表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/11

生クリームを選びます 1

 目的のスーパーまで、自転車で5分も掛からなかったが、必要最低限しか言葉を交わさずに到着する。

 洸はどうやら落ち込んでいるらしい桜の気持ちが浮上するような言葉を掛けてやりたかったが、彼女が出来てもすぐ振られてしまうような気の利かない人間である洸には、難しい仕事だった。よって、


「俺も普通に買い物したいから、クリーム売ってる売り場で待ち合わせしよう」


 別行動を取ることにした。

 我ながらへたれだと思うが、自分の一緒にいることが居たたまれなそうな様子なので、いっそ別れた方が桜も落ち着くと思ったのだ。

 自分が桜の気持ちを浮上させてあげたいという思いはあるのだが、桜が落ち込んでいる理由さえさっぱり分からない自分が何をやっても、見当違いなことをしてしまいそうで、それも恐かった。


「――うん、わかった。じゃあ、イチゴを選んだら先に行って色々見てるね。じっくり予習してるから、ゆっくり買い物してて」


 桜の気持ちを慮っての行動だったのだが、明らかにほっとした態度で手を振る桜に、洸は複雑な気分になりながら、第一の目的であるバナナ売り場に足を向けた。

 ――自分とスーパーに来るのが嫌だったのだろうか? それはそれでへこむ。



 昨日も買い物をしていたので目に付いた特売品を数点カゴに入れ、洸はバターやチーズなどの乳製品が並ぶ売り場に行くと、桜が牛乳パックを手のひらサイズにしたようなクリーム製品特有のパックを手にとって、難しそうな顔で眺めている。

 そして洸の姿を見つけると、ぱぁっと明るい表情になって大きく手を振った。その表情を見る限り、先ほどまでの気鬱な様子は感じられず、どうやら自力で浮上してくれたようで、洸は内心ほっとしながらも自分の不甲斐なさを噛みしめる。


「秋月君、秋月君! いっぱいいっぱい疑問、質問があります。教えて下さい先生!」


 好奇心いっぱいの明るい表情で尋ねる桜に、洸は自分の落ち込みを気取らせないようおどけたふうに答えた。


「どうぞ、高野君。なんでも好きなことを聞いてくれたまえ」


 桜は「はい!」と元気よく返事をしながら、両手にもった二つのパックを洸に掲げた。


「『ホイップ 植物性脂肪クリーム』と『生クリーム使用 純乳脂』って書いてある二種類あるんだけど、違いは何なのかな? それに、生クリームを『使用』って、これ生クリームじゃないの?」


 首を傾げる桜の手からパックをもらい、洸は今まで通りの冷静を装いながら答える。


「まず、『クリーム』の定義から説明する。国が定めた定義だと、『生乳、牛乳から乳脂肪成分以外の成分を除去し、乳脂肪分が18%以上にしたもの』とされる。つまり牛乳の脂肪分の割合を高くさせたもので、それ以外添加したものを『クリーム』とは表記出来ない」


 そう言いながら、原材料名などが書かれた面を桜に見せる。


「だから、なんらかの添加物が入ったものは名称が『乳等を主要原料とする食品』と書かれる」

「――これは両方ともそうだね。じゃあ、ここに生クリームは売ってないの?」

「こういった小規模のスーパーで純然たる生クリームが売っていることはほとんどないかな。何の添加物も入れていないから、賞味期限は短いし、扱いが難しい上に、価格も高い。製菓材料を専門に売る店ぐらいだと思うよ、この辺りで手に入れようと思ったら。もしくは通販」


 洸の説明に、桜は胸に手をやり長く息を吐いた。


「はーー、生クリームってそんなに手に入りにくいものだったんだね。じゃあ、この二つの違いは?」

「『乳等を主要原料とする食品』には大きく3つに分類されるんだけど、1つは生クリームに『乳化剤』『安定剤』を添加した物、2つ目は完全に植物油脂だけで出来た物、こっちの『ホイップ 植物性脂肪クリーム』だね。3つ目は乳脂肪と植物性油脂を組み合わせたもの、もう一つの『生クリーム使用 純乳脂』のこと。これはコンパウンドクリームと呼ばれ、現在クリーム類の中で一番生産されている。つまり、この二つの違いは生クリームが入っているかいないかの差だ」

「なるほど。だから、『生クリーム使用』なんだ。――微妙に騙された気分かも。こっちの方が高いし、パックも銀色で高級そうだけど、そんなに違いはないんだね」


 少し残念そうに、『生クリーム使用 純乳脂』の方のパックを眺める桜に、洸は苦笑しながら答えた。


「まあ、でも確かに植物性のよりこっちの方が風味があって美味しいし、色々調整されてるから生クリームだけのものより扱いやすい、初心者向けだよ。プロのケーキ屋だって、ケーキの種類によってはコンパウンドクリームを使うらしいしね。高野も今回はこっちを買ってもらいます」

「はい! っで、『生クリーム使用 純乳脂』でも純乳脂の後に『35』とか『47』とか種類があるんだけど、どっちの買えば良い?」

「この数字は乳脂肪分のパーセンテージ。デコレーションケーキには45%以上のものを使うよ」


 そういって、洸は『生クリーム使用 純乳脂47』と書かれたパックを2つ桜の買い物カゴの中に入れた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ