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異世界転送  作者: 画谷とをり
20/25

第19話

本日2話目。2話更新しています。

 

 右から木剣が迫ってくる。それを上手く躱しながら、同時に魔法の詠唱を口ずさみ、空中に魔方陣を構築する。



「ほらほら! セルジュ、隙がありすぎるぞ!」

「そん、なっ、ことっ、言われっ、てもっ」



 息も絶え絶えになりながら、シエラさんの繰り出す木剣を避け続ける。



 修練場にて修練を始めてから数刻、僕は地獄を見ていた。

 シエラさんからの提案で実戦で使うことを考えて、模擬戦をしながら魔法の練習をすることになった。

 基本的に僕は後方支援の役割だから近接戦闘をする必要はない。けど、いざ敵に近づかれたときに対応出来ないのはどうにかした方がいいのではないか、ということでシエラさんの木剣を避けながら魔法を行使することになった。


 元々僕は運動がそこまで得意ではない。人並み程度にはこなせるけど、昔から他の人より体力がなかったせいで、運動はあまりしてこなかった。



「今だ!」

「えっ」

「あっ」



 突如シエラさんが何かの合図を出す。何かというか魔法発動の合図だ。いきなりのこと過ぎて僕は反応できず、呆けた声を出してしまった。

 僕がきちんと反応して対応すると思っていたのだろうシエラさんは木剣を僕の頭目掛けて振り下ろしている途中だ。

 すると、どうなるか。



「痛っ!?」

「す、すまない」



 こうなる。

 頭にズキズキと感じる痛みから頭を擦る。恨みがましげな目線をシエラさんへと向けるのも忘れない。



「や、やはりこれは早すぎたな。最初は魔法の同時発動から練習しよう」

「はい……」



 なんで最初からそうしなかったんだ、という意味を込めながら視線を送ってみるが、シエラさんは目を泳がせるばかりだ。まぁ、この人は何か色々と考えていそうで実は直感的に動いているだけだと言うのは、短い間だけどこれまで共に過ごしてきてなんとなく分かっている。



「さて、同時発動の訓練だが、安定して四つの魔方陣を出せるようになるのが良いと私は思う」

「それはまた、どうしてですか?」

「単に四つ魔方陣があれば注意を分散出来るからだ。一つより二つ。二つより三つ。三つより四つの方が動きは追いづらくなる。飛んでいる虫を二匹追いかけろと言われるのと、四匹追いかけろと言われるのは数の差以上に労力がかかる。それと同じさ」

「やはり数は力ということですか」

「そういう事だ」



 集中力が分散すればそれだけ不意打ちの確率が上がる。ゆくゆくは十個二十個と、膨大な数の魔方陣を出してみたいと思うが、流石にそこまでの実力に至るには相応の修練が必要だ。

 なにはともあれ、今は地道な努力が必要だということである。目下最大の目標は、この戦法の前提として魔法を発動すること。魔法が発動できないのでは話にならない。


「なかなか難しいですね……そもそも同時発動の魔法を同時発動って、言ってしまえば四つの魔法を同時に発動しているのと同じなんですよ?」

「認識の違いのようなものだ。そもそも体系化された魔法は無数の小さい魔法から成り立っているじゃないか。それと同じでセルジュ君が考えた魔法も少し魔法を構成する魔法が大きくなっただけの、魔法だと認識すれば良い」



 小さい魔法が組み合わさって中くらいの魔法ができ、中くらいの魔法が集まって一つの魔法ができる。僕のやろうとしている魔法は、中くらいの魔法を集めた大きい魔法を二つ組み合わせているようなものだ。

 理解できない訳ではないのだ。ただ、今までの認識がそれを邪魔して僕にこの魔法を上手く使わせてくれない。それでも十分に活躍はできそうな具合ではあるからまだいいのだけど、これからのことを考えればもっと練度を上げていきたい。



「言ってることは分かるんですけど、やっぱり難しいですよ」

「やはり魔法は慣れが必要だな。とりあえず、毎日それを繰り返していれば自然と認識も変わって行くだろう。それに関しては今はどうしようもない。君の努力次第だ」

「はい。頑張ります」



 段々と、少しづつではあるけどカナタへと近づいている気がした。

 いずれ、カナタの隣に立つことができる日は来るのだろうか。それとも、そんなことがある前にカナタは元の世界に戻ってしまうだろうか。

 今はまだ先のことなど分からないが、カナタの隣に立てるように修練するだけだと自分に言い聞かせて、僕は頭を振った。



「よし、やるぞ!」

「いい気合いだ! ちょっとだけ打ち込んでみるぞ」

「いや、それはやめてください!」



 真剣なことを考えていたが、シエラさんの言葉でそれもかき消されてしまう。

 こんな感じの平和な日常も悪くはないなと。カナタとこんな雰囲気で旅ができたらどれだけ楽しいだろうかと。そう思いを馳せながら僕は夜になるまで魔法の修練を続けた。

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