表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日ノ本元号男子  作者: 安達夷三郎
第七章、いくさば
PR
30/33

30話

―――令和◯✕年、滋賀。

談話室の小上がりに体を丸めながら寝転がっている。

「どうしたの、そんなとこで」

「……あ、江戸くん」

江戸くんが心配そうに顔を覗き込んできた。のそのそと起き上がら窓の外を眺めた。

「なんか……落ち着く場所がここしかなくて」

「…ふーん」

「準備も覚悟もできているはずなのに、いざ厄災の日が近づいているって考えると……自分で大丈夫なのかなって。一人で抱え込むには重すぎて......」

「……」

江戸くんは私の目の前に座り込んだ。

厄災は山を削り、人家を崩壊させ、あらゆる物をかき混ぜて飲み込んでしまう。

対抗手段は持っているものの、失敗してしまったらと思うと怖い。本当に自分で良かったのか、これで本当に良いのか分からない。

江戸くんは、しばらく何も言わずに私を見ていた。

「僕の生涯(しょうがい)は決して孤独じゃなかったと思ってる」

ぽつりと静かに口を開く。

「大火事や飢饉(ききん)、大厄災などあったけど……二百年も続けてきて僕が一人で成し遂げたことなんかないよ。国を存続させることができたのも、同じ方向に一緒に歩いてくれた大名や藩主、幕府の仲間達がいたから得られた経験も多い。大功一つ一つが孤独じゃない証拠になるんじゃない?まぁ、これは僕の意見。君の答えは自分で見つければ良い」

「……ありがとう」

感謝の言葉を伝えると、江戸くんはふんわりと優しい笑みを浮かべた。


そんなことがあった数日後。

私は東京の高台にいた。

救急車や消防車などがわらわらと道で混雑している。

「うわー、すげぇ。レスキュー隊に機動隊。プロフェッショナル大集合って感じだね」

平成くんが双眼鏡を片手に柵の上に登って街を見下ろしていた。

「落ちますよ、平成くん」

「あーうん」

明治さんの声に空返事をした平成くん。

――ゴゴ……ッ。

足元から、はっきりとした振動が伝わってくる。

「……来たよ」

平成くんが双眼鏡を下ろす。

遠くの街並みの一角。

立ち入り規制された区域の中心で、黒く(にご)った本災が、ゆっくりと地表へ滲み出してくる。

「行ってきます!」

明治さんと平成くんに挨拶をして、本厄のいる方へ走っていった。

「気をつけてね〜」

背中で、平成くんの声が遠ざかっていく。

(りん)(ぴょう)(とう)(しゃ)(かい)(じん)(れつ)(ざい)(ぜん)

政府所属の陰陽師達がそれを囲みながら結界を張っている。これで厄災による人的被害を抑えているらしい。

九字が最後まで切られた瞬間、本災の動きが鈍くなった。

私は薙刀(なぎなた)を握り直し、一歩、前へ出る。

足元のアスファルトがひび割れ、冷たい風が吹き上がった。

本災は、もはや形と呼べるものを持っていなかった。

この世の恨みや妬みなどをどす黒く煮詰めたように、歪んでいた。

体がすくみ、思考が凍りつく。

でも、ここで逃げれば、この国はどうなるの?

私は薙刀を握り直した。

一歩、踏み込む。

「ありがとうございます!あとは私が引き受けます!」

刃を横一文字に振るうと、空気が裂け、淡い光が走った。

本災の一部が削ぎ落とされ、黒い霧となって散る。

薙刀は本来、上構えの方が良いらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ