第18話
本日1話目。2話更新しています。
「説教臭くなってしまってすまないね。よし、じゃあ気持ちを切り替えて修練場に行きましょうか」
シエラさんは口調を騎士の時のものから普段のものへと切り替える。
まだシエラさんに対しては複雑な気持ちが胸中で渦巻いているけれど、なぜだかこれからの関係は悪くはならなそうだということは確信できた。
「シエラさんの火魔法ってどういうものなんですか?」
修練場への道中、僕は気になったことをシエラさんに聞いてみる。火魔法と一口に言っても、種類は様々だからだ。
「私の火魔法がどういうものか、か。うーん、一言で言えば『派手』かしら」
「でもそれって一般的に火魔法すべてに言えることじゃあ……」
「普通の火魔法と比べても私が使う火魔法の方がより派手と言うことよ。派手にすればそれだけ相手にも威圧を与えられる。騎士としての力を示し、敵に侮られないためにも派手さは必要不可欠なの」
「なるほど」
でも、そうするとシエラさんの魔法の腕は騎士の人達が言っていたほど凄くはないのだろうか。
魔法に必要なのは、『最小限の魔力で最大限の結果を出すこと』だ。そこには派手さは必要ない。本当に凄い魔法なら、無駄を全て削ぎ落として地味なものになるはずだから。
そんな僕の内心を読んだ訳ではないだろうけど、ちょうどシエラさんがその疑問に対する答えを出してくれた。
「もちろん、派手さを無くした無駄のない火魔法もあるわよ。でも、そっちを使うのは相当な強敵が出た時だけだから、基本的に騎士達が私の魔法について噂しているのは派手な方の火魔法についてだと思うわ」
「今回はどちらを見せてくれるんですか?」
「もちろんどちらもよ! それだけじゃなくてセルジュ君の戦闘方法についても一緒に考えましょ! 」
「え、一緒に考えてくれるんですか?」
仮にも隊長格の騎士がそんなに暇なのかなぁ、ってそう言えば騎士団の活動しちゃダメだって総長に言われてたような記憶が……。
でも、それならシエラさんに僕の特訓に付き合って貰うことに申し訳なさを感じることはないか。
「一人より二人の方がいい考えが浮かぶでしょ?」
「は、はいっ」
シエラさんが自然な、けれども女性としての魅力を最大限に出したような素敵な笑み浮かべながら僕の方へと顔を向けてくる。
女性に対しての耐性のない僕はそんなシエラさんの笑顔にドキドキしてしまって、思わず顔を背けてしまった。
◇
少しだけ気まずい空気____というか僕が一方的に恥ずかしがってそういう空気にしてただけなんだけど____になったあと、僕達は修練場へと到着していた。
「まずは何から見せようかな。セルジュ君はなにか希望はある?」
「えーと、戦闘に活かせる技術が掴めそうな魔法……攻撃系の火魔法が見てみたいです」
「なら最初は私の十八番の魔法からやるわね」
「はい、お願いします」
トントン拍子に話が進んでいく。時間がないわけではないが、早い方が何かと有利なのは大抵のことに対して言える。魔法だってそうだ。
シエラさんは早速魔法の準備に取り掛かっているようで、魔力が高まっていくのを感じる。肌にチリチリとした刺激が走る。え、魔法の規模もしかして予想以上に大きい……?
若干不安になりシエラさんから距離を取る。その間もシエラさんは魔力を高めることに集中していた。
魔力が高まりきったときに、シエラさんが口を開く。
「【燃え盛る炎】【空間を焼き尽くす】【苛烈なる裁き】【我が意志と共に高まれ】【全てを焦がす灼熱】」
(詠唱節多くない!? え、これ修練場消し飛ぶんじゃっ!?)
基本的に節が多いほど魔法の規模や威力は高大きくなる。だから、シエラさんの放とうとしている魔法がとんでもなく強いものなのだと思った。けど、シエラさんの詠唱によって浮かび上がった魔方陣を見てみると、どうやらシエラさんが言っていた『派手さ』を演出するための節を入れているのだと分かって安心する。
「【焦土を生み出せ業火の剣】『烈火炎尽剣』」
光の暴力が目を襲う。真っ赤な火は修練場全体を燃やし尽くさんばかりに広がり、シエラさんが持つ『火の剣』を振り下ろした瞬間、さらに火の勢いが増す。
「凄い……」
僕の口から漏れたのは感嘆の言葉だった。凄い以外の言葉が思い浮かばない。
魔法の効果時間が終わり火が空気に散っていく。シエラさんは僕の方を振り返って、無邪気な笑顔で聞いてくる。
「感想は?」
「もう、ただ凄いとしか言えないです! 魔力の操作も精密で、派手な演出をするための魔法詠唱もきちんと構成されていました」
「ふふっ、ありがとう。それで、セルジュ君はなにか自分の魔法に使えそうな技術は思いついた?」
「いえ、流石に今のだけだと……」
「それもそうよね。じゃあ今から私が使える火魔法を見せられるだけ見せるから、何か思いついたら言ってね」
「はい」
そこから先は感動と驚愕の連続だった。
地面に描いた魔方陣から火柱を出す魔法。
火の粉を爆発させる魔法。
火で動物を作る魔法。
まだまだたくさんあるが、兎に角とても参考になった。
実を言うと僕は転送魔法以外の魔法を実際に見たことがなかった。だから今回ここでこの国最高峰の火魔法を見れたことは本当に幸運だ。
「どう? なにか思いついた?」
「一つだけ、できたら面白そうなものは思いつきました」
「言ってみて」
沢山の魔法を見せて貰ったにも関わらず、僕が思いついたことは一つだけしかなかった。しかも、僕が使える魔法の応用でできそうな事だ。
「シエラさんがやっていた魔方陣を地面に描いて、そこから火柱を放つ魔法を見て思いつきました。僕の使う転送魔法は、実は魔方陣そのものを転送することもできます。それを利用して、『魔方陣を転送する魔法』と『物質を転送する魔法』を組み合わせることができるんじゃないかな、と。僕は護身術として短剣術を習っています。その中には短剣の投擲の訓練も含まれているので、短剣を投げるのは比較的に得意なんです。それを軸に戦闘方法を確立させたいと思っていて、今思いついた魔法を使えば画期的な戦闘方法が生み出せるんです」
解説に段々と熱が入る。これを使えるようになれば、相当に強くなれる。カナタの隣に立って役に立つことだってきっとできる。
「例えば?」
「まず僕が誰かと敵対しているとしましょう。僕は最初の攻撃として短剣を投擲します。でも、その短剣に当たるのは弱い相手か油断している相手だけだと思うんです」
「それは、確かにそうね」
「でも、この方法を使うと強い相手にも短剣を不意打ちで当てられるんですよ」
「一体どうやって?」
「相手が避けた短剣を、『相手に向けて』転送するんです。つまり、投げた短剣が僕の手元に帰って来るようにできます」
言ってしまえば『操作のできるブーメラン』のようなものだ。しかし普通なら短剣がブーメランのように戻ってくると考えることができる人間はなかなかいない。
「なかなか面白い魔法ね。でも、その魔法はそれだけじゃないんでしょ?」
「はい、なんでこんなに有用な魔法を僕は思いつかなかったんだって少しだけ後悔してます。この魔法、『転送魔方陣を転送する』ことが重要なんです。それは言ってしまえば、魔方陣を『どこにでも一瞬で描ける』というのと同義なんですよ。この魔法を使えば、相手の周りに無数の魔方陣を転送して、無数の短剣を放つこともできます!」
この魔法の強い所は、知っていてもなかなか対策が出来ないところだ。単純な物質による攻撃が故に、相手は避けるか弾く、または撃ち落とす等の手段しか取り得る方法がない。
仮に全身に金属の鎧を纏っていたとしても、ある方法で短剣の投擲速度を上げてしまえば生半可な鎧では貫通してしまう。だからといって鎧を固くすれば重量が確実に増して身動きが取れなくなることは間違いなしだ。
「投げた短剣を延々と相手に飛ばし続けることもできる訳ね。後は、もしかして魔法も転送できたりしちゃう?」
「あ、言われてみればそうか! できますよ! 凄い、これとんでもない魔法なんじゃないですか!」
「きちんと操作できたらの話だけどね」
「あっ……」
舞い上がっていた気持ちがシエラさんの言葉で一気に冷めていく。この魔法、よく考えれば『二つの魔法を合わせて一つの魔法にしている』訳だ。つまりは、制御に必要な集中力も二つの魔法を同時に発動させるのと同じか、もしくはそれ以上になる。しかも、それをいくつも発動するとしたらとんでもない化け物のような集中力が必要だ。
「セルジュ君なら大丈夫よ。私は君の魔法の腕は見たことがないけど、相当な研鑽を積んできたのだろう事は分かるわ」
「でも、僕は落ちこぼれで……」
「自分を卑下しない! 強くなるんだろう! カミヤ君の隣に立つのだろう! なら弱気な姿勢は見せるな!」
「は、はい! すいません!」
突然変わったシエラさんの口調に思わず姿勢を正して返事をする。
「折角思いついた魔法も使えなければ意味がない。ということで、今から使いこなすための訓練だ」
「えぇ!? 今からですか!?」
「今からやらずにいつやるんだ! もっと向上心を持て。そんな弱気ではカミヤ君には追いつくことも出来ないぞ!」
その言葉に僕の中の何かが揺れ動いた。
カナタに追いつきたい。カナタの隣に立ちたい。カナタのために何かしたい。
だから、強くなりたい。
僕は覚悟を決める。今から訓練し、出来ることなら今日中に魔法を使えるようにしてやる!
もう僕は『落ちこぼれのセルジュ』じゃない。『挑戦者のセルジュ』だ。
「シエラさん、よろしくお願いします!」
「あぁ! どんと来い!」
その言葉を合図に修練場での地獄の修練が始まった。




