表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/29

第七話 決意

「あ……みゃお、みゅ!」

(アメノだってよ)


 ヒカリは、アメノという可愛らしいウサギのような生物に、懐かれてしまった。町で魔獣に襲われ、瀕死のアメノを救い、此処までついてきたのだ。そしてアメノは、ベッドの上で分厚い辞典を読んでいる。


「よろしくね、アメノ」


 ヒカリが頭を撫でると、もふもふしている。アメノはヒカリを見上げて、にこっと笑った。


「あーどっかの誰かさんと違ってすごく可愛い。ずっと撫でていたいわー」

(おい、それ俺に対して言ってんだろ。このゴリラ女子!)

「ご……あ……どし、みゅ?」

(ゴリラ女子? だってよ)

「アメノが変な言葉覚えたら、エクスレイドの責任だからね! ……ん?」


 ヒカリは、アメノを見つめる。


「ちょい待ち。エクスレイドの言葉、聞こえるの?」

「みゅ!」

(お前、適格者じゃねぇだろ。どういうことだ?)


 そのとき、前触れもなく扉が開かれた。ヒカリが驚いて視線を向けると、そこには第二王子のレインが立っている。


「れ、レイン様!」


 ヒカリは慌てて立ち上がる。レインは、後ろ手に扉を閉めると、ヒカリの前に立つ。そして、頬を思い切り引っ叩いた。乾いた音が鳴り、ヒカリは頬に手を添える。


「兄上に怪我を負わせたのは、君だってね」

「みゅー!」


 アメノはヒカリの前に立ち、両手を横に広げた。これ以上手出しをしないで、ということだろう。レインはそれを無視して、話を続けた。


「君は何のために此処にいるの? 地位のため? 金のため?」


 ヒカリは、正直に答えたかった。魔獣を浄化するため、クロウから剣術を習うため、ウィルのためだ、と。


「……違います」

「そう。どうやって兄上に取り入ったのかは知らないけど、僕は――」

「一言、よろしいでしょうか」


 堪忍の尾が切れたヒカリは、レインを見つめた。そして、疑問に思っていたことをぶつける。


「レイン様はなぜ、行動しないのでしょうか」


 レインは、眉間に皺を寄せた。


「ウィル様を思っているのであれば、魔獣が町を襲撃した時は共に行ったり、軍を派遣したりすることができるはずかと」


 第二王子という肩書があるのだ。第一王子には劣るかもしれないが、それなりの権力を持っていてもおかしくはない。しかし、レインは拳を握った。


「もし、それがしたくてもできない状態なら?」


 ヒカリの胸倉を掴み、叫んだ。 


「兄上の力になりたくてもなれない。僕には何の権限もない。ただ兄上の足枷として生きているだけだとしたら? 僕はどうすればいいんだ!」

「レイン様!」


 ユリエラが入室し、ヒカリからレインを放した。


「レイン様、自室にお戻りください。彼の者が待機しておりますので」

「……」

「あと新米、ウィル様が呼んでいたわ。寝室に来るように、だって」

「わかりました」


 去り際に、レインは振り返る。


「もし、もう一度兄上に怪我を負わせたら、容赦はしない。兄上がなんと言おうと、此処を追い出すから」


 二人が去っていくと、ヒカリは無気力になり、ベッドに倒れ込んだ。アメノは頬に寄り添い、摩ってくれる。


(レインはやり過ぎ、お前は言い過ぎだな)

「だい……おーむ、みゅ?」

(大丈夫、大丈夫。こいつはゴリラ女子だからな)

「うっさいわ」


 ヒカリは起き上り、化粧台の前に立つ。頬は未だに痛むが、一見ではビンタされたとは気づかれないだろう。アメノとエクスレイドを連れて、ヒカリはウィルの部屋に向かった。


「いらっしゃい。ふふ、君も来たんだね」

「みゅ!」


 ウィルは、ソファーでくつろいでいた。ヒカリとアメノを座らせてから、紅茶を淹れて、二人に差し出す。ヒカリの膝上に乗るアメノは、紅茶に息を吹きかけて、一生懸命冷ましていた。


「昨日のことで、話があるんだ」


 ウィルは、ヒカリを真っ直ぐに見つめる。その視線に、ヒカリの鼓動が高鳴る。


「エクスレイドを鞘から抜かないでと約束した。でも、君は抜いてしまったね」

「……はい」

「そのおかげで、この子と僕の命を助かった。だから、礼を言わせてほしい」


 ウィルは軽く頭を下げた。


「私も、ウィル様に怪我を負わせてしまい、申し訳ございませんでした」


 ヒカリは深々と頭を下げる。この国の武官は、主を守る為に存在するのだ。しかし、ヒカリは主を守るどころか、守られてしまった。そして、主に怪我を負わせるという大失態を犯した。


「これも私の力不足が原因です。なので、今後は私を庇う行為はやめてください」

「どうして?」

「ウィル様が怪我をされたら、悲しむ人が多くいらっしゃいます。それに、武官はウィル様を守る為にいます。ですから――」

「やめないよ」


 ウィルは、紅茶を飲み終わると、口を開いた。


「僕は王族である前に、一人の人間だ。君も適格者だけど、一人の人間に変わりはないよね。人が人を助けるのに、地位や悲しむ人の人数なんて関係ない。そう思わないかな?」

「それはそうですが……」

「もし、やめてほしいと思うなら、僕よりももっと強くなって。そして、僕に庇わせるような行動は起こさないで」


 確かに、その通りだ。ウィル以上に強くなればいい。しかし、稽古を行うだけで、ウィル以上に強くなれるのか。不安はあるが、ヒカリは何も言い返せず、ゆっくりと頷いた。


「話を戻すけど、やはりエクスレイドを鞘から出すのはやめてほしいんだ。今回は何もなかったけど、その剣を狙う輩はこの国に居るからね。そいつらに見つかったら、今の君は簡単に殺されてしまう」

「は、はい。出来る限り、出さないようにします」

「ありがとう。君は特別な魔力を使えるみたいだから、鍛えればエクスレイドでなくとも、しっかり戦えるはずだよ」

「あれは、エクスレイドの魔力ではないんですか?」


 ウィルは、否定した。


「魔力は、人間が持っている力でね。この国の人間は火か風。王族は月の魔力を宿しているんだよ」

「そうなんですね」


 ヒカリが、エクスレイドを睨む。


(いや、俺は嘘をついてねぇ! お前の魔力は水で、俺は適格者の魔力を倍増する能力があるんだよ)

「クロウに言って、魔力の鍛錬も組み込むように伝えておくよ」

「あ、ありがとうございます」


 クロウの稽古は厳しいが、丁寧に教えてくれる。当初は否定的な気持ちを抱いていたが、今は前向きだ。ヒカリが紅茶を啜ると、エクスレイドは頼みごとをする。


(おい、こいつに聞いてくれねぇか。今まで戦った魔獣の特徴と、幼女型の魔獣と戦ったことがあるかってな)


 ヒカリはカップを置き、ウィルに質問した。


「そうだね。今までは小型魔獣……人間より身丈が低い魔獣だけだよ」


 ウィルは、カップを置いた。


「幼女型の魔獣は、戦ったことがないよ。そもそも昨日、初めて見たからね」

(そうか。じゃあ、人間のような魔獣はどうだ?)


 エクスレイドの言葉を伝えると、ウィルは頭を振った。


「いや、見たことがないよ。役に立てなくてごめんね」

「いいえ、答えていただきありがとうございました!」


 ヒカリは、うとうとしているアメノを抱えて立ち上がる。礼をすると、ウィルも腰を上げた。


「ヒカリ」


 ウィルが傍に来て、愛でるように頭を撫でる。その行為に、ヒカリは緊張して固まってしまう。


「君は、僕にとっては希望だ。だから、絶対に死なせたくない。僕より強くなるまでは、僕の手が届く範囲にいてね」

「あ、ありがとうございます」


 ヒカリは、改めて決意した。好きな人を、主であるウィルを守る為にも、もっと強くなることを。

 自室に戻ると、エクスレイドをソファーに放った。


(さっさと上達してもらって、マリアージュを探さねぇとな)

「マリアージュってどこにあるの?」

(隣国のアマテラス王国だ)


 ヒカリは聞いたことがない国名に、首を傾げる。


(あとお前、ウィルに惚れてるだろうが、やめといたほうがいい)

「なんで?」

(嘘をつかれているのに、気づかなかったか?)


 ヒカリが考える仕草を見せると、エクスレイドは、呆れたように溜息をつく。ウィルが嘘をつくなんて、考えられない。それに、嘘だと疑うような言葉は話していなかったように思える。


(……まあいい。とりあえず、腕立て伏せを二百回終わらせるか)

「これ以上力をつけたくないけど、仕方ないね」


 ヒカリは、床に両手を置き、クロウに指示された自己鍛錬を始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ