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第二十六話 国王との対峙

 地下牢に、門番さえも知らない抜け道がある。それを利用し、シュウはユリエラを脱獄させた。そして、遺体を帝国で葬りたいという彼女の要望に応えるため、城外の安全な場所へと運び出す。その時に、取り上げられていた装備も渡した。


 それらを終えた二人は、王様に謁見を申し込む。珍しいこともあるものだと、快く受け入れたマサハルは、謁見の間へと通した。


「……兄様。帝国を救うのに、協力してください」


 マサハルの眉がぴくりと動く。


「確かに、俺たちの親は殺された。でも、ウィルは泣きながら殺してた。きっと、何か理由があったんだと思う」

「理由があれば殺していい……そう言いたいのか?」

「そうじゃないけど、俺たちがやろうとしてるのも同じだから、人のこと言えないはず」


 親を殺されたことを理由に、ウィルを殺そうとしているのだ。その正論に、マサハルは黙る。


「俺、帝国にしょっちゅう行ってた。そこで、分かった。帝国の人間は全員が悪人じゃない。優しい人もいた。お世話になった人もいる。だから、助けたい。それに、ウィルが泣いて殺した理由を知りたい」


 シュウが言い終えると、すかさずヒカリも話し始める。


「私、攫われてなんかない。話せば長くなるけど、帝国には大切な人がいて、その人たちを助けたい。だから、お願い。二人の解放と、帝国を救うのに協力してください!」


 アキラは、首を傾げる。


「それは滑稽ですね。二人は既に、脱獄されましたので」

「……お前たちがやったと聞いたが、事実か?」


 あれから三十分も経っていないのに、なぜ知っているのだろうか。だが、考えている場合じゃない。


「やったよ」


 ヒカリが断言すると、マサハルはため息を吐いた。


「どうやら、帝国に洗脳されたようですね。いいですか、帝国を滅ぼすために戦を行うのは、王命でございます。逆らえば、どうなるかご存知でしょう?」

「知ってるよ」

「……では、死んでいただきましょうか」


 相変わらず冷めた表情のアキラは、指を鳴らした。マサハルは、二人から目を背ける。


「衛兵、此方へ。反逆者二名を処刑してください」


 扉の外で待ち構えているはずの衛兵が、此方に来る気配がない。扉が開かれ、代わりに現れたのはナツキだった。その手には、紐に刃が備え付けられた鞭を持っている。


「もう、我慢しないわ」


 妹と弟を守るように、目の前に立った。


「帝国が憎くないのか」

「憎いわ。けれど、考えてみたのよ。私にとって、何が最悪なのかを。それは、帝国の人間や、ウィルを生かすことじゃない。ヒカリをもう一度失うことよ。それに、ヒカリに嫌われること。だから、私はヒカリとシュウの味方よ」


 黙って処刑されるわけにはいかない。何としても説得してみせる。覚悟を決めているヒカリは、大聖剣ガウェインを取り出した。シュウもまた、槍を構えている。


「……そうか」


 マサハルは、徐に立ち上がる。そして、王座の後ろに立てかけていた二本の槍を手に取った。アキラもまた、黒く染まった槍を構える。


「……兄妹だからと手加減はしない。自らの手で、刎ねさせてもらう」






 マサハルの疾風怒濤の槍裁きを受け止めきれず、先に倒れたのはシュウだ。ヒカリは、エクスレイドの指示を受けながら避けてはいるが、攻撃に転じられない。一方でナツキは、アキラと一対一で殺り合っている。騒ぎを聞きつけた衛兵らは、傍観することしかできない。


「……一つ、いいか」

(跳べ、足元の薙ぎ払い!)


 思い切り跳び、攻撃を交わした。だが次の瞬間、もう一本の槍が心臓めがけて追撃する。その突きを、大聖剣ガウェインの刀身で受け止めた。が、吹っ飛ばされたヒカリは、お得意の力を使って踏ん張る。彼女には、言葉を交わす余裕すらない。


「大切な人の名を教えろ」


 マサハルは、断ち切れていなかった。考え方は違えど、ヒカリを一人の女性として愛している。だからこそ、彼女が想う人間を知りたい。


(体力が消耗しきる前に、何とかしなければ……)

(俺だったら、こんな奴軽く捻ってやれんだが)

(冗談言ってないで、策を考えてください!)


 息を切らしているヒカリは、黙り込む。時間を稼ぐ算段だ。その間に、マサハルを打ちのめす案を練る。だが、シュウは何カ所か骨折していており、起き上がることさえ難しい。一人で対処しなければならないことが前提となると、何も思い浮かばない。無謀では、太刀打ちもできない。


「……ウィル」


 その言葉に、マサハルは立ち止まり、俯いた。


「……そうか」


 目を伏せながら、槍を持ち直す。その手は、怒りに震えていた。


「後で、奴も送ってやる。そっちにな」

「止めて、兄様!」


 アキラとの戦闘を放棄し、ナツキはヒカリの前へ飛び込んだ。マサハルから繰り出される一撃を、身を挺して受けようとしたそのとき。金属音が鳴った。


「間に合ったようじゃの」


 衛兵の群れを掻き分け、前に出たのはクサナギとエリカ。だが、ヒカリとナツキを守ったのは、彼ではない。剣を振り、槍を弾き返したのは赤髪の女剣士――


「ユリエラさん!」


 アキラは不機嫌そうな表情で、新手の剣士を睨んだ。人数が増えては、いくら強くても不利になる。


「戻ってくるとはな……」

「もう見過ごさないって決めたから」


 ユリエラは、柄を握り直す。


「レイン様が亡くなられたとき、私は目を瞑ることしかできなかった。長年連れ添った武官なら、最後を見届けなくちゃいけなかった。それだけじゃないわ。レイン様を楽にすべきは、私の役目だったはずよ。なのに、それをやるとも言い出せず、拒んでしまった……」


 ユリエラの脳裏には、レインの死に顔が過る。触れると少しだけ温かくて、つい数十分前まで生きていたことを実感したあのときを。


「……もう、自分がやるべきことを拒まない。それが茨の道でも、やり遂げてみせる」


 ユリエラは、マサハルに向かって剣を突きつける。


「だから、あんたに協力してもらうわ」

「戯言を……」


 協力してもらうためには、マサハルとアキラを武力行使で説得するしかない。しかし、今の状況は劣勢。これを覆すには、どうすればいいか考える。そのとき、エクスレイドが呟いた。


(敵が二本なら、こっちは三本で戦え)

(大剣ナイアレイと、ガウェインと……そっか!)

(待ってください! 大剣の二刀流なんて、聞いたことありません!)

(いや、こいつならできる。なんたって、ゴリラ女子だからな!)


 エクスレイドから、詳しい作戦を聞く。それには、ユリエラが必要だ。彼女に目線を配り、隣に立つ。シュウは、ナツキの手を借りて何とか立ち上がった。ヒカリとユリエラはマサハルを、シュウとナツキはアキラを睨む。


 ヒカリとユリエラは、同時に走り出した。マサハルもまた、構える。二本の槍を長めに持ち直した。攻撃範囲内に二人が入った瞬間、マサハルは前傾姿勢に変えてから真一文字に振り切る。


(今だ!)


 右手に大聖剣ガウェインを、左手に大剣ナイアレイを持ち、その場に留まった。かと思えば、二本の槍を各々の刀身で受け止める。直後、手を離して槍を掴み、マサハルの自由を奪った。そこで生まれた隙をユリエラは逃さない。懐に飛び込み、マサハルの首根っこに剣を当てる。不利な態勢を巻き返すため、アキラが駆けつけようとする。


「陛下!」

「させないわ!」


 アキラがヒカリへ攻撃を加えようとした隙に、鞭で槍を巻き取って自由を奪う。シュウはすかさず、アキラを床に伏せさせて、顔面に槍を向けた。


「くっ……」






 対多人数ではあったが、マサハルは敗北を受け入れた。方針を変えることを渋々了承し、演説を行い民を説得すると約束する。帝国へ侵攻すること、ヒカリが大聖剣ガウェインの適格者であること。そして、帝国を救うべく力を貸してほしい、と。


 民を集め、マサハルは講じた。当然、民からはブーイングの嵐が起こる。しかし、ヒカリが登壇して、攫われたことは嘘であり、帝国にはお世話になったこと、帝国が魔獣に脅かされている現状など、実体験を交えて話した。そこにシュウも加勢し、困っている人間がいれば助けるべきだと呼びかける。さらにはナツキも現れ、民に寄り添いつつも、今を生きることの大切さを説いた。


 演説を終えた後も、一部の民は反発している。だが、殆どの民は王に従い、戦の準備を進めた。そして、開戦前夜を迎える。ヒカリは、城の地下に急遽作られた冷凍庫の前に立っていた。中を開けることはできないが、そこにはレインが横たわり、保存されている。


 ウィルに、なんて伝えればいいのだろう。レインの死を知れば、彼は悲しむに違いない。最悪の場合、自暴自棄になることもあり得る。けれど、どうなろうと支えてあげたい。そして、病に苦しむウィルを救いたい。魔獣を一掃して平和な世界を築く、という願いも叶えたい。レインの願いも、この手で成し遂げたい。そこに、ユリエラが現れた。冷凍庫の前で立ち止まると、ひんやりとした扉に触れる。


「目、覚ましてくれないかしら……」


 寂寥感を漂わす彼女の肩に、そっと手を添える。


「もし、って考えるの。もし、レイン様が王国に行くのを阻止していれば。もし、帝王を殺していれば。レイン様は今も生きていて、元気なお姿で、ウィル様とご対面できたかもしれないって」


 赤く腫れた目を擦る。彼女の目の下には、くまができていた。


「それだけじゃない。恋い慕っていることを言えなくて……すごく、後悔してるわ」


 あふれ出る涙は、幾ら擦っても流れていく。


「この気持ちを伝えたい人が、どこにもいない。目の前にいるのに、ずっと遠いところにいるから。いくら好きだと言っても、答えは一生返ってこない……」

「ユリエラさん……」


 崩れ落ちそうなユリエラを、ヒカリは両手で支えた。


「……こんな思い、ヒカリにはしてほしくないから」


 悔しそうに拳を握る。肩を震わし、嗚咽を漏らしながら、ユリエラは額を扉につけた。


「ちゃんと……伝えるのよ……」

「……わかりました」


 ヒカリは力強く頷いた。必ず、ウィルに伝えようと決める。たとえ、結ばれないとしても。


「ヒカリ姉様!」


 階段を飛び降り、シュウが駆け込んだ。


「どうしたの?」

「大型魔獣が現れた、坑道に」

「……どんな魔獣?」


 もしかしたら、クロウかもしれない。となれば、一人で行くのは危険だ。だが、クロウが魔獣化しているならどんな姿になっているのだろうか。聴いてみたものの、想像がつかない。


「二体の大型魔獣を、鎖で繋いだ人間が宙に浮いている。そう言ってた」


 特徴に、覚えがある。ヒカリは、ユリエラと視線を合わせた。彼女もまた、思い出したようだ。クロウが消えた、あの日のことを。そして、クロウが消える原因となった大型魔獣のことを。


「……行ってまいります、レイン様」


 振り返ると、ユリエラは涙を拭った。


「行くわよ、ヒカリ!」

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