プロローグ
「おっぱいって何であんなにすばらしいんだろう?」
俺は窓から校庭を見つめるふりをしつつ陸上部の女子をガン見していると、後輩の大山ちゃんと目があってしまった。誤魔化すように軽く手を振ったあと、暫くしてから空をみつめていた。
手には、先日あった模試の結果と、大学の進路判定Cの書類。何とも憂鬱な気分になっていたのは間違いないが、とても人に聞かれたくない言葉を無意識につぶやいているのは大問題だろうか?
いや、そんなことはない。アイツがいけないのだ!そうだ!アイツの「おっぱい」がいけないんだ!そうだ!そうだ!
心の中で絶叫したが気分は晴れない。当然だ、あの「おっぱい」パニックのせいで家に帰っても、勉強に集中できなかったのだから。
今にも雨が降りそうな天気に、上がらないはずのテンションはねじれにねじれて、あさっての方角へ向かって昇り昇っていった。
もとを正せば自分が悪いのは分かっている。高校三年の秋、いろいろと焦りが募るこの時期に、この結果はまずいだろう。まずいのは分かっているが、自分なりに頑張ってはいるのだ。だが結果は付いてこない。
大学のランクを下げるべきか?いや、家の経済状況から今の大学以外に選択肢はないと言っていい。下には2人妹もいる。三人同時期に大学に行くとなると家の経済は破綻する。破綻するは言い過ぎだが、教育ローンやらなんやらかんやらで必要以上に負担を掛けたくない。上の妹は優秀なので、奨学金を受けるのは問題ないむしろ特待生としていけるんじゃないだろうか?自分は残念ながら選考基準から外れしまう。更に下の妹は俺に輪をかけて適当だ。そのくせ、同じ大学に行くつもりらしい。高1から目標を持つのは良いことだが、それならばもっと勉強してほしい。
しかし、アホな子ほど可愛いとは良く言ったもので、こんなに可愛いなら、少々アホでも可愛いさだけで受かってもいんじゃね?と冗談でいったら、両親に「そうだね。」と素で返された。親ばかここに極まった。
上の妹はかなり呆れた顔をしていたが、当の本人は嬉しくてしょうがないのと、恥ずかしくてしょうがないのが入り混じった複雑な表情でソファーに転がり込み、クッションに顔をうずめながら、こちらをチラチラ見てくる始末。しかしこのしぐさ、これが、馬鹿可愛いとか、ウザ可愛いというやつなのか!?と驚愕した。こんなアホな妹にも大学に行きたいならいいよ。と、送りだしてくれる両親の為にも俺は頑張らないといけない。こんな事なら高一から真面目に勉強して、それなりの成績を取っておくんだった。
高三になってから猛勉強し、それなりの成績になり合格ラインになんとか引っかかってきてはいるが、間に合うかどうかはまだまだ分からない。こんな「おっぱい」がどうこう言ってる場合じゃない。場合じゃないんだが「おっぱい」が!
「直也、そのなんだ、言いにくいんだが、ブルドッグがくしゃみを我慢している顔になってるぞ?」
俺の悶々としている思考を酷いことを言って邪魔したのは、篠原広太。中学からの親友だった。
「あまり結果が良くないからって、妄想の世界へ逃避するのはどうかと思うぞ?まだ学校なんだから自重しろよな。」
厳しいお言葉だ。コイツは昔からこうだ。部屋が汚い、服はもっとセンスのいいの着ろよ、だの、しまいには急に家に着たくせに、家のなかでもトランクス一丁はどうかと思う…ときたもんだ。最近でも、エロ本はもっと工夫して隠せとか、お前はなんだ?俺の彼女か?彼氏か?といったくらいの仲である。コイツに隠す事は何かあるのか?俺は? 地味にスペックの高いこの親友は、175くらいある俺より、少しというか、かなりというか背が低かった。165と自称していたが、もっと低い気がするのはその、何というか可愛い顔立ちのせいだろうか?幼いとはまた違う、儚さみたいなのが男なのにあるのだ。その気はないが、たまに、ほんのたまにだが、胸のない女の子なんじゃないか?と中学時代は思ったりした。性格はサッパリとして男らしいので本人も昔は線がすごく気にしていたようだが、今では吹っ切れたものでよく2人でスーパー銭湯に行けるくらいだ。そんな広太が注意するくらいなのだ。相当酷い顔をしていたのだろう。さすが「おっぱい」様、俺の脳はもうパイパニック状態だよ。
あー、もし、万が一にでも、天文学的数字分の確率で広太がもし女の子で、胸があったなら、もしだ、もしもの話しだ、そしたらきっと俺は全てを打ち明けてお願いすると思う。これはあくまでも、今までの付き合いがあるからこそのお願いであって、決してその気とかそういった関係とかじゃなく、友達。そう、友達としてお願いしたいと、いや、お願いする?お願いします!その胸に!その「おっぱい」に顔をうずめてよろしいでしょうか!?いや、うずめさせろこの野郎?
「お前、何を考えている?」
ニコリと俺に問いかけてくる。
いや?なにも?と、普通に答えようとしたが言葉が出ない
「いや、ふっつっふうな、なんでもないよ?」
変なん呼吸をしてしまい、もう何というか変態みたいな息づかいになってしまい、さらに険しい視線を広太から感じる事になってしまった。分かってる、ヤツはきっと感づいている。どうしょう?窓際の席なので後ろはもうない。椅子に座ったまんまなので、今から立ち上がっても逃げ切りはしない。そして何よりヤツは俺の行動パターンを把握している。そうだ、話しをそらそう。
「そう言えば、楓のやつがな?」
「ごまかせると思うなよ?」
この話はダメか。やはり読まれていた!しかたない。
瞬間的に俺は考えを巡らせた。本当の事を話そう。問題はどちらの事を話すかだ。広太におっぱいがあったらお願いして胸に顔をうずめさせてください。お願いします!だ、だめだ、殺される!肉体的、精神的、社会的、まんべんなく殺される。
俺の可愛い妹達に、やつはきっと
「君のお兄ちゃんは凄く変態なんだよ?知ってた?」
なんて軽く言って、その後に
「確認してごらん?」
というに違いない。
「「お兄ちゃん変態なの?」」
ダブルで言われたら心が壊れてしまう!いけない!これはいけない!想像しただけで心が壊れてしまいそうだ。ならば、やはり「おっぱい」の素晴らしさを語るしかないだろう。同じ男として問題はない。全くない。むしろなぜそんな話になったか説明しないといけない。それもヤバい!
そうだ、校庭の女子がいたじゃないか!ガン見してチェックもオッケーだ!適当にごまかせる!曖昧さでは逃れられない。コイツはそういう奴だ!だが俺はおっぱいについてなら何時でも語れる。
「さっき校庭をみてちょっと「おっぱい」について考え事をしていたんだよ。今走ってる女子をみてくれないかい?」
「今走ってる子?そうだね、胸凄く揺れてて大変だよね?」
「そうだろ、あれくらいほしいよね。」
よしのってきた!さすが親友、うまくごまかされてくれた。
「ところでその隣のポニテの子なんだけど、チョット物足りなくない?おっぱいマイスター?」
広太が俺に聞いてくる。な、なに!後の先だと「おっぱい」問答で俺がいきなり返しを喰らうとは
「えっ、そ、ソンナコトナイヨ、十分アルトオモウヨ?」
「ほんとに?その横の子なんだけど、身長に対して大き過ぎないかい?」
「人それぞれだろう?みんな違って、みんないい。」
「さすがマイスター、言う事が違うね。」
「いや、それ程でもないよ?まあ、「おっぱい」の道は1日にしてならずと言ってだな?」
「なる程、素晴らしい持論だ。傾聴に値するよ?ところで、君の考える1番価値のある「おっぱい」とやらは誰のものなんだい?」
更に突っ込んでくる腕を上げたな、広太!!
「いやいや?先程言ったとおり、みんな違ってみんな良いんだ?誰が1番なんてそんなのナンセンスなんだよ。」
「うん、それは分かった。しかし、趣味、嗜好、時代は変わっていくなかでも真に素晴らしいものは、その価値を失わず燦然と輝くものだと思うんだよ。ダビデ像然り、モナリザ然り。」
「つまりマイスターとしての真価を示せというのだな?」
「話が早くて助かるよ、さすがマイスター。」
「そうだな、ならばあえて言わせていただこう。巨乳ということならみんなもご存知、生徒会副委員長の吉田ちゃんだろう。乳だけでなく身体の肉付きから蠱惑的な魅力がある。メガネにショートカット!ある意味最高の巨乳キャラと言える!!次に美乳なら隣のクラスの佐山、全体的に綺麗にまとまっていて、大き過ぎず小さ過ぎず、ザ、美乳というところで、ストレート黒髪を腰まで伸ばした姫カット!!これらは甲乙付けられない。いや、優劣をつけるなどおこがましいにも程がある!」
「因みに将来性では?」
「馬鹿な!?今現在ある素晴らしいものにすら把握出来ていないのに、これからのものを物色するとは、嘆かわしい。」
「つまり、今現在台頭していない乳は興味なしと?」
「そうは言っていない。今からの乳に目を付けて、将来素晴らしいものになった時にわざわざ、将来性を見越してチェック入れてました。僕の見る目に間違いはない!【キリッ】なんて格好悪いどころかキモイ以外の何者でもないな。「おっぱい」とは神聖にして不可侵なるもの!!本来ならば俺は罰せられなければならないくらいの事を言ってしまったのだ!分かるか?同志広太よ?」
「んー、分かるようなわかならないような?ちなみに誰に罰せられるんだい?」
「それは広太決まってるだろ?乳神様だよ。」
「乳神様?そうか…直也、お前を罰するのは俺ではなく乳神様なんだな?」
ニヤニヤしながら俺に言ってくる。
なにを今更、お前に罰せられなければならない理由はない。俺と「おっぱい」談議をした時から同罪と決まっているのだよ?なぜわからない?
俺が胸のうちを全てさらし、お前は真の同志であることを熱く説こうというときに、
「ほほう、人を呼び出して図書館で待たせておき、さらには迎えに行った広太君まで変態の道に染めようとは、私に罰せられてもよいと?いい覚悟だ。服を脱げ。」
振り返ったその視線の先には、乳神様ではなく小さ過ぎず大き過ぎない程よい俺の理想とするあと少し大きいと更に最高の「おっぱい」が、いた。間違えた、幼さなじみ、橘楓がニイッと笑って立つていた。
「か、楓?いや、ほら乳神さまじゃないから俺を罰したりしたらダメだよ?それに広太は男の子だから「おっぱい」には興味津々だよ。それに女の子が男の子に服を脱げって言っちゃダメだよ?逆ならありだけど。」
「その口を縫い合わせてやろうか?大丈夫!心配しないでいいよ?食事の度に抜糸して、終わったらまた縫い合わせてあげるから。」
「怖いよ!なにを心配しなくていいんだよ!常に縫い合わせてないと心配な俺っておかしいだろ?」
「女の子の前で、乳だのおっぱいだのセクハラを連呼するような口は一生閉じていればいいと思うが?手をワキワキさせるな!いやらしい!死ぬか?」
「違うね。これは乳神様との交信んっふふ!」
ミゾオチにゴッドブローが決まった!
こっ、呼吸ができない助けて乳神さま!
バタン、ゴロゴロ。
苦しさのあまり床に崩れ落ちのたうち回る。
そんな床に転げ落ちた俺のシャツをまくりあげ、楓は背中にバシッ!とビンタをした。
「フッフッフー、楓印だ、とっておけ!」
意味が分からない。俺の背中には真っ赤な手のあとが残っていた。
「楽しそうなところ悪いんだけど、今日は雨も降りそうだから帰らない?」
広太のその一言で俺は、今日の放課後まったく勉強していない事に気付いた。
「そうだな、でも少しだけ答案を見直してから帰るよ。楓のせいで勉強出来なかったからな。」
立ち直った俺は広太に伝える
「分かったよ。でも人のせいにするのはどうかと思うよ?」
軽い言葉だったが、その声にはいつもの俺を注意する声ではなく、なにか含んだものがあるのを感じて
「やっぱり帰ろうかな。」
と言ってしまう。
「せっかく楓さんが来てくれたんだ、一緒に見直しておいたら?僕は帰るから、また、明日ね。」
「ごめんね、広太君。こんど直也に埋め合わせさせるから。」
「いやいや、気にしてないから、それより本格的に天気が崩れそうだから、2人とも早く帰ったほうがいいかもね。じゃあ、また、明日。」
そう言って出て行ってしまった。
広太がいなくなるとなんとなく、さっきの空気とは変わってしまって勉強モードになってしまい、お互い必要以上にしゃべらなくなってしまった。1時間ほど見直した結果、ケアレスミスが兎に角多く落ち着いてやればかなりいけちゃうんじゃね?という程であった。これも全て、広太、楓のおかげだ。そして、全てを俺がダメにしていた。今の俺には油断大敵、ケアレスミス、が最高に抉る言葉だった。
雨も降ってきたので、帰ろうということになり、2人並んで傘をさして帰る道の途中。公園へ降りていく階段を見ながら
「ここの階段ですべり落ちたんだよね。」
と、楓がくやしそうに呟いた。俺はなんとなく、そうだったね。と答えると、
「あの日も雨だったよね?」
あの日も3人で勉強をしたあと、一緒に帰っていた。もっと霧のような雨で前がほとんど見えず傘もささずにいた。もっとも広太だけは傘を持ってきていて、楓に貸すよと言ったのだが、広太君が濡れて風邪を引いちゃうよ。と断っていた。
そんな特に何事もない帰り道、まさにここでランプを点灯していない自転車が霧の中から飛び出してきた。
楓はとっさに横によけていたが、正面から出てきた自転車はスピードを緩めずに進んでいった。よけた楓はバランスを崩してしまい、そのまま階段へ落ちていく。俺はとっさに楓の肩を掴み、そのまま両腕で抱きかかえるかたちで落ちていった。階段の角で背中をうちつけ、頭も少し打ったようだが、俺は楓を抱きしめた瞬間に
「なんて柔らかいだ?あれ?この手に当たる柔らかいなにかはまさか?」
とかそんな事を考えていて、痛さよりも少し濡れた制服ごしの肌触りと女の子特有の甘いような香り、そして「おっぱい」様の余韻に浸っていた。
「おれ、このまま死んでもいいかも。」
あまりの衝撃に楓をだきしめたままそんな事をつぶやいて気絶した。あとで聞いた話だが、がっちり抱きしめていたらしく離れるのに一苦労したらしい。
しょうがないだろう?だって凄く柔らかく細くてそれでいて温かだったんだから。
思い出すと顔がニヤケてしまうが、その後の病院での事を思い出すと心が寂しくなる。それに今は楓が近くで俺の顔をのぞき込んでいる。よけいなことは今は忘れよう。
「どうしたの?頭打ったの思い出して嫌な気分になった?」
セミロングの髪が雨に濡れて、仄かな色気を匂わせる。あの日を思い出してしまう。
「いや、楓も育っているんだなと思い出して感慨深い気持ちにな?」
足を蹴られた。ほんとうの事なのに。
「あの日助けてくれてね、まあ、嬉しかったよ。なかなか抜け出せなかったのには困ったけどね?」
少し照れながら話す楓はいつの間に傘を畳んで近づいていた。
「どうした?濡れて風邪をひいちゃうぞ?」
俺の言葉を無視して楓は話を続ける。
「あの時、このまま死んでもいいって言ってたでしょ?どうして?なんとなくって言葉じゃ納得できないよ。それとも辛い事ばかりなの?わたしの自惚れかもしれないけど私を助けて満足したの?答えてくれる?」
ああ、聞かれいたのか。しょうもない理由だろ。楓を感じて満足しただなんて?そりゃ、男だからあんな事や、やらかしたいとか思うこともあるが、あの時はそんな事より、楓の柔らかさ暖かさが満足した。それだけだ。わざわざいわせるなよ恥ずかしい、と言ってやりたい。でも求められている言葉がこれではないような気がする。こんな時なら広太ならどうする?、いや、この問題だけは広太に頼れない。
「受験とか、将来とか、不安な事はいろいろあるけど、あの時は純粋に楓を助けられて満足したんだよ。あと、少しばかり役得があったからついな。そんなに深い意味はないよ?」
「本当か?隠しても無駄だぞ!」
遠くで雷がなった。
「本当だ、これ以上は幻滅する内容だぞ?それでもよければ説明しよう。」
複雑な顔をした楓にさらに
「雷も鳴りだした、早く帰ろう?な?風邪ひくぞ?」
納得したのか
「そうだな、直也はそういうやつだったな。それなら…な?」
俺の後ろに回り込んで抱きついてきた。「おっぱい」が「おっぱい」が当たってます!あたってますよ!楓さん!
「心配したんだ。悩んだんだ。直也は私の為に死ねるのか?死ぬのか?考えすぎなのはわかっている。勘違いしたのも分かっている!でもな、起きてこない直也を!なかなか私を離してくれなかった直也を私は!私はな!」
「どうしたんだ?俺は大丈夫だし、楓も無事だった。それでいいじゃないか?」
「そうじゃない、そうじゃないだよ!」
いつもは冷静に俺を罵倒し、勉強では真剣に面倒を見てくれる。同一人物か?と偶に思い口にだして聞いたら、一時期勉強中も罵倒するようなことがあった楓だがこんなに取り乱すのは、いつの頃以来だろうか?
「いま!いま!このタイミングで言うつもりはなかった、いつか、いつの日か伝えるつもりだった!でもだめだ、だめなんだよ。」
小さい子が不安を口に出すように、どこにもいかないように捕まえるように腕に力が入る。
「後ろからでなければ抱きしめられたのにな?」
軽く言い場を和ませようとする。
「分かっててそう言う事をいうのは卑怯だよ!」
背中にさらに胸が押し付けられる。このおっぱいを守れたんだ、確かに俺は満足するよ。
「直也どこにもいかないで、好きなんだ。好きなんだよ!」
雨はさらに強くなってきた。
俺の答えは決まっている。いつか、いつの日か伝えるのは俺だと思っていた。例え拒絶されても感謝の言葉を伝えるのは俺の方だと思っていた。あの時だって、当然だと思って、いや考えもなく体が動いただけなんだ。
「どこにも行かないよ。」
それだけ答えた。
「それだけ?ねぇ?それだけなの?」
楓は多分不安なんだと思う。今この不安を手軽な安心でおぎなおうとしていると思う。思い出して不安になって、考えて考えて、不安になって。こんな考えをする俺はヘタレなんだろうか?
「俺は、楓が大切だ。だから、今はダメだ。」
「意味分かんないよ!」
もう子供の返答だ。
「俺も楓だ大事なんだ、だから今は言わない。この気持ちは楓がもっと落ち着いた時に俺から言うつもりだ。」
「お、おんなのこに恥をかかせるの?嫌いならもうそう言ってよ!」
そんな事一言も言ってないよな?しかも泣きだした。
「よく聞け?今のはノーカウントだ?いいな?」
「なかった事にするの?ひどい、非道すぎるよ!」
拉致があかない。
無理やり腕を振りほどき、目があった。涙と雨でグチャグチャになった顔がとても愛おしい。その顔は拒絶された絶望にそまっていた。その顔を俺の胸に抱きかかえて、
「分かった。受験が終わったら俺から言わしてくれよ。」
ギュッと抱きしめる。
「その時に、うぇ、違う人が気になってるかもしれないじゃない?わたしが、」
「そうか、それでも言わしてもらうよ。無理にでも聞いて貰う。」
「受験失敗しても私のせいじゃないからね?」
「もう1年勉強を教えてください。」
「絶対にそっちから言ってよ?」
「約束するから受験勉強お願いします。」
「キスしようか?」
……
「ごめん、ちょっと私おかしかった。」
いえ、あまりにびっくりして思考停止してしまいました。
「あのね、明日から、明日からまた大丈夫だから抱きしめてくれる?」
俺の幼さなじみが大変な事になっています。あまりの事に俺は動けない。
さっきまでの俺は勢いだ、いざとなったら本当は何も出来ないただのチキンだと言うことに今日気付いてしまった。しりたくなかった。
「分かった。今日は帰るね。あのね、でもね、」
「分かっているよ。」
何を分かっているんだろう俺は?
楓は俺を見上げて
「明日もよろしく頼むよ。」
ニコッとしながら、照れながら、つぶやいてきた。
「こちらこそ頼むよ。送ろうか?I」
「こんな顔のところあんまり見られたくない。」
「そうか。」
勇気か、不安か、わからないけれど気持ちを吐き出した楓はいいかおをしていた。今なら、俺の気持ちを伝えても、いや、受験が終わってからだ。
「早く帰って暖かくして寝ろよ。」
「直也もな。」
そう言うと俺の腕から抜け出し帰っていった。
俺はもう少し濡れて帰ってもいいなと思い。近くの木に寄りかかった。
「もったいない事をしたんじゃないだろうか?」
キスはしておくべきだったんじゃないか?流れで押し倒しても?いやいや楓が大事なんだろう?勢いじゃなくてお互いの気持ちがな?でも何時かは?ほぼ両想いなんだよな?でも、あれ?
もう少し頭を冷やしてから帰ろうと思った。
少したってから風邪を引いてはたまらないと思い、
今日は勉強になりそうにないな。
そんな事を考えながら帰ろうと、木から離れたところで俺は轟音と閃光に包まれた。
落雷?
これが俺の世界にいた最後の日の出来事でした。
「おっぱい」って何回言ってんだろう?この主人公。
次回も「おっぱい」