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日ノ本元号男子  作者: 安達夷三郎
第二章、古代国家
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7話

委員長に怒られながらいそいそと進路希望用紙を鞄になおし、悠久邸に向かうと、何やら騒がしかった。

「駄目ですよ、平成くん!」

そこまで大きくない、しかし聞き逃すにはあまりにも大きな制止の声に談話室に目を向けた。

カウンター席には平成くんが右手に自撮り棒、左手に何か書いた紙を持ちながら江戸くんを追いかけ回していた。そんな平成くんを羽交い締めしている明治さん。

「えっと……?」

一体何をしているのか理解できそうにない光景に、思わず固まってしまう。

「あぁ、美空さん、やっと来てくれましたね」

明治さんが振り向く。

天の助けとばかりに輝くその笑みは、口よりも多くを物語っていた。

「平成くん、何を思ったのか江戸を追いかけているんですよ!」

「いや、オレはただ『江戸の元武士がキレたら抜刀(ばっとう)してくるのか!?』っていう検証動画を撮っていただけで……!」

平成くんがバーンと見せてきた紙に書かれていたのは『開国』という文字。

「開国?」

そこへ、もう一人の声が入った。布団を被っている江戸くんだ。

「ふっざけんな!今度は絶対に開国しないからな!引きこもりを謳歌(おうか)するんだ!」

生ゴミに混じった不燃ゴミを見つけた時の鬱陶(うっとう)しそうな眼差しで平成くんを睨みつける。これ以上近づいたら引っ掻かれかねない、剣呑(けんのん)な気配をピリピリと肌が感じていた。

「まだ続いてたんや」

古墳の設計図を書いていた古墳くんがため息をつく。その近くでは縄文くんが土偶を作る為の粘土をこねている。

その時、スマホが鳴った。

メッセージ通知を見るとグループからだった。

―――進路希望用紙まだ出していないって委員長キレてたけど大丈夫そ?

―――どっか適当なオープンスクール見に行くのもアリ

―――予定空いてたら四人でどっか適当に行こ。まだ中三の一学期だし

みんな……現実に戻すのやめて!?

ポチポチと文字を打ち込み、そうめん職人のスクショを送る。

―――ネットで見つけた自分に合ってる職業らしい。

―――草

―――何の画像並べたんだよw

―――並べた画像もヨロシク!

ちなみにグループ名は誇ることじゃないけど『バカ四天王』

へへへと現実逃避していたら、クリアファイルに挟んで机に置いていた進路希望用紙。そこに書かれた勇者と流しそうめん職人という文字が明治さんの目に留まった。

「進路希望......もうそんな時期ですか」

「学制が始まったのは確か……明治時代からでしたよね?」

「ええ、そうですよ。明治の世では近代化が進み、皆が同じ内容を学習できるようになったんです。義務教育の始まりですね」

明治さんはフフンと笑う。しまいには、ホワイトボードを持って来て、江戸時代と明治時代の教育についての違いの解説が行われた。

「識字率の高さなら私も負けていませんわ!」

カウンターチェアに座っていた戦国さんが参戦する。

「まず、戦国()の識字率の高さは、武士や商人は勿論のこと。女性にも読み書きができる能力がある程度普及していましたの。識字率は当時の世界一位ですわ」

戦国さんは着物の(ふところ)から一冊の古びた和綴(わと)じの本を取り出した。

「ふふふ、この本は帳簿(ちょうぼ)ですのよ」

そこに書かれていたのは……ミミズ文字のような全く理解できない文字。漢字で書かれている文字の横には、申し訳程度のひらがなが書かれていたが、残念ながら解読不能だ。

「将来に悩んでいるのでしたら、商人をオススメしますわ」

戦国さん曰く、商人は何かと情報が入りやすいらしい。(「どこどこで一揆(いっき)するから参加しようよ」みたいな)

あとは、比較的生活が安定しているんだとか……。

そんなことを考えていると、江戸くんが布団の山からひょっこり顔を出した。

「……どうせ将来なんて、なるようにしかならないよ」

「何があったの!?江戸くん」

そこへ平成くんがスマホ片手に顔を出す。

「というわけで!『進路で迷った女子中学生と職業トークしてみた』って動画、撮れてたから明日アップするね☆」

「撮ってたの!?」

「平成くんは相変わらずですね……」

明治さんが額を押さえたかと思えば、

「おりゃあん泥だらけん顔も映っとっと!?」

「じゃあ僕の土偶を大量に並べておかないとね」

「絶対、古墳の方が人気あるから!負けへんで」

「僕は十七法の憲法を読み上げるですよ!」

弥生くんに加え、縄文くん、古墳くん、飛鳥くんがウキウキで乗っかる。

「オッケー!任せてよ!」

そんなこんなで後日、平成くんの上げた動画が教育系かネタ動画か分からないタグ付けのせいで、何故かバズった。

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