第五話 「日常の崩壊」
「ヤバ!」
お茶を啜って座っていた俺の目の前でいきなり汚いローブが立ち上がった。
その時、汚ったらしいローブの裾が麦茶入りのカップを倒した。
「なっ!お茶こぼすなよ!」
「あ、すいません。台布巾ありま・・・じゃなくて!魔王様!天界の奴らに見つかりました!」
「はい?」
そう言われた時、俺は違和感に気がついた。
音がしないのだ。
遠くで発せられる生活音も、車のエンジン音も夏虫の声さえも聞こえてこない。
「ぇ・・・なんだこれ」
「空間が切り離されました!これだと、ど○でもドアでの脱出もできましぇん!」
「やっぱど○でもドアなんじゃねえか!」
「そんなツッコミ後にしてください!パターン青!使〈ドキューン〉です!」
「エ○ァか!」
その時、真夜中の夜を切り裂くように天から一筋の光の柱が射した。
溢れ出る光は闇を照らし、黒から白へと世界を塗り替える。
「ナンダコレェエエエエエエエエー!」
「使〈ぱーんっ〉降臨します!」
一際天から光が強くなり天上より3つの影が現れた。
その影は逆光を浴び黒く塗りつぶされた影すらも弾き飛ばす
輝ける対の翼を広げ
「「「ヒャッハーーーーーーーーーー!!」」」
奇声を上げながら俺の部屋の窓を叩き割って侵入してきた。
「俺たちゃ!」
「正義と平和を司るメルキセデク様の名代!」
「光の執行三天使!モヒーカーン三兄弟だ!!」
「「「ヒャッハーーーーーーーーーっっ!」」」
輝く閃光を放つ翼を広げ、戦隊ものよろしくポーズを決める。
いきなり窓ガラスを叩き割って侵入してきた世紀末を彷彿とさせる三人(人か?鳥か?)は
筋骨隆々の上半身をむき出しに、ぱつんぱつんの黒皮のパンツを履き、そして頭部にはギ○ッツビーのCMを思い出させるような
逞しい・・・鋭い・・・ん~・・・?トサカ?
な、モヒカンに光り輝く輪っかが突き刺さっている。
正に世紀末の体現者だ。
「「「ヒャッハーーーーーーーーーーーっっ!!」」」
「煩いわっ!」
スパーンっ!
っと小気味いい音を立てて、俺は真ん中で胸筋をぴくぴくさせているモヒカンA(以下A)の顔面を丸めた雑誌で叩いた。
「あ、べしっ!」
「「兄貴っ!?」」
大袈裟に鼻から血を間欠泉の様に噴射したAを左右にいた2人が慌てて支える。
「さ、流石は魔王様!有無を言わさず顔面強打!?そこに痺れる憧れる!」
「お前も引っ叩いてやろうか?」
「お断りします」
「ちっ・・・で、このモヒカンはなんなんだ。お前の友達か?」
「いえ、違います。彼等は・・・天界の兵、神の手先、天使です!」
「はぁ~?このモヒカンがか?どう見ても世紀末DQNだろ・・・」
俺がそっとモヒカンを見やると、漸く血が止まったのかAを支えながら三人がよろよろと立ち上がった。
「よくもやりやがったな・・・!」
「流石は魔王の生まれ変わり・・・」
「名乗りもしないでいきなり兄貴の鼻を再起不能にしやがるとは」
「「「さては貴様DQNだな!!」」」
「お前らに言われたくないわ!!」
スパパパーンっ!
と左からモヒカン三人の鼻を丸めた雑誌で殴打した。
「「「たわばんっ!!!」」」
瞬間、三つの紅い噴水が上がり、俺の部屋を染めた。
床が大変な事になっている。
「クソッ!なんなんだこいつら!」
「気をつけてください魔王様!こんなんでも天使です!」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
若干鼻血を浴びた汚ローブ女が警戒を発するのと同時に、今まで鼻血の噴水を上げていたモヒカン三人は無言でこちらを見つめてきた。
おもむろに潰れた鼻を右手の指で引き延ばし
「きれちまったよ」
とこっちに視線をぶつけてきた。
「おいおい・・・これもしかしてやばい?」
「魔王様が無茶するからぁ・・・」
「俺のせいかよ!」
「どう考えてもそうですっ!」
「「「ぶっころがしてやるっっ!!!」」」
直後三人の手に光が集ると輝く白銀の手斧にかわり
俺目掛けて勢いよく振りかぶってきた!?
「ちょまーーーっ!」