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やくそく・・・  作者: hi-ra
緑編
2/14

再会のトキ

 春だというのにまだ辺りはとても寒く、緑はちょっとした休憩のつもりで近くの本屋に入った。中は暖かく、体が一気に火照っていくのがわかる。

 もう少し温まってから出ようと心の中で決めた緑は、別に興味はなかったが近くにあった雑誌をつまみだすとパラパラと目を通し始めた。

「お前、こんな所で何してんだ?」

 知っている声に、緑は思わず振り向いた。

「裕也……」

 緑は力なくそう言うとまた今見ていた雑誌に目を戻した。

「答える気は?」

「本屋にいるってことは本買いに来たってことだろ?」

「俺に聞いてどうすんだ。こっちが聞いてんのに」

 緑は何も答えなかった。何を言っても裕也は言い返してくる。相手にするのも面倒だったのだ。

「大体本買ってんじゃなくて立ち読みしてんだろ?」

「あぁ」

 緑は何の悪気も無さそうにそう言う。

 高校二年生になったばかりの緑は、真っ黒な学ランに身を包んでいる。少し筋肉質な巳貴裕也みきゆうやとは違い、ほっそりとしてはいるが、背は高く、スラリとした体の持ち主だった。顔立ちはもちろん申し分なく、悪い方ではない裕也と比べても、それは一目瞭然だった。少し色素の薄い髪と目は、それをより引き立たせているのだ。

「お前、部活終わったあとなのによくそんな体力あるよな」

 裕也は呆れて頭を振った。

 裕也は緑と対照的に、真っ黒な髪に同色の瞳を持っていた。けれどもその顔は少年っぽさをまだ残しており、愛きょうのある顔をした二枚目だった。

「体力って、立ってるだけだぜ?」

「立ってるだけでも足腰痛くなんねえ?俺なら耐えられない」

 腰に手をあてて裕也は緑を睨みつけた。

「優花ちゃんが探してたぜ」

「笈川が?何で――」

「さぁ?でも、何にせよ羨ましい限りだぜ。優花ちゃん学校でも結構人気あるんだからな」

 裕也が言った通り、笈川優花は人気があった。物腰柔らかく、何でもてきぱきとこなしてしまう姉御肌の美人だ。

 けれど緑は少し苦手意識が強かった。気の強い女なような感がしていた。何か本性を隠しているような、それでいて計算づくした行動をしているような気がしてならない。

「俺は苦手なんだよな……」

「贅沢な事言ってないで、さっさと行けよ。優花ちゃん、女の子たちにも人気あるんだぜ?下手したら全校生徒敵に回すことになる」

 確かにその可能性があったので、緑は渋々雑誌を棚に戻した。

「何処にいるって?」

「えっと……」




 初雪はつゆきは凍えそうな中、駆けこむようにして本屋に入った。考える事は皆同じとでもいうように、その本屋には暖を取ろうとした立ち読み者たちだけでいっぱいになっている。初雪はその中をかいくぐり、一応目当ての本を探しに歩みを進めた。

 もう、どうしてこう人が多いかな。

 初雪は半ば苛立ちながらも歩き続ける。

 そんな中、初雪は目眩を覚えるような感覚に陥った。

 ……まさか……。

 そんな思いが、心の中を駆け巡る。一瞬にして、昔の情景が頭をよぎる。

 ろくちゃん……?

 初雪は声をかけようと緑に向かってフラフラと歩き始めた。心臓がうるさいくらい高鳴っている。

 今更なような気もしていたけれど、諦める事ができなかったのだから、この偶然に心から感謝していた。満面の笑みを浮かべてやっとのことで緑の前に進み出ると、緑も初雪に気づいてくれた。

「ろくちゃん……」

 初雪は歓喜のあまり泣きそうになりながら緑の方に手を差し伸ばし触れようとした。

けれど緑は、眉間にしわを寄せてその手を掴んだ。

「……誰?」

 緑のその言葉に、初雪は身が引裂かれそうなほどショックを受けた。

 もしかして、人違い……?

 初雪は不安になって息を大きく吸い込んだ。

「緑?この子、知り合いなの?」

 裕也がそう言ったのが聞こえてきて、初雪は目の前にいる人がまぎれもなく自分の知っている緑に間違いないと確信を持つことが出来た。

 緑なんてそこら辺に簡単にいるような名前ではない。けれど、自分を覚えていない。初雪はそのショックに体中が震えているのに気づいた。

「いや……知らない」

「私を覚えてないの――?」

「どこかであったのか?」

 緑はまだ眉間にしわを寄せたまま訪ねて来る。その目はとても冷たい光を放っていた。

 初雪はもう一度大きく息を仕込むと。勢いよく緑を睨みつけた。

「いいえ、人違いだったみたい。ごめんなさい」

 初雪はなんとか冷静な自分を保っていたが、心の中は荒れ狂っていた。

 緑は自分をまったく覚えていない……。あれだけ約束したのに、あの冷たい目を向けられた時、体中が警笛のようにうるさくこれ以上かかわるなと告げて来た。

 あんなに素直だった緑が、これだけ変わってしまうとは……。

 初雪はまだ信じられない思いでいっぱいだった。緑はもう、自分の知っている緑ではないのだ。

 初雪は溢れる涙を止める事が出来なかった。


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