第二話
「戻ってきたぞ」
誰も近づかないような森の中。左神坊と伍六は仲間のいる拠点に戻って来た。
「みろよ、成怜、太輔!大漁だぞ!!」
左神坊の声で、二人が寝所から出できた。伍六は持っていた袋を広げる。中から金やら宝石やらが多く現れた。
「すごいな。よくこれだけ盗ってきたもんだ」
成怜はそのあまりの多さに驚いて、かすかに目を見開いた。
「だろ?」
「オレが盗ってきたんだろーが!」
言葉と同時に伍六は左神坊を蹴り飛ばす。
「またいいとこ取られたんだな?残念だったなぁ、伍六」
太輔は豪快に笑い、大きな手で伍六の頭を撫で回す。
「やめろよ」
嫌そうに手を退けられも強引に撫でた。
「まぁ、当分これで生活できる」
成怜は宝たちを丁寧に袋に入れなおした。
彼らは生きていくために盗賊になっている。だから、生活に必要なものしか盗らない。
今は決して平和ではない。この世は1つの国におさまっているが、文化や勢力は実質東西に分かれている。都のある西側の者達にとっては平和ではあるだろうが、東側では地域の豪族たちのくだらない派閥争いで乱れに乱れきっている。それぞれの理由で人並みの生活が送れなくなった彼らは、頭である成怜を中心に東側で盗賊として生きてきた。
四人は火を囲んで夕飯を取る。
「そういえばよぉ」
太輔が三人に話しかけた。
「今日、西側の奴らと話したんだがよ、天狗ってのは東側じゃあ鬼って言われいるだろ?」
「おう」
三人は当たり前のようにうなづく。東側では、鬼といえば天狗のことである。天狗の力は人間にとって強大すぎるのだ。一度その力を見てしまうと、人間は恐れおののく。そして、東側では人間を襲って喰らう鬼と同一視してしまったのだ。
太輔は三人の反応を見てにやりと含みのある笑みを浮かべる。
「んだよ、気持ちわりーな」
伍六の直球の言葉が投げられる。太輔は左神坊の方を向く。
「西側ではよぉ、天狗は神様らしいぞ」
一瞬、三人が固まった。左神坊は自分のことを指差す。
「……オレが神様?」
「西側の奴らって、カスだな」
「ぶはっ」
伍六の身もふたもない言葉に、成怜は腹を抱えて笑った。
「こいつ崇めたら、災いが起こりそうだよな」
太輔も大きな声で笑う。
「オレが神様の世界か…」
周りの言葉を無視して、左神坊は自分が人間に崇め奉られるところを想像する。伍六は彼の目が次第に輝いていくのを見て、ため息をついた。
左神坊はいきなり立ち上がる。そして、夜空に向かって吼えた。
「西側にいこーぜ!!」
それが、この世の中に大きな影響を及ぼすことなど、彼らは知らなかった。