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夢に見たある日の朝の一コマ。即ち儘ならぬ無象の情景に翻弄される自覚もなく抗う物語

部下M「タカアキ様、あまりにも久しぶりすぎません?」

魔王T「しかもこれを書こうと思って書いたわけじゃないものがこのシリーズだったっていうな」

部下S「なに言っているのかまったくわからないのですよ?」

 私が今朝方に見た夢は、新作ゲームの夢だった。


 大好きなシリーズの最新作で、新作発表を旦那と手を取り喜んで、それからずっとずっと期待に胸を膨らませ、公式サイトのティザームービーやキャラクター情報を何度も眺め、家事の合間にも思い浮かべてそわそわし、発売日はいつだったかとついカレンダーに目を向ける。

 そんな毎日を送っていた私はついに夢にまで見てしまって。


 予約していた限定版がどうしてか数日前に届き、ほんとにいいのかと意味もなく辺りを見渡して、なにかの間違いではないのかと、同封されていた明細書とゲームのパッケージを何度も見比べる。そんな夢でした。


 しかし見つめる明細書に文字が書いてあるのは判るけど、なぜかそれを読むことはできず、パッケージだって確かに何度も公式サイトで見たイラストであるのに、その上にあるはずのゲームタイトルからは目が滑る。


 落ち着け私、落ち着こう。誰にとはなく呟いてみても、気が逸っているのは変わらない。


「ねえどうしよう、すでにゲームが届いたんですけど」

 なぜか部屋にいた友人にゲームソフトを掲げて見せ。

「よかったじゃん」

 これはもうさっそく遊ぶべきではと友が語る。それはそうだ。待ちに待ったゲームが届いたのだから、それはもう遊ばないはずはないのである。


…けれどもなぜか、ふしぎと開けるのがためらわれる。


「よし、先にトイレいってこようと思います」

「どんだけ緊張してんのよ」

 笑われたけれどしかし、いまはトイレに行かねばならないと思って駆け込んで。

 そしてトイレから戻ってもまだゲームを開ける気にはなれずにそわそわと。

「そうだ、メール、メールしなきゃ」

「はいはい」

 高校時代の教師へ、今日は宿題ができそうにないと。そんなメールを送信する前に「お前はほんとにしょうがないな」と苦笑した声を聞き振り返れば、そこは母校の情報処理教室だった。

「すみません。でも今日はもう宿題どころじゃなくて」

「わかったわかった、だが部活はちゃんと参加しろ」

「了解です!」

 返事をしたところでエプロン姿のままだったことに気が付いて。

「すみません家まで制服とってきます!」

「おう急げよ」

 走らせる車の中でええと制服はどこにやったっけ、なんて考える。

 建て替わる前の実家の押し入れだろうか。まずい、これはどう考えても間に合わない。


 ひとまず遅刻の連絡を入れよう。車を停めてポケットに手を伸ばすも果たしてそこにスマートフォンの感触はなかった。

「えええ、まじでええ」

 これはあれだ充電器にかけたまま置きっぱなしだ。よくやるやつだ。連絡はできるときにすればいいと落ち着いてまたアクセルを踏む。


「…まいったなあもう全然ゲームどころじゃないや、なんて考えていたところで目が覚めたのですよ」

「鮮明な夢でなによりです」

 とまあ、聞かせた旦那はスマホを横目に朝食をとりつつ生返事。とにかく誰でもいいから語りたいだけなので全力でこっち向けとは言いませんがもうちょっとこう、もうちょっとありませんかねまったく。

 なんて思いながらも「あーーーっ」って声を上げてソファに身を突っ伏す。夢を思い返すとあまりにも悔しい。ほんとにくやしい。


「それにしても新作ー。新作ー。夢の中なんだから躊躇なく遊びましょうよ私ー。あーもうもったいないぃ」

 悔やまれるのはとにかくそこ。パッケージを開けもしないとかあるまじき行為ー。

 なんてぐだごろしていたら「いやいや違いますよ」と旦那が顔を上げた。


「夢だからこそ遊べなかった、が正しいです」

「えー、ままならないのが夢だとかそんな話ですかやー?」

「いえいえいえ」

 首を三軒分ほど横に振り、コーヒーカップを手に取りながら旦那は言葉を続ける。

「知らないものは例え夢の中でも見られませんって」

 え、そういうもの?

「ご馳走の夢とか見ても食べられなかったり味がしなかったりしません?」

 え、あーあーあー。なんか確かにそうかもしれない。

「あとは夢の中で怪我をしても、痛い気になるだけで実際に痛みは感じないとかそんな風じゃないですかね」

「ほっぺたつねって痛かったら夢じゃないってやつ?」

「まあまあまあそんな感じの。これらは夢の中で脳が五感を再現できないからそうなるんだろうなと僕は思ってます」

 だって身体は寝ているのだから、と空になったカップをお皿に戻して旦那は深く頷いて見せた。

 なるほど、確かに夢で頭を打っても実際の身体は痛くないから。

「とまあ夢の再現度はそんな高くありません。だから知らないゲームは遊ぼうとも遊べないように夢が逃げるわけですな」

 知らなければ再現できない。それは確かにそのとおり。そのとおりなのですがっ

「でえええもぉ遊びたかったぁああああああぁぁ」

 ソファから転げ落ちてばたばたと駄々っ子のように暴れれば旦那は「うんうんわかるー」と頷きながらスマホに目をやって途端に「げっ」と立ち上がり。

「やばい、話しすぎましたっ」 

 おお、時計を見るとこれはピンチな有様よ。慌てて支度する旦那を横目に私は空の食器をシンクへと運び。

「はいはい事故らぬようにいってらっしゃいませですよー」

 と声をかければ

「はいなー、行ってまいりますーっ」と旦那の声が玄関を飛び出していきました。


「………。」

 ちらり、とカレンダーを見る。めくったばかりの8月と書かれたカレンダーにはまだまだ目当ての赤丸もないままで。発売日は先の月だと無情な現実を雄弁に語ってくれていた。

「うーん…」

 夢に見ちゃったおかげで待ち遠しい気持ちが燃え尽きてしまいそう。ああ、時よ早く過ぎ去りたまえ…などと大げさなノリで秋の訪れを待ちわびる、気温28度の朝でした。


                                     どっとはらい。

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