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異世界転送  作者: 画谷とをり
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第12話

 レクスさんの死から数分、僕達は洞窟の中を隈無く探し回り、ようやく先へ進む為の通路を見つけた。


「まさか、隠し階段があるとは思わなかったよ」


 そう、魔法陣のある場所へと行く時に使った階段、実はまだ続いていた様なのだ。幻影を見せる魔法などもかかっていたせいで見つけるのが遅くなってしまった。


「さぁ、早く行こう。こうしている間にもアーティルとカミヤ君がどんな目に遭っているか分からないからね」


 シエラさんの一言で全員がまとまって動き出す。罠にも気をつけて、慎重に階段を下っていく。

 すると、遠くの方から微かに人の足音のようなものが聞こえてきた。


「止まれ。全員口を閉じて、音を出さないでくれ」

「……」


 シエラさんの真剣な表情に思わず緊張が走る。無言でいること暫く、今度は先ほどよりもハッキリと音が聞こえて来るようになった。


「やはりか! お前ら、聞こえたな? アーティルなのかカミヤ君なのか、それともモンスターかは分からないがここからはより警戒を怠るなよ」

『はい!』


 シエラさんの命令に全員で揃って返事をする。有無を言わせない感じがした。

 僕にだってきっと何か出来るはず。戦闘はあまり得意ではないけれど、カナタを助けるためだったらどうにかして見せる。

 そんな決意を胸に、音の発生源へと走って向かう。


「ッ! お前ら避けろ!」


 突然シエラさんが叫んだ。次の瞬間、騎士の1人の肩に矢が突き刺さる。

 それを見て、僕は内心毒づいた。


(弓士か! こっちには遠距離攻撃の手段が殆どないって言うのに!)


 シエラさんを含め、騎士団の人達はみんなすでに臨戦体制だ。僕も護身用のナイフを手に持って構える。


「グギャ! グギャギャ!」


 敵のモンスターは、ゴブリン。それも職業持ちの上位種。数は10匹。かなり不利な状況だ。

 モンスターというのは総じて身体能力が高い。知能以外で言えば人間など足元にも及ばない。今の状況は言ってしまえば、鼠が猫10匹に包囲されたも同然の状況な訳だ。


「かなり、不味いな……」


 騎士の1人が呟く。剣を構えてはいるものの、その手には明らかに力が入ってなく、顔色も悪い。


「弱音を吐くな! 死んだらそれで終わりなんだぞ! なんとしてでも生き残り、アーティルを探し出すんだ!」


 こんな時に限って、というよりかこんな時だからこそなのかもしれないが、シエラさんに対しての嫌悪感が湧いてくる。

 アーティルを探し出す、とシエラさんは言ったが、そもそも僕もカナタも本来この件には関わりがなかった。それなのに無理矢理連れて来られた挙げ句、いなくなったカナタの心配はせずにアーティルさんの心配のみ。騎士というのは、弱きを助け、強きを挫くものだと思っていたが、僕の騎士への理想もいつの間にか霧散してしまった。

 それでも、今はこの場を切り抜ける事が最優先だ。カナタを助けるにしたって、自分が生きていなければ助けることなどできないし、なんとしてでも生き残らないと。


「来るぞ!」


 シエラさんの号令と共に敵が動き出す。

 敵はまず、シエラさんを狙うようだった。紅い鎧は派手で目立つし、一番強そうなシエラさんを潰せば楽になると考えたのかもしれない。


「ハッ!」


 シエラさんに向かって行ったゴブリンは剣を持っていたから、恐らく職業は剣士だろう。そんなゴブリンをシエラさんは一太刀の下に切り伏せた。

 上段に構えた剣を、敵の動きに合わせて最も力が入るように振り下ろす。足を動かし、重心を前に傾けながら放たれたその一撃は、ゴブリンを簡単に真っ二つにした。敵の遺体には、シエラさんへとかなりの速さで突っ込んで行ったのも相まって、かなりの力がかかったのだろう事が分かる切断面が出来ていた。これはもはや、切るというよりは潰すという方がしっくりくる。


「セルジュ! 惚けているんじゃない! 死ぬぞ!」

「ッ! 分かってますって!」


 シエラさんに注意されるまでもなくそんなことは分かっている。目の前まで迫っていたゴブリンが剣を振り下ろしてくるのに合わせてナイフを突き出し、剣の軌道を逸らす。そして、相手が体制を崩した所で蹴りを入れて後ろへと下がる。

 今回は上手くいったが、本来僕はナイフの扱いは上手くないので内心では戦々恐々としていた。


「クソッ! こいつら段々増えてるぞ!」


 騎士の1人が苛立たしげに声を上げる。実は先ほどからゴブリン以外にもモンスターが増えて来ていた。奴らの後ろから援軍の如く、様々なモンスターがやって来たのだ。


「隊長! このままじゃ全滅します! 一旦退きましょう!?」

「くっ、だが……いや、全滅してしまえば、助けることもできない、かっ!」


 鍔迫り合いの如く、剣と剣でゴブリンと力比べをしていたシエラさんは、一気に剣を押し込んで敵を弾き飛ばす。


「お前ら、退却___」

「シエラ!」

「アーティル!? それに、カミヤ君も」

「カナタ!」


 突然、敵の後ろから声が聞こえ、そちらを振り向けばカナタの姿があった。その隣の男性は、先ほどシエラさんが呼んだようにアーティルさんなのだろう。

 モンスター達はまさか後ろから攻撃されるとは思っていなかったのか、その不意打ちに対応出来なかった。アーティルさんがモンスター達に乱雑に剣を振り回すして傷を付けていく。その後ろをカナタが追走する形だ。そして、まだ突然の不意打ちに対応出来ていないモンスター達の中を潜り抜けて、アーティルさんとカナタは僕達と無事合流を果たした。


「よし! 全員退却!」


 イリアの号令と同時に、全員が全速力で身を翻して逃走を始める。当然だが、モンスターも追ってくる。


「アーティル、無事で良かった」

「シエラ、どうしてここだとわかったんだい?」

「あんたの頭に吐かせた」

「相変わらず野蛮だなぁ。下手すりゃ処罰されるだろうに……」

「そんな事いいから、今は逃げるわよ」


 モンスターに追われていると言うのに、2人は呑気に会話を始めた。今がどういう状況だが分かっていないのか?

 全員が死にものぐるい、いや、2名は違うが、皆本気で走っている。それでもやはりモンスターとの身体能力の差は埋めがたく、段々とモンスター達が迫って来る。


「このままじゃ……!」


 誰かがそう呟きを漏らし、全員に緊張が走った時、突然シエラさんがカナタに話しかける。


「カミヤ君!」

「はい、なんでしょう?」

「すまない!」


 何をするのかと思い見ていると、なんとシエラさんはカナタに足を引っ掛けて転ばせた。


(は?)


 何をしているのだろうか。シエラさん、いや、シエラはカナタをここで囮にするつもりなのか? 頭がおかしいのではないのだろうか。


「おぶっ!」

「奏多!」


 僕は慌ててカナタへと駆け寄る。モンスター達は標的をカナタと僕に定めたようで、僕達はモンスターに囲まれてしまった。





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