第14話
前回更新できなかった分です
日が暮れて空が闇に染まる頃、ようやくバクザムへと入る門が見えてきた。
ゴブリン達と戦ったことによる精神的な疲労がここにきて響いてくる。馬上で若干フラつきながらも、何とか帰ってこれたことに安堵の溜息を吐いた。
門が閉まっている心配もあったのだけど、どうやら開いているようだった。そしで嫌でも視界に入ってきてしまう、門の前で言い争っているなんだか見覚えのある二人の人物。
「──うして彼らだったんだ! 騎士団になら着いてきてくれる人もいただろうに!」
「緑軍は信用できないし、それにどこの隊も大型遠征中でかってに引き抜きなんてできなかったんだよ」
「だからって、人が集まるまで待っていれば」
「そんなことしていればアーティルの命が危ないと思ったの! わかってちょうだい……」
「だからって! 彼らじゃ、あの群れは!」
アーティルさんはどうやら僕とカナタのために怒ってくれているらしかった。ちゃんとした常識を持った人で良かった。
「俺達では無理ですか?」
「「「!?」」」
カナタがアーティルさんの言葉に横から答えると、騎士団の面々も含めて全員が驚愕の眼差しでこちらを見てくる。
「カナタ君……生きていたのかい……?」
「えぇ、なんとか助かりました」
「カミヤ……君………」
まるで幽霊でも見るかのような目でカナタを見つめるシエラさん。その姿を見ていると、治まった筈の怒りが沸沸と湧き上がって来るのを感じた。
「アーティルさんも、無事に帰って来れて良かったですね」
「あぁ……おかげで……」
本当なら怒りに任せてシエラさんに罰を与えたい。だけど、囮にされたカナタ本人がそこまで気にしていないために僕が怒るのも筋違いな気がしてくる。
「囮に使ってしまい申し訳なかった」
「アーティル!」
アーティルさんが突然に頭を下げて謝ってきた。
なんで、という声にならない声が漏れる。
カナタを囮にすると判断したのはシエラさんだ。ならシエラさんがカナタに謝る道理こそあれど、運悪く嵌められて命の危機に瀕していたアーティルさんが謝る必要はない。
「シエラなりに考えがあったんだ。こんなことを言っても仕方ないと思うが、シエラを許してあげてくれ」
許すことなどできない、と僕が言ったところで無駄だろう。これはカナタとシエラさん二人だけの問題だ。
僕は自分から巻き込まれに行ったし、アーティルさんも巻き込まれざるを得なかった。一応口出しする権利はあるけど、それで今回の件が解決できるとは思えない。
「頭を上げてくださいアーティルさん。あの状況ではそうするしかなかったんですから、充分承知しています」
「カミヤ君……」
アーティルさんが頭を上げ、カナタを真っ直ぐに見据える。その光景の端で、シエラさんが眉を下げて申し訳なさそうにしているのが見える。
「でも、セルジュには謝ってください。囮として使うつもりはなかったかもしれませんが、結局巻き込まれてしまったので。まぁ、本人は他のことに怒っていますがね」
(え、僕!?)
突然に自分へと振られて戸惑ってしまう。僕はただカナタを助けるために自分から巻き込まれただけなのに、と。
「申し訳なかった。君の大事な親友を我々のために利用してしまったことを深く謝る。私にできることならなんでもしよう。だから、許してくれないだろうか」
シエラさんは僕の前に来ると、先ほどのアーティルさんのように深々と頭を下げる。許せはしないが、多少は溜飲が下がる。
心もそれなりに落ち着いたところで、僕は一度カナタの方を横目に見てから、
「……別に、奏多が許すって言っているんですから、いいんじゃないんですか?」
「ツンデレかよ」
多少ツンケンとした態度での受け答えになってしまった。僕個人としては許していないけど、カナタが許しているのなら僕はもう何も言わない。あと、カナタがなにか言っていたのが聞こえたけど聞こえなかったことにしておこう。
「ただし、なんでもするって言いましたよね。なら、僕から二つ、要求させていただきます」
指を二本立てて、シエラさんの顔の前に突きつける。
シエラさんは僕の答えを聞いて緩めていた顔を途端に引き締め直す。僕がなにか非常識な要求でもすると思ってるのかな?
「宿を提供して下さい」
この言葉がよっぽど予想外だったのか、シエラさんはポカンと口を開けて驚く。
カナタと僕の命を危険に晒したんだから、もっと大きな要求もできる。だけど、あまりに大きな要求をすればこの人達とこれからも関わらなければいけなくなりそうで嫌だ。できるなら関係をスッパリと絶ってしまいたい。
「情報屋で物を受け取った後、宿を探そうと思っていたのですが、こんなことになってしまい日も落ちてしまいました。今から探すのでは大変なので、最低でも寝泊まりができる場所が欲しいのです」
貴重な要求を宿などに使うのは些かもったいないと思わないでもないけど、僕には今から宿を探す気力が一切湧かなかった。とりあえず今は寝たい。死んだように寝て今日の疲れをとりたい。何よりもその気持ちが勝っていた。
「そ、そんなことでいいのか……?」
戸惑ったシエラさんの両腕は、多頭の蛇のように別々に荒れ狂う。それを見ても何も感じる事がないくらいには、今の僕は疲れきっていた。
「どうするんですか? 僕の気が変わらない内に、できるかできないか言ってください」
「わ、わかった。なんとかしよう」
宿を取るという約束をシエラさんに取り付けると、カナタが親指を立ててこちらにそれを向けてきた。
(どういう意味だろう? とりあえず同じように返しておけばいっか)
半ば適当気味にカナタと同じ所作する。そろそろ疲労が限界だ。切実に寝たい……
「それで、もう一つは?」
「それは……後にしておきます。すぐにできるわけではないので」
「そうか……」
後回しにしたのは、本当にすぐにはできない事だからという理由も勿論あるのだが、8割は今はめんどくさいし眠いからという理由だったりする。
「隊長! 総長から……」
「……総長から呼び出しだ……カミヤ君とセルジュ君も一緒に来てもらっていいかな」
「わかりました」
「………ハッ、寝てた!」
途中の話を聞いていなかったせいでなにがなんだかわからないけど、とりあえずシエラさん達について行くことになったようだった。
先に宿に行って寝ちゃ駄目ですか?
辿り着いた場所は中央の城だった。
門が内側から開いてシエラさんやアーティルさんが中へと入っていく。
「え! もしかして入れるの!?」
「そうなんじゃないかな?」
カナタへの受け答えもなんとなく適当になってきた気がする。
結果として、城には入れなかった。代わりにその横にある大型の建物に連れてこられた。
「もしかしてここ……騎士団本部……」
「え!? ここが!?」
隣でカナタが凄く喜んでいるのとは対照的に、僕はもう眠気が酷すぎてボーッと立っている事しか出来なくっていた。
ほとんど寝たような状態でカナタの後ろをついて行くと、立派な扉の前に到着した。そして扉の両側にいた二人の騎士が頑丈そうなその扉を開ける。
その瞬間、一気に目が覚めた。
空気が変わる。押しつぶすされそうな程の重圧が身にのしかかり、顔だけでなく身体まで固くなる。
部屋の中に敷いてあったカーペットの上を歩いて進み、奥に座っていた人物の前へと辿り着く。
壇上の手前で止まったシエラさんとアーティルさんが、右足を床に付けて跪いた。
「ダオス総長。シエラここに参上しました」
「同じく、アーティルここに参上しました」
カナタが何故か突然跪いた。僕らは別にやらなくてもいいんじゃないだろうか。それに、僕は一応貴族な訳だし、簡単に跪くわけにもいかなかった。




