婚約破棄から始まる愛国令嬢の狂気お手紙【短編シリーズ】④ 恩賞
善意100%、悪意0%。
愛国令嬢による恩賞の上奏が、今始まります。
「お父様、ただいま帰還いたしました。
わたくしは侯爵閣下の軍勢より一足早く戻るよう申し付けられております。」
「よく無事に戻った。だが危急の時とはいえ、貴族令嬢たるお前が戦場に出るのは感心せんぞ」
「申し訳ございませぬ、お父様」
「よいよい、上奏の件は手続きは済ませた。陛下の御前にでるのだ、一度身支度を整えて休みなさい」
「はい、お父様、ご厚意に甘えまする」
あの子がまさか戦場へ行くなど思いもしなかったわ。
ルフ殿との婚約は失敗だったか?
だがそれがあればこそ、今回は隣国へ大打撃を与えられたのだ、間違いではあるまい。
しかし戦場に出向くような事があった以上、あの子が嫁いだとて侯爵家での立場を考えると…
「おお、伯か、儂は卿の娘にしてやられたぞ!それともあれは卿の指図か?」
「はて、侯が何をおっしゃってるかはわかりませんが、娘が何かご無礼を?」
「ふん!もうよい儂も腹をくくったわ!卿らの好きにするがよかろう」
「候への【恩賞】については娘が上奏を求めておりますゆえ、その場にて明らかになりましょう」
「卿の娘が…もう何やら恐ろしいことしか思い浮かばぬ」
「候は何を仰せで?あれは手前自慢で恐縮ですが非の打ちどころのない貴族子女にございますぞ」
「卿は…そうか、わからんか…そういうことか」
はて、候は娘の何を気にしておられるのか。
隣国を引き込んで討伐するとルフ殿を通し、当家に打診してきたと娘には聞いていたが…
「一同面を上げよ」
陛下のお声にみな礼をとりますが、ルフ様だけは相変わらず腕組して目を閉じていらっしゃる。
ほんとうはよくないことなのですけども、陛下もなにもおっしゃらないのでよしとしましょうか。
「この度の侯爵家の武功はまこと見事よな?引き入れた敵兵を討っただけでなく
敵の最前線の城まで奪取したというではないか」
そうなのだ、あのお城をとったことで王国の支配域は間違いなく拡大する。
隣国がこちらを伺うのではなく、こちらが前に出る局面にかわったのだ。
これはとてもすごいことなのです。
居並ぶ延臣たちもみな、侯爵閣下とルフ様をたたえております。
ですが反応は対照的でございますね。
ルフ様は全く動じずでございますが、侯爵様は面はゆいのか少し落ち着かないご様子。
恩賞が気になるのでしょうか。
「そなたは伯の息女か。以前は王城にて天上の舞を披露してくれたな。よく覚えておるぞ」
「ありがたき幸せにございまする」
「王女とも親しい学友であったな」
王女殿下はとても気さくな御方である。
とてもお美しく、目下のものにもお優しい。
まさしくこの国の宝にございまする。
「はい、過分にも交流させていただいておりまする」
少々悪戯好きなところはあれど、他者を貶めることもなく。
快活な御方なのです。
「して、侯爵家への恩賞について上奏があると聞いた。許す上奏せよ」
ついにこの時がきたのです。
ここがわたくしの一世一代の勝負所、お父様見ていてくださいませ。
必ずや娘は王家と侯爵家のつながりを強固なものとして見せまする。
その時は。わたくしはお父様からお褒めいただけるでしょうか。
いけない、私事にとらわれるなどあってはならないこと。
集中です。
「されば上奏いたしまする。
ルフ様の元に王女殿下ご降嫁で侯爵家を公爵家にする
これ以外にこの大功に報いる道がありましょうか!?」
王女殿下は、天下無双の名をほしいままにする武神ルフ様との 突然のご降嫁の上奏とその栄誉に驚かれたのでしょう。
その場で小さく肩を震わせておられました。
わかります、わかっておりまする。
わたくしは王女殿下とも同窓で親しくさせていただきました。
少しだけ舞踏会や男性の洗練されたエスコートに憧れておられることもございましたが、
それも年頃のご令嬢としてはかわいらしいものです。
ルフ様は舞踏会にもお出ましにならず、 婚約後もわたくしのエスコートされることもございませぬゆえ、
少し驚いているのかもしれませぬ。
しかし意味をかみしめ、ご感動に言葉を失われたのでしょう。
王族たれば国益の象徴たる御方、
ルフ様と王家の鎹となるならば否やは申されますまい。
わたくしは、殿下がこの大功をお喜びくださったものと信じ、 深く一礼いたしました。
「あの、武神ルフは貴女の婚約者でしょう?それを急に私にと言われても、
王家の外聞というものが、そうでございますよね、国王陛下!?」
(まって、本当にちょっとまって!)
(武神ルフが嫌いなわけではないの!)
(でも私だって……婚約者と一度くらいお茶をしたり、舞踏会で踊ったり……)
(人並みのことくらいは望んでもよろしいでしょう?)
(貴女いつも伯爵にエスコートされているではありませんか!)
「あ、ああ そうだな王女のいうように国家である以上、形式というものもあろう」
なるほど、これは察せよと。そういう事でございますか。
わかっておりまする、臣下の家同士の婚約を破談させることを憚っておられる。
君主としてまことに正解にございます。
ですからこのわたくしめに促しておられるのですね?
最後のお役目を。
確かに受け取りました。
「わたくしは自ら修道院にまいりまする!」
確信する、わたくしはやりきったのだ。
御国のためにはじめてお役に立てたのだ。
思い残すことは何一つございませぬ。
後は世俗を離れ修道院にて御国のために祈りましょうとも
ああ、感極まって舞を一差ししてしまいそう
わたくしは今幸福であった
その厳かな静寂を、低く冷徹な声が切り裂いた。
「いらぬ、王女は弟に嫁げ。俺はこれでよい
この狂犬は小うるさいが、小賢しい策で戦を興じさせる
占領地をよこせ、戦争の自由もだ、いいな?」
ルフ様はそう言うと、大股で歩み寄り、呆然とするわたくしの腕を強引につかみ上げた。
「ああ…ルフ様!なんと仰せでしょうか。」
――このわたくしなどに武神たる貴方様と共に戦えとおっしゃるのですか
「貴方様がわたくしを求めてくださるのならば」
――わたくしは、たとえ死してもお供してあの世を攻め滅ぼす覚悟にございます!
王女殿下は感動のあまりハンカチで目元を拭い祝福をしてくださっております。
国王陛下も深く頷いておられる。
王女殿下とルフ様の婚姻をご提案したのに、恐れ多いことでございまする。
お父様も涙ぐみ、侯爵閣下だけがガタガタと震えておられます。
なぜなのかはわかりませんでした。
ルフ様とわたくし、さらに我が国の宝である王女殿下と弟御、
お二人の婚姻にて公爵への陞爵が決まったことに安堵されたのでしょうか。
親心とはなんと尊いのでしょう。
「この家のことは気にしなくてよい、夫たるルフ殿に誠心誠意お仕えするように」
「はい、誓いまする」
「それではお父様、お元気でお過ごしくださりませ。必ずお手紙をお届けいたしますね」
「お前に政略結婚が貴族の義務とはいえ強いたと思いもしたが…」
「何をいわれるのです、これまでお父様の娘に生まれたことがわたくしの喜びでございました。
これよりはルフ様の妻として、お父様の名に恥じぬよう努めまする」
お手紙
婚儀を終え、王都を離れルフ様の賜った領地に赴任いたしました
父上におかれましては、ご不便はないでしょうか。
嫁いだ娘が実家に口をさしはさむはご無礼なれど、
父上はご不便してはおらぬかと心を痛めている次第です。
そろそろ身の回りのお世話をする方をおかれてはと娘は思うのです。
さてこの地は隣国からしても辺境。
敵国王都もまだ遠くでございます
農民も逃散して食糧も不足がちです。
この地を開き、屯田を回すには数年はかかりましょう。
それではルフ様もの天下無双の武の振るいどころもなく
髀肉の嘆をかこちましょう。
不出来な娘で大変申し訳ございませんが、
当面不在となりますゆえに代官を派遣いただけぬでしょうか
これでは兵が飢えますが、ないなら奪う単純な道理にございましょう。
食糧など隣国領地を切り取って調達いたせば良いと思うのです。
内政など後で構いませぬ
お父様もお風邪など召さぬようご自愛なさってくださいませ
追伸、任地に到着早々ですが、進撃を開始いたしました。
かしこ
ここまでご覧いただいた皆様の愛国心に感謝申し上げます。
愛国ちゃんシリーズ第一部は、ひとまずここで一区切りとなります。
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続きとなる隣国編も構想しておりますので、「読みたい」と思っていただけましたら、ぜひ感想をいただけるとうれしいです。




