表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転送  作者: 画谷とをり
14/25

第13話

 

(ここからどうすれば……ッ!)


 焦る僕とは対照的に、カナタは寝転がったままボーっとしている。今起きた事が理解し切れていないのかもしれない。

 そんな時、カナタが突然呟いた。


「流石だな。シエラさんは」

「え?」


 僕の驚いた声にカナタも驚いている。もしかして、カナタは僕がいることに気づいていなかったのかな?

 それは置いておくとしても、シエラさんが流石ってどういう事だろう。カナタは一応シエラさんに見捨てられたはずなのに、平気そうな顔をしている。



「ちゃんと大切なものを失わない判断ができてさ。それって結構難しいことだからさ」

「こ、こんな時に何言ってるの!?」


 確かに、そう言われればそうだろう。だが、僕としてはシエラさんの行動には一切賛成できない。実際に僕がシエラさんの立場になったらどうするかは分からないが、カナタを見捨てることはなかったはずだ。



「やっぱりこういう展開になっちゃうよなぁ。もう少しシエラさんの好感度上げとくべきだったかな?」

「やっぱりって……シエラさんが見捨てるって気付いていたの!?」


 どうしてそれが分かっていながらカナタはシエラさんについて来てしまったんだ。



「そんなこともあるかなぁって考えてた。初対面の一般人を連れていくなんて普通はしないからね」


 カナタがそう言いながら、体を起こし胡座をかく。いや、そんなことしてる場合じゃないよね!?


「それほどまでに、アーティルさんを救いたかったんだろうね」


 大切な人を救いたいって気持ちは、もちろん僕も分かる。


「だ、だからって……!」

「さて、与えられた仕事はきちんとこなしますかな」

「え?」


 涙が溢れて滲む視界の中、カナタがゆっくりと立ち上がるのが見えた。何をするつもりなのか……一応察しは付く。


「シエラさんは、俺達に足止めを任せたんだ。騎士団の人達の期待に応えられる仕事をしなきゃな。それに、ちゃんと帰還できたか確認しなきゃだしな」

「カナタ……」


 なんで、カナタがそこまでシエラさん達に協力しようとするのかは分からない。僕はあんな人たち放っておけばいいと思うし、カナタを見捨てたんだから全滅しても当然の天罰だと思う。

 でも、カナタはそんなシエラさん達を救いたいと言う。底抜けのお人好しなのか、何かカナタにも思うところがあるのか、僕には何も推し量れない。けど、ただ一つだけ言えるのは今この場所でカナタを死なせてはいけない、死なせたくないという事だ。



「セルジュ。これに硬化魔法ってかけられるか?」


 硬化魔法について前話したのを覚えていたのか、カナタは補助を願ってくる。僕は覚悟を決めて、カナタを精一杯助けることを決めた。

 服の袖で目元を拭う。視界は途端に良好になり、カナタの顔がはっきりと見えた。


「初歩的なのであれば」

「充分だ。運の良いことに、やつらは小さい。技量で劣っても性能で補える」


 カナタがそう言うのは、ゴブリンがどれほど手強い敵なのかを知らないからだろう。でも、僕はそれに水を差すようなことはしない。カナタにも何かしらの勝算があるからこそ、ここで戦うことを決めたのだろうから。


 敵は剣士種(ナイト)九体と弓士種(アーチャー)五体。



「いくよ。 【何者にも負けぬ芯】 【大樹の様に硬く太くしなやかに】」


 詠唱を始める。今回は時間がないから効果は多少落ちてしまうけれど、略式で行くしかないだろう。本来は5つ以上の文を繋げなければいけない硬化魔法を2文で行使する。



硬化プロテクト!」



 カナタも持っている『シナイ』が青白く、そして黄色く輝き、刀身が光に覆われる。無事に魔法はかかったようだ。


「セルジュは自分の身を優先で、時々援護してくれ!」


 カナタがゴブリンの群れに向かっていく。背後からそれを見送る僕は、援護のための魔法の詠唱を始めようとしてやめる。僕の技術だと下手をすればカナタに魔法が当たってしまう可能性があるからだ。

 何もできない自分が不甲斐なくて、何かできることはないかと考えるが、何も思いつかなかった。


 僕がそんなことをしている間にカナタは、すでに敵の群れにぶつかろうとしていた。後ろにいた弓士種のゴブリンの一体が矢を放つ。放たれた矢はかなり低い位置を通っていたので、カナタはそれを飛び上がって回避する。


 その時、ふとカナタを援護する方法を思いついた。この方法ならば普段から練習していることもあって、カナタに当たることはないはずだ。僕は、腰のベルトから短剣を抜いて構える。


 カナタは飛んだ状態のまま敵の群れのど真ん中に突っ込んで暴れている。そして、一瞬のうちにゴブリンを三体も倒してしまった。


(凄い……)


 カナタの活躍に驚愕していると、視界の端で弓士種のゴブリンが弓を引き絞っているのが見えた。それを見た僕の行動は速かった。



「危ない!」



 咄嗟にカナタに叫ぶ。そして、叫ぶと同時に右手に持っていた短剣を投げつける。

 僕は弓士ゴブリンの後ろに位置していたため、ゴブリンに気づいて防がれるようなこともなく、短剣は綺麗にゴブリンの頭に突き刺さる。



「ありがとう!」



 想像以上に上手くいったことに僕はしばし呆然としてしまう。カナタがお礼を言ってくるが、あまり耳には入らなかった。

 そしてすぐに気を取り直す。今の攻撃のせいでゴブリン達の注意が僕にも向いてしまったのだ。


 僕にゴブリンの注意が移ったのを見たカナタはすぐに攻勢に出た。四体残っているゴブリンのうちの一体を右足で蹴り飛ばしながら倒す。



「よし! 逃げるぞ!」

「え!? 残りは!?」

「充分時間は稼いだ! 既に馬に乗って走っているはずだ」

「わ、わかった!」


 そう言って、僕は先に走り出しているカナタの後を追う。ゴブリン達は多くの仲間を殺したカナタに怯えているのか追っては来なかった。




 走っていると前方に螺旋階段が見えた。

 階段を登りきった後、来た時の道を辿って外に出る。外は夕暮れだった。


「あ、馬が」


 洞窟を出て右側の木に、乗ってきた馬が一頭縛られていた。


「シエラさんが残してくれたんだろうな。最悪セルジュだけでも生き残れるだろうと」

「なんで一頭だけ……!」

「だって、俺は馬に乗れないもん。残したとしても一頭だけでしょ」

「あ……操縦できないんだったね」


 そういえば、カナタが馬に乗れないことを忘れていた。家に帰ったら教えてあげるのも良いかもしれない。


 来た時と同じように、僕はカナタの荷物を乗せて馬に乗り、カナタは走ってバグザムに向かう。



「カナタって……やっぱり強いね……」

「え? なんで?」

「だって、騎士団でも手こずったゴブリンを、たった一人で蹴散らすなんて」


 人間よりも身体能力も高く、生物としての格が上なはずの魔物をあそこまで圧倒的に倒すのは素直に凄い。


「あー………セルジュ、お前戦闘経験とか無いだろ」

「え? うん。無いけど……カナタはあるの?」

「え? あ、いや……予習ぐらいは……」


 予習って……そんな状態で戦ってたのか。改めてカナタは凄いと思う。戦闘経験もなしに初戦闘でゴブリンの群れを倒してしまうなんて、まるで英雄の所業だ。

 でも、その考えは次に出てきたカナタの言葉で否定される。


「ゴブリンの大軍ぐらいだったら、シエラさんでも簡単に全滅させられるよ」

「だって、さっき」

「場所が悪かったんだよ。あそこは集団戦するには狭すぎる」

「あ……」


 確かに。人間の一番の強さは数の多さと、連携によって個々の力を足し算して発揮する力だ。狭い場所では隊列すら組めないし、個々の力で劣っている分……いや、騎士の実力は詳しくはわからないから劣っていると決めつけるのもダメか。

 結論としては、今回は状況が悪かったのだ。



「シエラさんも、俺みたいに一対多戦闘ができたなら、ゴブリンなんか相手にもならないよ」

「まさか……そこまで考えてシエラさんはカナタを……」

「いや、それはないと思う」

「え?」


 ということは、なに、あれなの? シエラさんは本当にカナタを見捨てたってこと?



「だって、俺が戦っているところなんてシエラさん見てないしね。本当にただの囮としてだったはずだよ」

「………」



 結果として僕たちは生き残れたが、やはりシエラさんのことは好きになれそうもない。むしろ嫌いだ。カナタはそんなに気にしていないみたいだけど……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ