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第一話
この世には天狗がいる。天狗の存在はこの世の柱であった。
「盗賊だ!」
三日月が昇る夜の中、屋敷の護衛兵が現れた盗賊を捕らえようと追いかけた。しかし、盗賊の逃げる速さについてゆけない。盗賊は門の前まで出た。走る速さをとめずに屋敷から出ようとしたが、門兵によって道をふさがれた。やむなく足を止める。
「ちっ」
瞬く間に囲まれた。槍の矛先がすべて盗賊に向けられた。
「ほらみろ、伍六の馬鹿」
突然男の声が上から聞こえた。護衛兵たちは声のするほうを見る。声の主は屋敷の屋根でしゃがんでいた。
「オレを連れて行けっつっただろ?」
「うるせぇ」
盗賊、伍六は男をにらんだ。
「何者だ!!」
護衛兵の一人が叫ぶ。
「オレか?」
男はゆっくりと立ち上がる。三日月のかすかな光が男の純白の髪を照らす。護衛兵たちは思わず一歩後ずさった。その様子を見て男は満足げに笑い、すっと右手を上げる。
「オレは、左神坊だ」
そう言うや否や、彼は右手を振り下ろした。その瞬間何かが爆発したような轟音と衝撃波が起こった。
この世の中には天狗がいる。
そう。彼、左神坊はこの世の柱である天狗であった。