表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

きままに読み流し短編集

ラスボスはヒロインにクラスチェンジしたようです?

作者: 菊華 伴

 俺は、つい先日まで自分がただ単に『ストラトス・ヘーゼル』だとおもっていた。幾つもの島々からなる南の国、グルーザの王宮魔導士で、普段は紅茶が三度の飯より好きな男だと。

 だが、自分の弟子の1人にぶつかり螺旋スロープを転がって頭をぶつけた際、元々は『クマモトケンという場所で農業を営んでいたラノベとかゲーム好きの若者』だった事を思い出していた。

 同時に、この世界が自分の大好きだったライトノベル『竜の国の三獣士』に登場する国であり、自分は本編にてラスボスだった魔導士、『フィオレット』の師匠だった事を思い出した。


 フィオレット・ヴァニラ

 魔法が使えなかった頃、1人の乙女に恋をした事で力を発揮した若者。

 そして、彼女を理不尽な理由で失った事で世界を呪い、最終的に魔獣と化した男。


 ……そう。俺が知っている筈のフィオレット・ヴァニラは『男』だった筈なのだ。それなのに、今、俺の目の前にいるフィオレットとは微妙に違うのは何故だ?

「あっ、あのっ! 先生、大丈夫ですか!?」

 恐らく、これは本編の前の時代だろう。ここが本編の世界なら、前日談である『そして彼は闇に沈んだ』の1シーンなのかもしれない。『ストラトス』の記憶が確かなら、フィオレットはまだ魔法が使えない筈。

 俺はそんな事を考えながらも、フィオレットの手をかりながら立ち上がりつつも、困惑していた。前世が知っているフィオレットは、もう少し背が高く、どこか陰のある若者だった。だが、俺の目の前にいるフィオレットは、少年というよりどことなく少女、というような顔立ちだった。おまけに声もちょっと高め……か?

「フィ、フィオレット……か?」

「そう、です。フィオレット・ヴァニラです、先生」

 俺は「そうだよな」と呟きながら頷いたが、ふらついてしまった。それをフィオレットがどうにか受け止めてくれたのだが、バランスを崩してしまう。

「しまっ……!?」

「きゃっ?!」

 愛らしい悲鳴が上がり、倒れこむ俺達。そして、僅かにふにゅっ、とした感触が俺の顔を包む。柔らかなオレンジの香りに混じる、清潔な石鹸の匂い。不思議に思って顔を上げると、フィオレットが真っ赤になって

「せ、先生、だいじょうぶ、ですか?」

 とドキドキした様子で問いかける。俺は反射的に身を起こし、「すまないっ」と叫んでしまった。


 フィオレットは男の筈。なのに、あれはどう見ても『女』だ。その上に『ストラトス』はちゃんとそれを知っている。

 この目の『前にいるフィオレットは女である』事を知っているのだ。それを知らなかった前世の『俺』と知っている今世の『俺』が交じり合い、思考がショートしたらしい。


 まてまて。

 なんでフィオレットが女なんだよ?

 そこで俺は思い出した。好きな小説の同人(年齢制限つき)ゲームでは、このフィオレットを含む数名が女性化し、ストラトスで攻略していくって展開だったことを。俺は持っていたが途中までしかやってないよ! 前日弾のヒロイン(フィオレットの初恋の人で旅一座の踊り子)のルートの真っ最中だったよ!! フィオレットルートについて全く知らないぞ!!

 それにしても、あの自分に自信が持てなかったお坊ちゃんがここまでかわいくなるとは。しかも顔面で受け止めてしまったあのバスト……小さいがやわらかくてきもちよかった……。

 じゃなくてだな。落ち着くんだ、ストラトス。相手は弟子だ。20歳になったばかりの娘だ。魔法は使えないけど、頑張り屋で可愛い弟子だ。父親の意向で男装しているから周囲は男としてみているけど、ホントは晩生な可愛い女の子だ。


 ……あれ?

 ギャップ凄?! 小説本編じゃ「友人に頼まれて仕方なく教えている『出来の悪い弟子』」という印象しか持って居なかった筈。なのにこのゲームじゃさすが攻略対象。萌え要素(?)入りの可愛い男装娘にしあげてやがる。

 そして『こっちの世界のストラトス』はフィオレットに無関心ではない。むしろ「可愛い」って言っている。というか、妙にドキドキするのはなんでだ?

「先生、具合でも悪いのですか?」

「いや、大丈夫だ。心配してくれて有難う、フィオ」

 俺がそういうも、フィオレットは心配そうに俺を見る。そして、手を差し伸べた。

「肩、貸します。僕、もう今日の仕事はありませんし……先生がお望みならお手伝い、残ってやりますよ」

「それは、ありがたいが……」

 俺は彼女の手を受け取り、立ち上がりながら考える。……と、脳裏にこんなものが浮かんだ。


*:手伝ってもらう

*:部屋まで送ったら帰宅させる

*:断る


 ……これって、選択肢だよな。なんで脳裏に出ているんだ。これってもしやゲームなのか。はじめてみたぞ、選択肢。

 ここで前世の『俺』は悟った。フィオレットルートに入ったのだと。俺、彼女のルート知らないぞ!


 とりあえず、真面目に考えるんだ。相手は弟子だ。って事は生徒だ。教師が生徒に手ぇ出すってまずいんじゃなかろうか。でも、実を言うと前世の『俺』としては性格面も外見も好みのど真ん中を射ているのだ。

 とりあえず、真面目に考えて、時間的にもう遅いし、帰宅させるだろ。

 そう思った瞬間選択肢が……変わった。


*:家まで送る

*:近くまで送る

*:送らない


 ……こんなの、見た事が無かった。まぁ、踊り子のお嬢さんのルートしかしていなかったからか? というか、マジでどうしよう、俺。


 この日から、俺は良心と葛藤しつつもフィオレットが気になり、アレコレ悩みながら彼女の攻略に勤しむ事になる。


(終)


 

 

読んでいただきまことに有難うございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ