レティ君は気がつかない
ふと気がついた時、そこは見知らぬ天井だった。
僕ことレティリシア・ガルガロスはしがない侯爵家次男の少年である。10才でありながらすでに婿入り先は決まっており、一つ年上の公爵令嬢・カルロス・ファティマのとこだ。なぜ名前が逆にならなかったのかと非常に不思議であるが、日本という魔術ではなく科学の発達した国の記憶がある日ポッと降って沸いた今ならわかる。ここは変なところで立場が男女逆転の世界だからだ。女っぽい名前の男や男っぽい名前の女はたくさんいる。
女は女らしく強く強かに、男は男らしく繊細な包容力を求められる。
僕の婚約者であるカルロス嬢は非常に男らしい素晴らしい少女である、11才とは思えない160を越える身長に結い上げたハニーブロンドの髪がほっそりとした首筋にかがる姿は幼いというのに非常に色っぽく、鍛えている最中の体はそれでも僕を軽々と持ち上げることができる。男としての矜持などこの世界ではあってないようなものだ。
「レティ」
「かるろす、ひさしぶりですね」
「あぁ、久しぶりだな。相変わらず私のレティは可愛いことだ」
130少ししかない僕が勢いをつけて抱きついたところで、身長差と鍛え方の違いから軽々と受け止められてしまう。ふわりと薫るラベンダーとカルロスの体臭に力が抜けほぅと息を吐いた。
「きょうは、どれほどこちらに?」
「お茶を終えるまでは居られるよ可愛いレティ。だから沢山その声で囀ずっておくれ」
「はい、かるろす。たくさんおはなしいたしましょう」
どういうわけか未だに舌足らずな話し方をしてしまう僕は長男や妹だけでなくメイドたちからも馬鹿にされている。これでも毎日発生練習をしているというのに一向に発音がよくなることはない。それでもカルロスは聞き取りにくいだろうに僕と話をしてくれる。これで惚れないというほうが可笑しいだろう。
ガーネットの瞳に優しく見つめられながら、そうしてお茶の時間もすごし、僕は久しぶりに他人との会話を楽しんだのだった。
***
15才になった。
僕ことレティリシアの発音はあまり改善されてはいない。それでも多少聞き取りやすくなったし魔術も問題なく発動できるのでいいだろう。
15才になり一定以上の魔力を持つものたちは学園に入ることを許可される。許可されるといっても最早入学は当然のことであり、何よりカルロスがすでに入学しているというのに僕が入学しないということはないだろう。兄や妹からは僕みたいなやつが学園でうまくやっていけるのかと揶揄されるが、兄より魔術操作は上手いと同じクラスのカルロスには誉められるし、妹よりも知識は沢山あるから気にすることはない。
そういえばカルロスと同じクラスには、カルロスを右腕候補にしている王子がいるらしい。僕のカルロスと日中一緒にいるだけでずるいのに、卒業後も一緒にいるかもしれないなんてなんてずるい人なのだろうか。
しかしながらどうも最近王子は同じクラスでカルロスより弱くてカルロスより成績が低くカルロスより地位も低い少女に夢中らしい。名前は確かキャメリア・ヒロインだった気がする。伯爵令嬢らしいがカルロスに次ぐ実力者らしく、どうやらその令嬢を右腕にするという噂もあるくらいに、王子はその令嬢と親しいらしい。
だが王子はわかっているのだろうか、カルロスは数多の騎士を排出しているファティマの若手騎士であり、カルロスを右腕にするということがつまりは時期国王であるという証にもなるということを。
今の国王陛下の側近であり右腕兼護衛はカルロスの父の弟であり、もちろんファティマの名を冠するものだ。それはここ何代もかわっていない。その前の右腕は女性のファティマだったらしいので、カルロスが右腕になることになんの問題もないのだ。
とはいえ、ファティマ家を右腕にしなくとも実力があれば他のものを選んだって問題はない。ないが、実力がファティマ家より劣るものを選ぶのは間違いなくファティマ家を馬鹿にする行為であり、見方を変えれば国王になるつもりがないので最強の騎士を右腕にする必要はないといっているようなものなのだ。
「カルロス、やっと会えた」
「あぁ……会いたかったよ、可愛い私のレティ」
学園に入るとよほどでない限り家に帰ることは許されず、約一年ぶりに出会ったカルロスはまた身長が伸びたのか180近い長身になっていた。ハニーブロンドは団子にして一纏めにされているが、こぼれおちた髪が晒された首筋に絡んでなんともエロいことだ。
それに対し僕は身長170ちょうどで、カルロスを見上げなければならない。まだまだ成長期なので追い付けると信じている。人目を気にせず抱きつけばふわりと抱き締められ、ラベンダーとカルロスの匂いに力がくったりと抜けてしまう。固くも柔らかい体のなんと最高なことか。
「来るとちゅうでキャメリア嬢にあいました。僕のカルロスをばかにして、なんですかあの失礼なかたは。とてもカルロスと同じきしには見えません」
「あの娘は少しおかしいんだ。何を言われたか想像はつくが忘れなさい、あの娘の言うことを信じるものはほとんどいないよ」
「僕のはなしをきかずにわかってあげられるとか、何をわかっているというのですかあのかたは。カルロスが僕の話を聞かないとかしゃべりかたでばかにしているとか、それはあなたのことです!!」
話しかけてきたかと思うと一方的に意味のわからない独り善がりなことをいい放ち、カルロスを貶すだけ貶してわけのわからないことを言って満足したのか、僕になにも言わせないままに去っていったあの令嬢は本当に何を考えているかわからない。僕のことをわかっているというのならば、少しはこちらの話を聞いてほしいものだ。
「レティ、レティ、私の可愛いレティ。もう忘れてしまいなさい。私といるときに他の女のことを考えないでおくれ、私を見ておくれ可愛いレティ」
「カルロス……」
蜂蜜に砂糖をいれて仕上げに追い蜂蜜をしたような甘い甘い視線と優しい手つきで頭を撫でられ思わず顔が赤くなる。カルロスは女だというのにこういう時の視線は非常に雄くさいものになるのはどうしてだろうか。それでもそれがいやでないのだから、カルロス効果というのはすごいものだ。これが他の女だったら迷うことなく逃げているだろう。
「もしあの娘の戯言に踊らされて王子が私を右腕に選ばなくとも、まだ幼いが賢い第二王子が居られるから心配はいらないよ。なに、五歳年上の右腕など過去には珍しくないんだ、大丈夫だよ可愛いレティ」
カルロスの言葉は王子を見捨てて第二王子を国王にするという風にも受け取れるが、おそらくその通りであろう。
この国では国王陛下の右腕は年が近く誰よりもその年代で強いものが選ばれる。あの令嬢はカルロスに武術でも魔術でも知識でも勝つことができないのだから、右腕になることはできない。そしてたかが伯爵令嬢が王妃になることもできない。よくて側室だろう。王子が本当にあの頓珍漢なことをいう令嬢を右腕にするというのならば、もしかしたら王子ともども謎の病死を遂げることになるかもしれないが、情に流され実力をみることのできないような王などいらない。消えてもらうのが一番だろう。
「だからレティ、あの娘のことは忘れなさい」
「……うん」
学年が違えば会おうと思わない限り会うこともないだろうし、カルロスが心配しなくともすぐに忘れることができるだろう。僕自身妙な気持ち悪い甘さを纏ったあの令嬢に会いたいとは思わないし、うん、カルロスにだけ会っていよう。
「かわいいかわいい私のレティ」
***
今日はカルロスたちの卒業記念パーティの日だ。卒業パーティは卒業パーティであるというのになぜこんなことまでするのだろうか、非常に面倒くさいことこの上ない。けれどもカルロスの滅多にないドレス姿をみることができる日でもあるので、一概に足蹴にすることもできないのだ。
婚約者のいる男は頭に飾りをつけ、女は胸に飾りをつける。男も胸飾りでいいと思うのだが、その辺りは昔にきっとなにかあったのだろう。
カルロスの髪によくにた色の髪飾りで頭を飾り、ガーネットがあしらわれた腕輪をする。カルロスはいったいどんな装いをしてくるのか非常に楽しみだ。
少し早めに会場にいけば、どうも物々しい雰囲気が漂っている。具体的には警備兵が妙に多いのだ。見慣れた体格のものがいるのでファティマの騎士かもしくは国営騎士団の人間なのだろうが、いったいなぜここまで多いのだろうか。去年はこれより確実に少なかった記憶がある。
僕と同じく早めに来ていたものたちも不思議に思っているのかそわそわとしている。
こんなことなら断られてもカルロスをエスコートしてくればよかったかもしれない。騎士である女性をエスコートするのは卒業パーティでならば許されるが、今日みたいなよくわからない微妙なパーティではあまり推奨されていない。というのも騎士は厳格な規則が色々あるらしく、さほど重要ではないパーティならばエスコートなどという軟弱なことはされてはならないらしい。相手も騎士ならばいいらしいが、僕のような騎士ではないものはダメらしい。騎士の規則はよくわからない。
壁際の椅子に座り続々と集まってくる生徒たちを眺めながらカルロスが来るのを待つ。
あ、ちょっと鷹を狩りに行きたくなってきた。少し席をはずすことにしよう。
すっきりして戻ってくれば、どうやら前倒ししてパーティが始まっていたらしく会場全体がざわざわとしている。
中心のほうが特にざわめいており、何事かと思えば後ろのほうから肩を叩かれる。誰かと思い振り向けば、すでに165はある第二王子が世話係り兼護衛を連れてそこにいた。どういうことかと目をぱちくりとさせれば、細い指が唇に当てられしぃと僕にはない色気を出して言われる。本当に僕より4才年下なのだろうかこの王子。
他にも第二王子の存在に気がついたものたちがいるようで、第二王子になぜか腕を引かれて中央へと連れていかれる。おのずと開いていく道はさすが王子といったところだろうか。決して暗殺者あがりの護衛の目力に恐怖してとかではないと思う、きっと、たぶん、おそらく。
連れていかれた中央には王子とキャメリア嬢、王子の婚約者様にカルロス、あとよくわからない少年たちがいた。たしかあの少年たちはキャメリア嬢取り巻き隊とかいう貶され方をされていた数少ないキャメリア嬢の戯言を信じるものたちだったか。兄もいることがなんというか情けない。
「ゼリスタ・スターシス公爵令嬢との婚約破棄及びキャメリア・ヒロイン伯爵令嬢の右腕任命はしっかりと受理されましたよ兄上。おめでとうございます、そしてありがとうございます兄上。これで私が王位継承一位です」
にこりと笑う第二王子の笑顔はなんというか王妃様に似てとてもヒヤリとしている。こわい。
現実逃避のようにカルロスのほうへ目をやれば、婚約者様を守ろうとするかのような立ち位置におり、その胸元には僕の髪と同じブルーマリンが輝いていた。かわいい。
「何を、いっている?なぜ俺が王位を追われねばならないのだ!!」
「順位が変わっただけですよ兄上。スターシス嬢もファティマ嬢も時期国王を支える人材として申し分ない、いや十分すぎる実力を兼ね備えた方々です。それを一方的に破棄するような見る力のないものに国王は勤まりませんよ」
「キャメリアに実力がないというのかお前は!!お前のほうがよほど見る目がないのではないか!!]
「そう声を荒げないでくださいよはしたない。全く、だから継承順位が下がるんですよ」
やれやれと首をふる第二王子に王子はさらに赤い顔を赤くする。まるで太陽のような真っ赤だ。血管がきれたりしないか心配だ。
どうして連れてこられたのかわからないまま話を聞いていれば、いつの間に近づいてきたのかカルロスと婚約者様いや元婚約者様が僕の側に来ていた。そのまま元婚約者様は第二王子の護衛の後ろに隠すようにされ、どういうわけか僕もカルロスに隠されるようにされてしまう。
元婚約者様にどういうことかと目配せすれば、多少顔色は悪いもののなにかを察しているらしい元婚約者様はしぃとその瑞々しい唇に指をたてた。かしましい妹かカルロスのような騎士しか女性をしらない僕としては、元婚約者様のような可愛らしい女性ははじめてて少しばかり感動する。
クラスにいる女性も可愛らしいといえば可愛らしいのだが、どうしてか僕を弟扱いして可愛がってくるので女性という気がこう、あまりしないのだ。むしろ彼女たちは母に近いものを感じる。
カルロスも何が起きているかはわかっているはずなので、僕一人だけこの空間で仲間はずれにされたようで少し悲しい。しょんぼりとしていればいつの間に話が進んだのか護衛の人が動き、それにつられて目を動かせば剣を抜いた王子を取り押さえる護衛がいた。そんな王子を呆れたように見下ろす第二王子はそのまま近くの騎士たちを呼び、次々とキャメリア嬢以下取り巻きを捕縛撤退していく。
少し意識を飛ばしている間に何が起きたんだ……???
「カルロス、僕はなぜここにいるのでしょうか」
「あぁ、可愛いレティ。君があの娘の毒牙にかかっていないか確かめるためだよ。なにも言わなくてすまない。だが可愛いレティが無事で本当によかったよ」
「カルロス、言っている意味がよくわからないのですが」
ぎゅうぎゅうに抱き締められてふにゃりと力が抜けるが、本当に何を言っているかよくわからない。
そりゃあの令嬢はどういうわけか僕に何度も接触してあまつさえ体にも触れようとしてきたが、その全てを逃げて逃げてついには感知魔術で徹底的に逃げた僕は令嬢と関わることなんてここしばらくなかったのだから、毒牙にかかるもなにもないだろう。
もしかして兄も毒牙にかかっていたのだろうか。そうだとするなら少しは同情する。
「彼女のぎゃくはーれむとやらに貴方も含まれていたのですよレティリシアさん」
「ぎゃくはーれむ……逆ハーレム???」
それは確かだいぶ朧気になった日本の記憶にあったような気がする。ハーレムの逆のやつで、女性が男性に囲まれてきゃっきゃうふふ状態になることだ。この世界にはそのような言葉はないので、あの令嬢はもしかしたら僕と同じ日本という世界の記憶を持っているのかもしれない。それなら徹底的に避けることはせず少しばかり日本のことを聞けばよかった。あの世界には作り方はわからないがカルロスがよろこびそうなものがたくさんあるから、どうやってつくるのか知りたかったのに。まあ終わってしまったものは仕方ないか。
「いつまでも夢を見るのは構いませんが、現実を受け止めてほしいものですね」
そういってうっそりと笑う第二王子の目は確かに笑っておらず、背筋が震えた僕がカルロスにしがみついたのは仕方がないことだろう。
そして、僕はなにもわからず知らないまま卒業してカルロスと結婚した。今はファティマ家を守ることで忙しく、あのキャメリア伯爵令嬢がどうなったかは知らない。
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「レティリシアも転生者だよねカルロス?」
「だろうな、俺らみたいにはっきりと記憶があるわけじゃねえみたいだけど」
「ちょっと、その美貌で俺とかいうのやめてくれないかなカルロス夫人?」
「けっ、50年以上男やってたやつに何いってやがんだ餓鬼」
「はぁ、なんでレティリシアもこんな中身おっさんに惚れたんだか」
「可愛いぜぇ俺のレティは。そこの無愛想な暗殺者よりも」
「あの子はあの子で可愛いんですよ」
「あんなデカブツのどこが可愛いんだか」
「あの子も転生者ですからね、性別の違いに戸惑う姿はとても可愛い」
「悪食」
「なんとでも」
「ま、ヒロイン気取りの頭ぱっぱらぱーな女はいなくなったしこれでもう乙女ゲームは終わりだろ」
「終わりですよ、続編が出ていない限りは」
「……」
レティリシア・ガルガロス♂
一応主人公の男の娘。とある乙女ゲームでは年下弟系ワンコキャラだった
この世界ではライバルの一人カルロスの婚約者(嫁)である
記憶はほとんどないが転生者
転生前の性別は多分♂である
カルロス・ファティマ♀
元♂の現♀で宝塚系美少女(騎士)
レティリシアがかわいくて仕方がない。
とある乙女ゲームではヒロインのライバルの一人であったが、
中の人が中の人なのでただの最強キャラになってしまった。
ヒロイン
伯爵令嬢で憑依系転生者
世界で一番ヒロイン様な夢系少女
本編後どうなったかはわからない
第一王子
メインヒーロー
第二王子
とある乙女ゲームでは第一王子の劣等感を刺激するだけの存在だった
転生者で元♀現♂の百合系美少年
実は腐っているとかなんとか
婚約者様
第二王子と幸せになりました
護衛
転生を受け入れられず荒んで暗殺者になった人
性別は転生前と変わっているらしいが、今の性別は果たしてどちらなのか。
人見知りもあってほとんど喋らない
とある乙女ゲーム
乙女ゲームなのに戦闘要素がある
内容含めて売れ行きは悪かったようだ
続編など出せるわけもないが、コアなファンはどこにでもいる
おまけ
私の名前はカルロス・ファティマ。太陽神に愛されたといわれる蜂蜜を混ぜこんだかのような輝かしい金髪に、太陽を写し取ったと称される宝石に似た赤い煌めきを放つ瞳を持った御年五歳の初々しい幼女だ。ちなみに精神年齢は59プラス5才の壮年男性である。
あれは60才の誕生日の前日のことだった。いつものようにジムでのトレーニングを終え帰宅していた途中で、少年が中型トラックに撥ねられ地面にぶつかり痙攣しながら血が地面に広がるという凄惨な現場を見てしまったのだ。少年にしては華奢だったように見えるが、あの子は多分少年だったと思う。髪が短かったし。
そんなひどいものを見てしまった私はあまりの光景に吐き気がし、なんとか警察を呼ぼうと時代遅れだなんだと言われている二つ折りの携帯をポケットから出した。しかしその次の瞬間、私はオンギャーとこの世界に産まれていたのだ。
妙なところで男女の権力が逆転しているこの世界では男よりも女の騎士のほうが多く、しかしだからといって楚々とした女がもてないわけでもない。あらゆる意味でこの世界の女は選べる道が多いのだ。かかあ天下万歳である。いくら体が女になったとはいえほぼ60年を男として生きていた私が今更淑やかな女として生きていけるわけもなく、女でも体を鍛え騎士として生きることのできるこの世界はちょうどよかった。男に生まれていたらもっとよかったのだがこればかりはどうしようもない。
そんな私の家であるファティマ家は代々王家に仕える騎士の一族である。ここ何代かはファティマ一族の騎士が王の右腕として国軍をおさめているのもあり、ファティマの右腕が王の証ともいわれるようになっているらしい。もちろんここは弱肉強食の世界でもあるので、ファティマより強い騎士がいればその者を右腕としてもなんの問題もない。
私の名前はカルロスである。精神的には男なので婿を取ることはできないと思う。弟妹たちがいるので跡取りはそちらに望んでほしいものだ。
そう思っていたが、ある日私は天使に出会った。
そう、天使だ。
あの子はまさしく私の天使であった。青いような緑のようなアクアマリンの髪をもった天使だ。本人はブルーマリンといっている少しおバカなところも大変可愛らしい。3才にしても発育の遅い体はすっぽりと私の腕に収まり、舌足らずに喋る姿はまるで小鳥のさえずりのようで癒される。
レティリシア・ガルガロスと名乗った天使は侯爵家の次男坊である。本来ならば長男である子を私の婚約者として顔合わせしたかったのだが、たまたま先にこの天使が私の前に現れ、そうして私が一目惚れをしてしまったためにこの天使が私の婚約者になったのだ。長男の子の面目は丸つぶれであろうが、私としては可愛い天使を貶すような阿呆に興味はないので婚約者にならずによかったと思っている。
侯爵家の長男としては年の割にしっかりしているが、私から見てみれば可愛げのない糞ガキである。ショタコンではないのでガキに興味などない。天使は天使でありショタだのなんだのというものではないので大丈夫だ。私はショタコンなどという幼児趣味ではない。
体を鍛え天使ことかわいいレティを見守り交流し、空いた時間は騎士としてのいろはを叩き込まれる。大変ではあるが実に充実した日々を送っていたある日、現在の王の右腕である叔父が私のもとを訪ねてきた。日々忙しい叔父が一体何の用なのかと、そう疑問に思ったときには私の体は叔父にふっとばされ中を舞い、父が止めに来るまで叔父に遊ばれることとなった。あの男は敵だ。
それからも叔父はふらりと現れては私を滅多打ちにし、レティとの逢瀬を楽しんでいようが目の前で打ちのめされる。それもいい笑顔で私を軽くいなすのだから腹が立つというものだろう。あの男はやはり敵だ。
しかもいつの間にかあの男は私のかわいいかわいい天使と仲良くなっていやがった。嫌がらせも兼ねて父にショタコンだと吹き込んでやったら、後日痛みのあまりに起き上がれないほどにボコボコにされた。いつかあのお綺麗な顔に一発どころかぼこぼこになるまで拳をいれてやる。ただしその時は私の天使が見舞いにきてあーんまでしてくれたので顔以外を狙うのはやめてやることにしよう。恥ずかしがりながら「あーん」と言う天使はとてもかわいいかった。とうにおさらばした私のバベルの塔が建設されるかと思ったほどだ。それほどまでに私の天使はかわいかった。
婚約者が可愛くて今日も生きるのが楽しい。