第三話 「帰ってきちゃった」
「ほらよ、麦茶」
「ありがとうございます!魔王様!それと何かお菓子ください!」
喉が渇いただろうと気をきかせた俺に、お礼と要求をぶちかますイカレ女を横目に
俺は座布団を手繰り寄せ、どっかりとあぐらをかく。
魔界で闘争(子供じみた言い争い)を経て、疲れ果てた俺たちはドア・・・門?
を潜って俺の部屋に帰ってきていた。
窓の外にはいつもの街並みがある。
犬の遠吠えや、隣の家からガシャーンと皿かなにかの割れる音が聞こえてくる。
若干聴こえてくる叫び声はたぶん夫婦喧嘩だろう。
現代日本の夜中だ。
冷蔵庫で冷えた麦茶が使い疲れた喉を癒す。
(にしても・・・なんで俺はこの若干汗臭い汚い女と自分の部屋で会話してるんだ?)
そう、今更ながらおかしすぎる。
たしかに俺は友人や親から「お前は動じないよな」なんてよく言われるが、明らかに常軌を逸してる。
目が覚めていきなり目の前に汚い女が「魔王様!」なんて言ってて、しかも異世界移動?テレポート?良く分からん手品をつかって、あまつさえ茶菓子を要求されてるにも関わらず。
俺はそいつを前に麦茶を飲んでいる。いや、おかしいだろ。
「あ、その表情・・・。流石に気がついちゃいました?」
すごいドヤ顔でチョコチップビスケットのかけらを口の周りにつけたきちゃない女がこっちに顔を向ける。
殴っていいかな?
「気が付く?つか、口の周り拭けよ」
「ふっふっふ。魔王様は既に私の術中なのです!」
ドーン!
どっかのセールスマンのごとく、俺に人差し指を突きつける汚いガキ。
指差すのやめろ。へし折るぞ。
「術中ってなんだよ」
「ふっふっふ。私の魔術により魔王様は私に『不信感』を抱かないのです!」
「ナ、ナンダッテー!」
何言ってんだこいつ?
「あ、今何言ってんだこいつ。って思いましたね?」
「あ、ばれた?」
「顔に書いてあります。魔王様はわかりやすいですね!」
「あ、なんかイラっとする」
「まぁまぁ、落ち着いて。このお菓子どうぞ?」
「あ、さんきゅー。って、これ俺が買ってきたやつだよ!」
「小さい人です・・・いや魔王さまです」
「お前さ、魔王様とか言いながら全然敬ってなくね?」
「それはさておき」
「置いとくんだ?」
「こほん、私の得意魔術は『転移』です」
「まぁ、ど◯でもドアとか出すしな」
俺はもう、こいつが脳内設定で動いてるとは思わなかった。
流石に目の前で見て体験したとなると否定できない。
「で、簡単に説明すると。私に対する魔王様の不信感を別の人に転移してるのです」
「は?」
「あ、安心してください?私に対して完全に信用する!とかいう魔術では無く。ただただ不信感を抱かなくさせているだけですので」
「いや、それ危なくね?つか、やり方次第で悪事し放題じゃね?」
「それがそうでもないのですよね・・・」
「どうゆうことよ」
「え~説明めんどくさい」
「殴っていいかな?」
「お断りします」
「いいから説明しろ!」
「は~い」
そして、メティは『不信感』の魔術を説明しはじめた。