第四話
「…おい」
「あ?」
後ろからかけられた声に反応して、男達は振り返った。そこには、白髪の男がいた。
「…さっきの事は、どういう事だ?」
伍六は太輔をつつく。
「あ?…あいつはな、基本的に人間が嫌いなんだ」
「あいつが?」
伍六は左神坊を見る。
今まで伍六が見てきた左神坊は、単細胞で、やることはめちゃくちゃで、短気ですぐに人との喧嘩を買ったり売ったりするが、ふつうに人と話し、むしろ人との関係は良く見えた。
「普段は人と普通に接するけどよ、あいつの中では人を憎んでいるんだよ」
「なんで知っているんだ?」
「前、酒飲ませたから」
「……」
一気に興味が失せてきた。太輔は気にせずに続ける。
「天狗は鬼って言うのが定着したのは、あいつにはじめて会った頃だな。飯を調達しようと訪れた村が消えていたんだ。代わりにいたのが、あいつ。あの時は逃げなくちゃ殺されていたな」
太輔は苦笑した。伍六はその話の続きを催促するように彼の顔を見つめる。
「その後からよくあいつと会って、そのたびに命の危険にさらされたよ。人間はすべて殺すって顔していたからな。消した村も一つじゃなかったしよ。……お?」
「…どうした?」
太輔は左神坊と成怜のいる方を指さす。伍六は指さした方を見た。
そこには検非違使らしき者たちがやってきていて、二人を囲んでいた。
「昨日のやつかな?」
太輔はのんびりした口調で言う。左神坊と成怜は検非違使達の囲みを破り、それぞれに逃げていく。
「手を回すの早いな」
伍六は検非違使達を睨む。
「怪しまれるから、あまり睨むなよ。俺達は知らないふりしてのんびり歩いていようぜ」
太輔は荷車の前に行く。
「なぁ」
伍六が声をかける。
「あ?」
太輔の顔が米俵の向こう側からひょこっと飛び出す。
「あいつ…オレたちのことも嫌いなのか?」
そんな伍六の言葉に太輔は目を丸くする。そして豪快に笑った。
「あっはっはっ!!おめぇ、かっわいい事言うじゃねぇかっ!」
「べ…別にそんなわけで言ったんじゃねぇよっ」
変な風に捉えられて顔を真っ赤にする。
「オレたちのことは嫌ってはいないと思うぞ。あいつの事情は、思っているよりも複雑だからな」
「ふうん」
伍六はよくわからない、といった表情を浮かべた。
二人は暖かい太陽の下で、ゆっくりと荷車を引いていった。