思い出したトキ
少し短めです(ーー;)
ずっと好きだったのに――。
私の思いは、それだけだった。
小さいころの思い出の約束を大切にしてきた私に、あなたは冷たく答えてきたの。
ねぇ、どうして忘れてしまったの?
あなたの私に対する想いは、そんなに簡単に忘れてしまえるほどの、その程度のものだったの――?
それとも、私がおかしかったのかな……。
あの時の私はそんなことばかり考えていたの。
だから、あなたの本当の心の声を、聞き逃してしまったの――。
初雪は何を思ったのか、ふと窓の外を眺めて長いため息をついた。
外ではこの間まで咲き誇っていた桜が散り始め、新しい緑の若葉たちが今か今かと待ち望んでいるように、点々と葉を広げ始めている。
思い出してみると、緑とあの本屋で再開してから、五年が経っていた。初雪は大学生になり、教師になりたいという目標のもと県でも有名な教育学部のある大学に猛勉強して入学した。
周りでは同じく教師になろうと奮闘する学生が授業を真剣な顔つきで受けている。
――ろくちゃんはどうしてるんだろう?
初雪は緑に初めて会った時、小さかったためか『りょく』という発音がなかなか言えず、『ろく』呼ぶようになった。それは今でも癖として残っており、どうしても『りょく』とは言えない。そして、緑の事を『ろく』と呼ぶのは初雪だけだった。
名前を呼べばわかるかもっていう期待も少しはあったのに、それでもろくちゃんは分からなかった……。やっぱり、私のことなんて完璧に忘れてるんだ――。
初雪はそれがたまらなく悔しかった。自分だけ覚えていて、相手は覚えていない。相手にとって自分は今、『誰?』と簡単に言えるような存在なのだ。
それなのに、初雪はまだ緑の事を忘れられない。
今でもずっと、思っている。
もちろん怒りもあるが、それを放っておける事が出来るくらい、緑は自分にとってとても大切な存在だったのだ。
あんなに簡単に、私の事を忘れられるんだ――。
自分とは違う緑に、落胆の色が隠せない。
「――き――初雪!」
「えっ?」
初雪がふと自分の空想から我に帰ると、隣では大学で出来たばかりの友達の峯月紗奈が心配そうに初雪の顔を覗き込んでいた。
「ご、ごめん、何?」
「もう。何だかぼうっとしてるから、心配で声かけんたんだよ」
と、紗奈は少し頬を膨らませて机に頬杖をついた。そのしぐさが可愛らしい。
「いったい何を考えてたの?」
「何って言われても……」
初雪はどう答えればいいのか分からずに、ただ手をバタバタと左右に振ることしかできない。
「取り敢えず、今はその事について保留にしておいてあげる。私まで授業に遅れを取りたくはないからね」
紗奈はにやりと笑うと今度は真面目にノートを取り始めた。
「授業……?」
と、初雪はそこでやっと今授業中であることを思い出した。黒板にはすでに自分が写し途中であった所が消され、新しく書かれた文字がずらりと並んでいる。
「わ、わ――」
初雪は慌てて紗奈と同じくノートを取り始めた。




