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第二十七話 師匠との邂逅

 絶対に、倒してみせる。師匠の仇は、この手で討つ。双眸に決意を滾らせ、向かった先には。


「アウディ!」


 坑道の警備隊は、アウディとやり合っていた。彼らは傷を負っているが、致命傷ではなさそうだ。それに対し、アウディは酷く弱っている。至る所に傷がつけられ、もはや自己回復が不可能なまでダメージを与えられたらしい。それほどまでに、警備隊とやらは強いのかと目を見張る。シュウは、魔法で倒れた怪我人を治療しながら声をかけた。


「よく追い込んだね」

「違います、現れたときからああなっていました」


 となれば、間違いない。あれはクロウが付けた傷だ。そう確信したヒカリは、大聖剣ガウェインを抜き出す。


(お、初浄化だな!)

(大型魔獣なら弱体化が必要ですが、今回は不要ですね。では、浄化の方法をお教えいたします)

(魔獣の一部に剣が触れりゃ消えるはずだ。試してみろ!)


 ヒカリは、大聖剣ガウェインを構えた途端、一直線に駆け始めた。宙に浮いた元人間のアウディに向かって。


「はああああああっ」


 振り下ろせば、魔獣は真っ二つに裂けていく。裂け目から黒い粒子が噴き出し、すぐさま光に変わった。そして、花弁のように風に乗り、天へと昇りながら消失していく。その終わりは、あまりにも呆気なかった。


 アウディには、散々な目に遭わせられた。アウディさえいなければ、クロウが犠牲になることもなかった。ウィルの母親も、第四王女のシャーロットも、アウディの母親も生存していたかもしれない。けれど、責めるべきはアウディではない。魔獣研究の発端かつ元凶の帝王、ガイストだ。


「ヒカリ姉様、あれを!」


 シュウが指した先に、黒い水晶を先端に包み込んだ杖が落ちている。


(あの杖……グラルロッド!)

(遺物だ、叩き割れゴリラ女子!)


 水晶を突き刺すと、破片が飛び散り、煙と化した。どうやら、遺物の破壊に成功したらしい。これで残るは、二つとなった。ヒカリは、胸を撫で下ろしながら膝をつく。


(師匠、倒しました……)


 クロウは、何処にいるかも分からない。だが、アウディにはクロウと戦い、受けた傷跡が刻まれていた。当時は苦戦していたのに、短時間であの傷を付けられるはずがない。一旦屋内に避難してから、再び対戦したのかもしれない。となれば、クロウは生きているはずだ。


(よくやったな)

(そうですね……と言いたいところですが、やることは山積みです)


 マリアージュは申し訳なさそうに、話し始めた。


(使命を果たすには、全ての遺物を破壊し、蔓延る大型魔獣を全部弱体化しなければなりません。その上、帝国一標高が高い場所へ赴き、大聖剣を掲げてください)


 やはり、一人では到底無理だ。王国の協力を得られたことに、ヒカリは安心する。


(面倒だと思うが、よろしくな)


 ヒカリは頷き、隣にいたユリエラと抱きしめ合う。やっと、師匠の仇を討てたのだ。喜ぶ二人を横目に、シュウは警備隊の治療を続けた。






 かつて、ゼノンが崩落させたクザン坑道。だが、アウディの侵攻によって道が開かれる。そこが通路として問題なく使えるのかを確認させ、帝国の様子を探らせるために先遣隊を放った。


 決戦は明日。シュウの指示で、坑道の入口付近で簡易待機所を設けた。そこで、ヒカリたちは魔獣が通った時のために控える。


「ごめん、すぐに戻る」

「わかった。何かあったら、合図を送るから」


 待機所を抜け出し、ヒカリは赤い宝花が咲き乱れた場所へ向かう。そこへ着くと、確信した。記憶によれば、少年がいたのは此処だと。だが、彼が誰なのかを思い出せない。でも、ヒカリにとってとても大切な人だった気がする。


「あら、此処にいたのね」


 木々の間から現れたのは、ナツキだ。合流するとは聞いていたが、なぜ此処に来たのだろうか。


「……思い出したのかしら」

「何を?」

「小さい頃、城を抜け出しては会っていたのよ、此処で……」


 その先を躊躇うナツキに、ヒカリは問いかける。


「……ウィル?」


 自然と出た言葉に、自分自身が驚いた。どうして、彼の名前が出たのか。しかし、それは的中していたようで。ナツキは、渋々と頷いた。


「じゃあ、あの子……ウィルだったんだ!」


 心底嬉しかった。幼少期、ウィルと会っていたのだ。となれば、血濡れた少年が現れた記憶は、親を殺害した後だと推測できる。やはり、彼が親を殺したのだ。とすれば、なぜヒカリは殺されなかったのだろうか。当時、想いを寄せてくれていたからだろうか。


 また、ある可能性が生まれた。ウィルの好きな人が、ヒカリである可能性が。そう考えると、自然と笑顔になる。


「好きなのね……」

「うん、早く会いたい」


 高揚するヒカリの頭を、ナツキは切なそうに撫でて、そっと抱きしめる。


「そう。……必ず、救いましょう」






 クサナギにより、策士として育てられたシュウ。詰めは甘いが、今回の作戦では、シュウが参謀として活動するらしい。そこで、シュウに招集をかけられた王族関係者とユリエラは、簡易テーブルに敷かれた帝国地図を囲む。これは、シュウが帝国中を歩き回って製作したものだ。


「まず、四部隊に分かれる。各隊の隊長は、姉様、ヒカリ姉様、俺と……陛下で、いい?」

「シュウ様、陛下を前線に立たせるなど何をお考えですか?」

「いや、いい。従おう」


 マサハルは頷いた。戦闘で負けたのだから、文句は言わない。好きに使えと話した。また、各隊にはそれぞれの武官が付くことになる。ヒカリにはユリエラが付き、マサハルはアキラと共に行動する。


「ヒカリ姉様以外の隊は、大型魔獣の弱体化が目的。小型魔獣は相手にしないで。で、土地勘がある俺のは一番遠い東、陛下は西、姉様は南をお願い」


 すべての魔獣を浄化するために必要なことは、シュウに伝えていた。なので、段取りは


「で、ヒカリ姉様は、帝王の居城に向かって。遺物はガイストとウィルが持っている可能性が高いし、帝国ならそこの頂上が一番高いから」


 ヒカリは、力強く頷いた。そこに行けば、ウィルと出会うはずだ。やっと、彼に会える。必ず救おうと改めて誓ったところで、兵士が駆け込んだ。


「陛下!」


 兵士が、息を切らしながら膝を着く。


「どうした?」

「先遣隊との連絡が途絶えました……」


 眉を動かすマサハルは、詳しい状況を聞く。


「どこまで行ったかわかるか?」

「クザン坑道を抜けた先に森があり、そこまでは異常がないことを確認できております」

「大型魔獣と会った?」


 シュウの問いに、兵士は頭を振る。


「申し上げにくいのですが、わかりません。最後に聞いたのは、大剣を背負った人間がいた、という情報です」


 ヒカリの胸に期待が膨らむ。もしかしたら、クロウかもしれない。


「ユリエラさん!」

「……私も思ったわ。でも、大剣はヒカリが持ってるわよね?」

「きっと、どこかで調達したんじゃないかな」


 ポジティブに考えるヒカリは、今すぐにでも駆けだしそうだ。ユリエラが、それは思い当たる人物で協力してくれるかもしれない、と打ち明ける。シュウは、二人を現地に向かわせることを許可した。ただし、クサナギ付きで。


「何じゃ、僕を追いやろうとしてるんか?」

「違う。王国側の人間がいれば、クロウって人も王国が帝国を救うのに協力するって話、すんなり信じてくれると思うから」


 シュウは、下唇を舐めた。


「……そういうことじゃったか」

「何?」


 クサナギは、笑みを浮かべた。そして、シュウの提案に乗ることを決める。


「じゃ、行こうかの。ヒカリ様と、お嬢さん」

「ちょ、お嬢さんじゃないわ! ユリエラよ、ユ・リ・エ・ラ!」

「ヒカリをお願いね、二人共」


 クザン坑道に向かう三人を、ナツキは入口までついていき、見送る。シュウは、想像した結末が誤っていることを祈った。






 狭く苦しい思いをしてクザン坑道を這ってきたことを思い出しながら、先遣隊が置いて行った灯を頼りに、帝国へ向かう。足早に歩き、出口を抜けたヒカリ。その先に待っているのが、クロウであることを願いながら。しかし、クサナギは鼻を覆う。


「……血生臭いの」


 先遣隊が、魔獣にやられたのかもしれない。地面がぬかるんでいるせいか、足跡が残っていたので追っていく。


「これ……」


 ユリエラは、眉を顰めた。木々の根っこが絡み合う地面の上で、二十人ほどの遺体が無残に横たわっている。その服装からして、先遣隊であることが判明する。


「もしかしたら……師匠が近くで戦ってるかもしれない!」


 ヒカリの前向きな考えに、クサナギは口を曲げた。


「よく見てみることじゃ。この傷、剣でやられたんじゃ」

「ということは、帝国の人が……」

「……ここは、王国との唯一の通行口。そこに近づく人がいるとは思えないわ。それに、二十人を相手に皆殺しできるのは相当の実力者よ」


 二人が言いたいことが、わかった。先遣隊を殺害したのは……。


「……お出ましのようじゃな」


 背中から赤い羽を生やし、足を引きずりながらゆっくりと歩いてくる人間。全身は黒に染まり、双眸は紅色に怪しく光る。その手には、大剣の形をした黒い物体が握られていた。


「師匠……!」

「……魔獣化したのね」


 クサナギは、手裏剣を模った空気の塊を、幾つも投げ飛ばす。しかし、一太刀で斬り伏せられた。


「ふむ、特殊のようじゃ」


 魔獣は、体躯の大きさによって強さが変わる。大きければ大きいほど、強いとされていた。しかし、クロウには適用外のようだ。ただの小型魔獣ならば、避けはしないだろう。


「体は小型、強さは大型ってことね……」


 このまま、ゆっくり歩いてくるかと思われた。しかし、次の瞬間、クロウはヒカリの目の前に表れ、黒き大剣を突き刺さんと、剣を持つ腕を後ろに引く。


「ししょ――」

(おい、ゴリラ女子!)

「馬鹿っ!」


 ユリエラは、クロウを目がけて体当たりした。が、それをバックステップで避けたクロウの頭上で、クサナギが宙を跳び、巨岩ほどの空気の塊を容赦なく落とす。しかし、それは大剣を振った風圧で微塵に裂かれた。


「しっかりしなさいよ、ヒカリ!」

(こいつはもう師匠じゃねえ、敵だ!)

(彼を浄化し、楽にしてあげましょう、ヒカリ)


 やっと大聖剣を手に入れたのだ。帝国を救える算段がついている今、クロウに殺されるわけにはいかない。まだ、救える人がいる。救いたい人がいる。ヒカリは、師匠クロウとの過去を思い出さないようにした。そして、大聖剣ガウェインを鞘から抜く。


 怒涛の如く剣を振るクロウの剣撃を受け止めるヒカリ。そこに、ユリエラが火の魔法を、クサナギが風の魔法を止めどなく放つ。そこで生まれた隙を逃さず、大剣を突いたヒカリ。クロウがよろめいた瞬間、炎を纏った剣が両翼を焼き斬った。悲鳴を上げるクロウは、クサナギが操る鋼の糸により拘束される。


「師匠、アウディは倒しました。だから、安心してください」


 言葉は届いていないだろう。そうわかっていても、声をかけたくなる。


「ウィル様のこと、必ず救います! だから!」


 剣を振り切ろうとした際、クロウは雄たけびを上げる。鋼糸が食い込み、今にも千切れそうな腕を使い、大剣で受け止めた。だが、力押しなら師匠にだって負けない。この体質が嫌でも、そう自負しているヒカリは、クロウの大剣に自分の剣を捻じ込ませた。その途端に、クロウの大剣は光の粒子となり、徐々に分解されていく。


「安心してください、師匠」


 クロウが、天に昇るように消えていく。


(ありがとうございます、師匠。私たちを命がけで守ってくれて)


 目を瞑ると、涙が頬に流れた。大剣ごとクロウの身体を二分にし、大聖剣を鞘に収めるヒカリ。クロウの表情は、微笑んでいる気がした。



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