第21話
暫く更新できずすいません。今回は1章の終わりまで4連投です。
1話目です。
アーティルさんの叫びが未だ洞窟内に反響する中、全員が入口に向かって走る。しかし、洞窟の入口の方でも第三部隊がモンスターの群れと戦闘をしていた。どうやら囲まれてしまったらしい。
敵のモンスターはどうやら鉱山などに住み着く土系のリザードマンらしく、各所で戦う騎士達は硬い甲殻に剣を弾かれて苦戦していた。
入口に近かった第二部隊が立ち止まり、入口での戦闘を遠目に見ていたカナタがアーティルの下に戻る。セルジュもそれに追随した。
焦った様に声を荒らげてカナタは簡潔に状況を伝える。
「アーティルさん!」
「カナタ君!? 早く洞窟から」
「外もモンスターが押し寄せて出られない状況です! 挟まれました!」
「なっ!」
アーティルとカナタが会話している間もモンスターは動きを止めてはくれない。アーティルの背後からはモンスターが迫ってくる。
カナタに追いついてアーティルさんの前に立った僕は、思わず助けを求めるようにアーティルさんに声を掛けてしまっていた。
「アーティルさん!」
「セルジュ君……」
セルジュとカナタがこの状況を打開するための命令を待つ。だが、焦るアーティルは指示を出せずにいた。運悪く隊長としての経験の浅さがでた形だ。
カナタがアーティルの肩を掴む。
「隊長! 指示を!」
カナタの呼びかけでハッとしたアーティルが我に返った。
冷静になったアーティルは近くに迫っていたモンスターの攻撃を抜剣して受け止めながら、すぐさま騎士団へと大声で指示を出し始めた。
「第一部隊! 戦闘態勢につけ! モンスターの群れを食い止める! 入口のモンスターが撃退されるまで耐える! 第二は第三の援護に行くよう伝えてくれ!」
「わかりました!」
名前も知らない騎士団の隊員の一人がアーティルさんの指示を受けて走り去る。その間にアーティルさんは剣の薙ぎ払いでリザードマンの顔を裂いていた。
カナタもアーティルさんの横で剣を構える。カナタに続くように二人の後ろから三人の騎士がやって来て、アーティルさんを補助するような配置に付いた。
すると、突然アーティルが顔だけをカナタの方に向ける。それで何か通じるものがあったのか、カナタはアーティルへと指示を仰ぐ。
「俺とセルジュは何をすれば?」
「君達は二人だけの方が動きやすいよね。後方の人達と入口のモンスターを倒してくれ。ここは縄張りだ。どこからモンスターが湧いてくるかわからない」
「了解、隊長。セルジュ、こっちだ」
「わかった!」
アーティルさんからの指令を受けた僕とカナタは、すぐに第一部隊の後方にいる支援部隊の下へと向かう。洞窟の入り口では案の定、壁の穴や隙間から多くのモンスターが湧いてきていた。
「壁の中に住んでる……ってわけではなさそうだな。単に移動に使っているのか」
「そうみたいだね」
「頭がとくに硬そうだな。関節部分は構造上硬質化できないだろうから、攻撃できるとしたら首とか手足だね」
カナタは剣を抜き、僕は短剣をいつでも抜けるように身構える。
カナタが分析している通り、土系のリザードマンと言えば硬いことが特徴だ。リザードマンは住む場所によって体質を変えるという性質があり、鉱山や洞窟に住んでいる土系のリザードマンは鉱石を主食にしている影響か、甲殻が石のように硬い。
上手く関節を斬ったり、柔らかい所を狙うにしても限度がある。恐らく刃こぼれは免れないだろう。下手したら剣が折れる可能性すらある。どうにかして剣の補充をしないといけない。
「だけど、数が……」
「なんとかなるよ。そもそもこれは討伐じゃなくて撤退だから、雑でも無力化できれば充分だ」
「逃げる支障にならないように倒す……」
「そういうことだ。セルジュ、前にみたいに俺の援護を。でも、あくまで自分の命を最優先にしろよ?」
「任せて!」
「オーケー……殺るぞ!」
カナタと互いの意志を確認しあい、目の前に出てきたリザードマン二匹と向かい合う。カナタは先ほどの台詞とともに一気に前へと飛び出して行った。
カナタは手前のリザードマンへと狙い定めたようでそちらへと目線を向けていたが、後ろのリザードマンから緑色の液体を飛ばされて瞬時に避ける。
リザードマンが飛ばしてきた緑色の液体は地面に落ちると「ジュッ」という音がして地面が溶けているのが見えた。
それを見た瞬間に僕のやることは決まった。まず真っ先に剣を補充しないと壊滅の可能性が高まる。
洞窟に来た時に乗ってきた馬車に剣が置いてあったのを思い出して、咄嗟に転送魔法の基礎である「召喚術」を使って剣を取り寄せることにした。
今回は時間がない。だから、一歩間違えれば死の危険があるけど詠唱破棄をする。普段の僕ならば絶対にやらないだろうけど、今は緊急時だ。剣を召喚出来なければ死ぬ可能性が高いのだから、詠唱破棄でも何でもできることはやらないと。
頭の中で馬車の中を思い描く。その中に置いてある剣の入った木箱を想像して、魔法を発動した。
「【召喚】!くっ!」
苦痛に声が漏れる。頭が割れる様に痛い。無理矢理詠唱を破棄した影響だろう。だけど、その痛みに耐えて魔法を完遂させる。目の前に木箱が落ちた。
本音を言うと、今すぐにでも倒れ込んで休みたい。でも、それは許されない。痛む頭と、運動することを嫌がる体に鞭を打ち、落ちたことによって壊れた木箱からこぼれた剣を拾う。
急いで近くにいた剣が折れた騎士達へと剣を配る。大声を出しながら配っていたせいでリザードマンが寄ってきたけど、剣を渡した騎士の人達が守ってくれた。
手に持っていた剣を配り終えて、木箱のところで再び剣を拾っていた時だった。カナタの焦ったような声が聞こえた。
「やべっ! 折れた!」
「カナタ!」
剣が折れてしまったらしいカナタへと剣を渡すために名前を呼ぶ。カナタは首だけをこちらに向けてくる。
その時、僕は見てしまった。カナタの真上の石の中からリザードマンが出てくるのを。
「危ない!」
手に持っていた邪魔な剣を落とし、短剣を抜いて目の前に構える。右手で短剣を持ちながら、左手の手のひらを柄の後ろの部分につける。
そして、上から出てくるリザードマンに狙いを定め、
「【抜け道】!」
魔法を発動した瞬間、手の中から短剣がなくなった。次に聞こえて来るのは破裂音。目の前でリザードマンの右肩が弾け飛んでいた。
この技はシエラさんとの特訓で身につけた技だった。転送魔法の基礎である「転送術」を攻撃に用いたものだ。基礎である「転送術」は応用である「転移術」のように別空間を移動するのではなく、現在の空間を高速で移動する。転送場所を決めてしまえばそこに辿り着くまで直線的に超高速で移動し続けるのだ。攻撃力が高すぎるので今回のような敵味方入り交じっての乱戦中だと凄く使いづらい。
「うおっ!」
カナタは一瞬だけ落ちてきたリザードマンに驚くが、すぐにその腹に剣を突き立てて放置。セルジュの下へと駆け寄った。
カナタが向かって来るのを見た僕は、先ほどの邪魔だと捨てた剣を拾いカナタへと差し出す。
「カナタ、これ」
「ありがと」
剣を渡したあと、もう一度騎士達に剣を配りに行こうとした時、突然カナタに襟を掴まれ、引き寄せられた。首が閉まって苦しい。それと同時に目の前を緑色の液体が通過する。
どうやら壁から出てきたリザードマンがいたようで、カナタが壁から完全に出きっていないリザードマンの腹を切りつけて倒していた。
落ち着く暇もなくカナタは走り出す。カナタの見ている方向を見ると、リザードマンが走って来てカナタへと飛びかかっていた。それをカナタは危なげなく躱して尻から剣を突き刺していた。戦闘中にこういうことを考えるのはどうかと思うけど、もしかしてカナタってそっちの趣味があるんだろうか……
そんなくだらない事を考えていると一人の騎士が走りよってきた。
「入口の制圧は完了した! いつでも撤退できると隊長に伝えてくれ!」
「了解!」
カナタは返事をして、すぐにアーティルさんの下へと向かった。僕もそれに続いてアーティルさんの所へと向かう。
「隊長! 入口の掃討が完了したそうです」
「わかった! 怪我人を優先して運び出して下さい! 動ける人はその援……護……を………」
アーティルさんの声が次第に小さくなっていく。その理由はアーティルさんが倒れたとか、僕が疲労で倒れたとかそういった理由ではなくもっと別の理由からだった。
洞窟の奥から腹にずんずんと響く足音のようなものが聞こえてくる。洞窟全体が揺れていて、パラパラと石の欠片が天上から降ってきた。
そして、足音を響かせていた元凶が現れる。
「ア………アース…ドラゴン……」
アースドラゴン。紛れもないこの世界の最強種の一角、『竜』だ。こんな大物が出るなんて……いや、土系のリザードマンの群れがいることからいわゆる「頭」がいるのは予想できた。けど、まさかアースドラゴンだとは思わなかった。
「こいつの……住処だったのか……!」
アーティルさんがポツリと呟く。アーティルさんの顔を伺えば、その顔には決意が満ち溢れていた。
アースドラゴンが高く咆哮する。体がビリビリと震えて存在の圧力に潰されてしまいそうだ。
「…………二人とも、皆の援護をお願い……」
「…………」
アーティルさんが剣を左に構える。
「俺が食い止めておくから」
アースドラゴンが更に大きく咆哮した。




