表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転送  作者: 画谷とをり
1/25

プロローグ


 生まれてこのかた才能と言われるものを自分に感じたことはなかった。基本的に何をやっても中の中。よくて中の上。そんな僕が、唯一誇れる特技、それが転送魔法だった。


『闇神よ 私の願いを聞き給え』


 転送魔法発動の為の詠唱を詠い始める。体内で魔力が膨れ上がるのを制御して、掌から目の前の空間へと発するように誘導する。


『表裏一体の理 光あるところに闇はなく 闇なきところに光なし』


 正直言うと、僕は詠唱が嫌いだ。なんでこんなに面倒なことを一々やらないといけないのかと、常日頃から思っている。

 ただ、これをやらないと何故か頭の中に具体的な魔法のイメージが浮かべられなくなる。


『彼方と此方を結ぶ時 相反する物は混ざり合う』


 鍵言(キーワード)と呼ばれる単語さえ詠唱の中に入っていれば、理論上は魔法は発動するそうだ。僕も鍵言だけを言って魔法を発動させてみたいが、そんな事ができる人物は世界広しと言えど、両手の指で数えられるほどしかいないだろう。


『今ここに契約を結び 魔力を代償として願いを叶え給え』


 詠唱を唱え終わる。体内の魔力の疼きは既に収まっていて、僕の目の前の空間に膨大な魔力が渦を巻いて留まっている。

 口の中が乾いてきた。なるべく別の事を考えて緊張を誤魔化そうとしていたが、それも限界だった。手に汗が滲み、足が震える。瞬きするのも忘れて、魔法が失敗しないように魔力が暴走しないように細心の注意を払って制御する。

 ここまでは、比較的簡単にできる。問題はこの先……僕はいつもこの先で魔法に失敗する。


『開け そして移せ 虚無の門』


 目の前の魔力が急激に膨れ上がり空間に溶けていく。属性神と呼ばれている神へと捧げられているのだ。


「ぐっ!」


 それと同時に僕の中の魔力もそれに引っ張られて持っていかれそうになる。それをなんとかギリギリのところで持ちこたえる。

 魔法というのは魔力が多すぎても、少なすぎても失敗する。と言っても、この言い方だと多少語弊がある。

 基本的に魔法と言うのは魔力を多く込めれば込めるほど強力になっていくのだが、詠唱の最初にどの程度の魔力を込めるかを決めるのだ。そのため、それに合わせて多くもなく少なくもなく、ピッタリとはいかないまでも丁度いい量の魔力を注がなければならない。だから、ここで魔力を持っていかれると魔法は失敗する。


「っ! まだっ、なの、かっ!」


 苦しさに息も絶え絶えになってきた。心なしかいつもより上手く行っている気がするので、今回ばかりは無理をしてでも諦めたくない。


「まだ大丈夫! いける! 大丈夫!大丈夫!大丈夫!」


 自分を鼓舞しながら、なんとか魔法を維持する。目の前の空間には白い光の粒子が段々と集って来ていた。


(今回はいける!)


 なんの根拠もなかったが、確信に近い感情を抱いた。今まで感じたことがないほどの手応えを感じるのだ。これで失敗したならば、僕はこれから何年経ってもこの魔法を満足に使えないだろう、と思う程に今日は上手くいっていた。

 そして、急速に光が収束する。


「えっ」


 突然の出来事に動揺した瞬間、


「うわっ!」


 急に収束した光が弾け、煙と共に辺りへと広がる。

 吹き飛ばされた僕はすぐさま受け身を取って、『ババッ』と言う音が聞こえて来そうな程の速度で顔を上げた。あまりにも勢いよく顔を上げたせいで、首を捻って痛い。


(まさか……失敗……?)


 心が失意に包まれかけた時、煙の中で何かが動いたのが分かった。


(失敗じゃない!? てことは、僕は初めて生物転送に成功した……!)


 ジワジワと心の内から熱いものが込み上げてくる。苦節10年、転送魔法を扱うクルジオ家の分家の長男として生まれ、苦労しながら毎日努力し、何度となく失敗して涙を流し、それでもいつか成功すると信じ続けたから辿り着けた成功だ。ついつい、泣きかけてしまうが、転送に成功した生物をきちんと確認するのが先だ。涙を流すのはいつでもできる。

 すぐさま立ち上がり、煙の中へと歩を進める。

 近づく事に輪郭がはっきりとしていき、やがてそれが『人』だと言うことが分かる。


(人間!? まずい!)


 見も知らぬ他人を許可もなく急に呼び出す、それは言ってしまえば拉致だ。他人を拉致してしまったことに血の気が引いていく。

 ゆっくりと、慎重に人影に近づいて行く。最初は煙で見えなかったが、段々と服や顔を見えてきた。

 大体の煙が散った時、煙の中心地にいたのは……


「____俺?」


 こちらを見て何故か「俺」と呟き、驚愕している僕と同い年くらいの少年だった。

 彼の顔を見た時、僕はこれから何かとてつもないことが起こる予感がしていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ