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日ノ本元号男子  作者: 安達夷三郎
第六章、未来を繋ぐもの
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27/33

27話

場が妙な空気に包まれる。

「今……令和って言った……?」

私が恐る恐る確認すると、目の前の女の子はハッとしたように目を見開き、首をぶんぶん、ちぎれんばかりに横に振った。

「な、何でもないよ!うん……別に私が令和で、私と貴方が同一人物だなんて、言ってないから!うん」

目が泳ぎまくっている。早口でまくし立てる女の子の額には、分かりやすく冷や汗がにじんでいた。

その時、勢いよくドアが開き、誰かが談話室に入ってきた。

「凄い音がしましたけど、大丈夫でしたか?怪我とか―――」

入ってきたのは明治さんだった。心配そうに部屋を見回していた明治さんだったが、その視線が女の子に留まった瞬間、息を呑み、悲鳴のような声を上げた。

「……ん?って、令和さん!?何でいるの!?え、えぇぇぇぇ!?」

「来ちゃった☆」

「来ちゃったじゃないでしょ!」

ピースをする女の子に明治さんがツッコむ。

「明治さん!奈良さんと平安さんと江戸くんと囲碁してたら変な私が来たぁ……!」

「令和さん、来るタイミングが完全にミスってますよ……」

明治さんはこれ以上ないほど深い、重いため息をついた。それから私と女の子の顔を何度も見比べ、やがて何か重大な覚悟を決めたように、胸いっぱいに息を深く吸い込んだ。

「……そろそろ君にも言うべき時期でしょうか」

「え?」

「これから話すことで色々変わるかも知れません。ですが、とても大切なことなんです。聞いてもらっても良いでしょうか?」

――そうして明治さんから語られた話は、あまりにも荒唐無稽で、情報量が多すぎて、私の脳内処理の限界を遥かに超えていた。

頭の中でくるくると疑問符が回り、思考がフリーズしかける。

「えっと……私が大人になった時に、国家が存続できないような厄災が起こって、みんなはそれを回避する為に何回も過去からやり直していて……それで……」

ごくり、と唾を飲み込み、一拍置いてから震える口を再び開く。

「私が令和の化身……?」

「いきなりこんな恐ろしい事実を伝えられても分かりませんよね。すぐには信じられないかもしれませんが……」

「あっ、全然信じますよ!」

「そうなんですか、若い子は柔軟ですね!?」

明治さんがズッコケそうになりながら目を丸くする。

でも、本当に心当たりがありすぎたのだ。確かに今思い返せば不思議なことが多々あった。まだ自己紹介すらしていないのに、明治さんが最初から私の名前を知っていたこととか……。

「あれ、でも、私普通の人間で……お母さんもお父さんもいますし」

「それは……」

明治さんが気まずそうに、少し口をもごもぐとさせた。胸を突くような沈黙。

「美空さん……いや、令和さんのご両親は本当はいません。いるように錯覚しているだけなんです」

……え?

「いやでも、記憶とか……」

(あれ?)

お母さんとお父さんのことを思い出そうと頭の引き出しを開けようとするのに、まるで濃い霧がかかったみたいにぼんやりとしていて、何一つ出てこない。

どんな顔をしていたっけ。どんな声で私の名前を呼んでいたっけ。

「令和さんは珍しく元号としての記憶がありません。そのような状態で厄災と戦うのは極めて危険です。なので、それをカバーするべく、少し急ぎ足で日ノ本の歴史を勉強してもらっていたんです……」

「そう……ですか……」

自分のアイデンティティが足元から崩れていくような感覚に、心做しか声が小さくなる。

「僕個人としては楽しい学校生活を過ごしてほしい。ごめんなさい、未来の君に重荷を背負わせてしまうことになってしまって」

明治さんは本当に申し訳なさそうに眉を下げた。

でも、暗い顔をしていても始まらない。私は両手で自分の頬をパンッ!と叩いた。

「私……まだ全部を受け止めてられないんですけど……みんなが大変な思いして私に繋げてくれたとしたら……頑張るしかないです!いや、頑張ります!」

「令和さん……こんな辛いだけの話を信じてくれた上に、絶望的な状態でもなおへこたれないなんて……本当に凄い子です……!」

明治さんは両手で口元を抑え、瞳にじわっと涙を浮かべた。

「全て声に出ていますよぉ」

平安さんが伝える。

「若人がそう言うなら、俺らおじさんが頑張らないといけないな!」

「……だね」

奈良さんの言葉に江戸くんも頷く。

「え、私、何かお役に立っちゃいました?」

令和ちゃん(未来の私)がニコニコと笑っている。

(待って、この令和ちゃんが未来の私だとしたら……私のまんま過ぎない!?いや、なんなら更に明るくなってる!!)

「いやぁぁ!ちゃうやん!もっと大人の静けさとか、賢さとか習得(しゅうとく)してよぉぉ!」

「え、結構大人っぽいよ?それに、時代によって求められるキャラって違うから」

令和ちゃんはなんて事ないように話すが、私は信じられない。いや、信じたくない。

「うわぁぁ!大人と今の差を体験したいの!あれ、私めっちゃ大人じゃん!って言いたいの!」

頭を抱える。

どうしよう、今からめっちゃ鍛えて精神統一を極めたらこうなる未来を回避できるかな……?

テンションが高くなる令和ちゃんを奈良さんが制す。

「こらこら、若い若人が困惑しているぞ」

明治さんが腕を組みながら、令和ちゃんに向き直る。

「で、どーしたの。大人の令和さん」

「ん〜……色々聞きたくて、来ちゃった☆まぁ、崩壊するよりは良いかなって……」

令和ちゃんは頭を搔いて笑った。

「それに〜……中学生の時の話、聞きたい!」

令和ちゃんは私の手を掴んで顔を近づけてくる。

「いやー、そういやずっと髪の毛ボブだったな〜!それに、結構私って可愛いよね。何で恋人できなかったのか不思議〜……!」

(未来の私、グイグイくる……!)

令和ちゃんの目はキラキラしていた。

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