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琉球哀歌  作者: 島袋 智行
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2012年6月24日 01時19分 某コンビニ

深夜のコンビニに一人買い物をしている男がいた。男はカゴに適当に商品を入れている。

男の名前は優という。親が優しい人格なって欲しいから優と名付けたのか、優秀な人間になって欲しかったのか、画数で決めたのか…名前の由来は本人さえ、知らなかった。


優は商品を選び終えるとレジカウンターにカゴを置いた。そして、カウンター店員が商品のバーコードを通す作業を呆然と見ていた。

店員がビールや泡盛、つまみをビニール袋に入れ終え、袋の取っ手を丁寧にひとつにまとめた。「計11点でお会計が1875円てございます」見た目、10代。おそらく大学生だろう。深夜の勤務を一人てテキパキと元気良く、こなしているコンビニ店員は比嘉と名札に書かれていた。


優は右後のポケットから財布を取り出し、一万円札を店員に渡した。「一万お預かりいたします」店員がレジのボタンを数回叩くと、レジの金庫が勢い良く開いた。「8125円のお返しです。ありがとうございました」優にお釣を手渡すと、店員はヘソの辺りに手を重ねてマニュアル通りのお辞儀をした。

「比嘉君は大学生?」優はお釣を受け取ると、まだ腰 が垂直に戻っていない店員に質問をした。 店員は優の突拍子のない質問に対して一瞬、固まった 表情をみせたが、すぐに「いえ、違いますよ。ただの フリーターです。」と答えた。

優自身も、何故そんな事を聞いたのかわからなかった 。ただ、何となく口から出てしまったのだ。優は店員 にそっか!と一言、返しただけだった。 優は商品の入った袋を右手に持つと、出口まで歩いた。出口まで残り1メートル、店内には店員の「ありがとうございました!またお越しくださいませ!」という声が響きわたる。


優は何か大切なものを忘れたかのようにレジまで戻った。「ごめん!ごめん!タバコ買い損ねる所だった…えーっと…38番ちょうだい。それと…」友人のタバコは銘柄が分かっているからすぐに指定出来るが、約5年振りに買う自分のダバコは決められなかった。

「比嘉君は何吸ってる?」開店して、まだ1ヵ月の真新しい店舗。優も初めての来店なのにも関わらず、まるで何年も通っている、顔見知りの常連客の様に店員に質問をした。

「僕はマイセンの6ミリです」店員は躊躇することなく即答した。

「じゃあそれワンカートンちょうだい!」店員の即答に対して優もすぐ返事をした。


「お会計が4540円です。ライターはつけますか?

」店員はサービスライターをつけるか優に確認をした。

「ライターは…付けなくていいよ」優は即答した。裸でポケットに突っ込んでいた、先の買い物のお札を取りだし、5000円札を手渡した。そして、カウンターの上に置かれたマイセンのカートンをバラバラにすると一つだけ袋に入れた。

「残りとお釣は比嘉君にあげるさぁ」優はレジからお釣の小銭を取り出している店員に向かって言った。


「えっ…いやいや結構ですよ…」いきなり初対面の他人から約4000円分の嗜好品を受け取るのはさすがに抵抗がある。店員は困った表情で断った。「いいから!いいから!やましい事なんて何にもないから…」優はまるで、新人の警察官に賄賂を握らせようとする様に受け取りを促す。


散らかったカウンターから商品の入った袋を持つとその場から、出口に向かって歩き出した。

少し早歩きだった。何かから逃げるように、困惑とした店員の前の前から去った。

出口の自動ドアが、開いた。優は振りかえることなく外に出て、車に向かった。

「ありがとうございました」は聞こえなかった。







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