと反応が変わっていない。ちょっとこの先この人がきちんとやっていけるのか心配になってきた。戦闘が絡まないとどこか抜けたままなのだろうか。
ダオスさんは暫くの間を開けて口を開いた。出てきた言葉は肯定だった。
「………あぁ。カミヤ君の言った通りだ」
「作戦内容と違う事態が起こった時、適切な対応を取り、全員を無事帰還させられるかを試したんだ」
「そして、無事帰還できた。昇格試験は合格ということですね?」
ダオスさんに続いてヒエクラフトさんが、ヒエクラフトさんに続いてカナタが言葉を繋ぐ。まるで最初から打ち合わせをしていたみたいに上手く言葉が繋がっていた。つまりは、カナタは二人と同じ考え方に到達しているという事だ。
「あぁ。アーティル・スクライスを、緑軍騎士団長に任命する」
その言葉が出た瞬間、真っ先に反応したのは僕とカナタだった。
「アーティルさん! おめでとうございます!」
「おめでとうございます」
祝いの言葉を述べる。
アーティルさんは出会った時から非常好ましい人だったし、彼の人間性に惹かれていた部分もあって、自分の事ではないのに素直に嬉しかった。
ただ、アーティルさん本人は戸惑っている。驚いたり焦ったりと忙しない人だ。
「待って! まだ決断が早すぎるというか!」
「アーティル。緑軍を任せだぞ」
「団長まで!」
「俺はもう団長ではない」
「そんなぁ」
重圧から逃げようとするアーティルさんをヒエクラフトさんが逃すまいと言葉の鎖を巻き付ける。『外堀を埋める』とはこのようなことを言うのかもしれない。
「安心しろ、アーティル。俺が教えられることは全て教えた。俺が見込んだ一番弟子だ。お前になら任せられる」
「師匠……」
感極まったように嬉しそうな声を上げるアーティルさん。大団円でまとまったようで何よりだ。
場の空気が落ち着いたところでダオスさんから僕とカナタに声が掛かる。
「昇格祝いの宴は、また後日開こう。カミヤ君、セルジュ君。君達も来てくれたまえ」
「あー……。その事なのですけども……」
ダオスさんの言葉に僕達は苦笑いというか、恐らく気まずい顔になった。僕達には、やらなければいけない事がある。




