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日ノ本元号男子  作者: 安達夷三郎
第四章、近代国家の幕開け
21/25

21話

「明治時代の初期について知りたいです!」

「最近やけに勉強熱心じゃないか。感心感心」

カウンター席に座ってブドウを食べていた奈良さんがこっちを向きながら言った。

気になる時代はあるか?と聞かれ、今に至る。

「いや〜、私も自分で調べているんですけど、そこら辺ごちゃごちゃしていて分かりにくくて」

そこへ通りかかった明治さんが参戦。

「お恥ずかしいですが、あの時はごちゃごちゃしていて正直どう説明したら良いのか分かりません……」

「あ、現実でもごちゃごちゃしてたんだ」

「なにせ短時間でやらなければいけないことが多々ありまして」

明治さんは『列強チュートリアル』とタイトルが書かれた紙を渡してきた。

そこには、『うちの国と取り引きしたいだって?あんたらのことは気に入ってるが、こっちも慈善(じぜん)事業じゃないんでね。このリストをコンプリートしたら取り引きしような!』というセリフを喋っている男性の絵の下に、項目が書かれている。

・大きくて自由な港を開こう

・流通網を確保しよう

・インフラを整備しよう

・鉄道を敷こう

・教育に力を入れよう

・近代産業を取り入れよう

・輸出できる商品を沢山作ろう

・軍隊を作ろう

などなど。上げだしたらキリがない量の項目の数々。

「これら全て終わらせて、ようやく国際社会の土俵に上がれるんです」

「めっちゃ労働時間エグそう。もう少しゆっくりやることって……」

「ははは……。国際社会が待ってくれなかったんですよ……」

清々しい程の笑顔!

「説明するより、実際に見てもらった方が分かりやすいだろ」

「それもそうですね。それなら直接海外に学びに行った岩倉使節団のあたりから見ていきましょうか」

「はーい!お願いします!」


1871年(明治4年)

岩倉具視(ともみ)を特命全権大使にした『岩倉使節団』は横浜から欧州へと旅立った。

大使、岩倉具視。副使の木戸孝允(たかよし)大久保利通(おおくぼとしみち)、伊藤博文(ひろぶみ)、山口尚芳(ますお)。留学生などを含めた、明治初期の大プロジェクトだった。

不平等条約の改正交渉、そして近代産業の視察など、多くの目的を持って派遣された。

写真館で写真を撮っている五人の使節団員。どうやら撮り終わったらしく、伸びをしたり動き出している。

「明治政府って短期間に色々詰め込み過ぎじゃ……」

「うっ、そのツッコミは置いといて……」

明治さんと話していると、私達に気づいた使節団員の一人が声をかけてきた。

「若いのに政治に興味関心があるとは!」

和服姿に(まげ)を結っている。

「お侍さんですか?」

「え、僕?どちらかと言えば公家かな」

その人は『岩倉具視さん』というらしい。

顎に手を当てて何やら考え込んでいた岩倉さんは、パッと顔を上げた。

「君達も留学生として同行しないか?若いうちは色んな経験をするのも大事だぞ」

「え?」

明治さんを振り返ると、ニコニコしている。

岩倉さんのすすめもあり、私達は同行することになった。

一人だけ髷なのは、誇りなのだとか。

「Oh、なんてワンダフルなスタイルなんだ!」

Amazing(素晴らしい)!」

行き先のアメリカでは岩倉さんの周りに人だかりがあっという間にできてしまった。

「あの、ちょっと人集まり過ぎですし、少し人を散らしましょうか?」

木戸さんが一歩引いたところで提案するが、当の本人は嬉しそうだ。

「いや、いい。髷と初めて触れ合う瞬間を大事にしようと思うのだ。それに、祖国にいる『髷なんてダッセー』だの『散髪しようぜ』など言っている人達にこの歓声を聞かせてあげたいよ!海を超えてもMAGE(まげ)の素晴らしさは伝わる!僕のMAGE論は間違ってなかった!」

そして目をキラキラさせながら見ている子供達に、パチンとウィンクしてひと言。

「君達もいつか立派なMAGEを結いたまえ。See You!」

(岩倉さんがアメリカにかぶれてる!)

「さっきから注目集めてるの岩倉さんばっかだし、髷を結ってきて良かったね」

かくして、一行は各地を視察し、色んな物を見て回った。

その間、岩倉さんの髷のお陰か、どこでも大歓迎を受けた。そして使節団の滞在期間はどんどん伸びた。

そんなある日、いつものように使節団が視察をしていると、手をブンブン振りながらこちらへ走ってくる人がいた。

「お、お父上ー!留学していて英語が話せる貴方の息子ですよー!」

どうやら岩倉さんの息子だったみたいだ。

「お父上、髷が人気で集まっているのではありません。ネタキャラ扱いされているだけです!」

「え、えぇ!?」

岩倉さんは涙を流しながら空を見上げる。

「ありがとう。今まで一緒にいてくれてありがとう。髷……!」

そして。

目の前に恥ずかしそうに立っているのは、短髪になった岩倉さん。

「「「「「えぇ!?岩倉さんが断髪なされた!?」」」」」

明治さんと岩倉さん以外の使節団員と驚きの声が被る。

断髪したのに合わせてか、和服から洋装に着替えていた。

「君、岩倉公に何か言ったかね?」

「何も言ってませんよ!?」

木戸さんの問いに首を横に振って答える。

「はぁーえらい印象変わったな」

「あんだけ髷の保護者だった岩倉さんが髪を切ったんだ。断髪に否定的だった人々の世論も動かすだろう」

この使節団の旅はなんやかんやあった。

エレベーターで悲鳴を上げたり、銀行倒産詐欺に遭ったり、伊藤さんが退屈しのぎに模擬裁判を企画したり、色々あったが収穫も多かった。

最終的に二年にも渡る活動を終え、新たな希望と期待を胸に帰途(きと)についた一行。

そして使節団は無事、帰国。

「この知識をこれから活かすぞー!」

「「「「おー!」」」」


岩倉使節団が海外の知識や人脈を得ている間、彼らが不在の間を預かる留守政府にも大きな動きがあった。

「ただいま政府!お土産のチョコもあるぞー!」

伊藤さんはウッキウキで、なんならスキップもしながら議会の扉を開けるが、むさ苦しい熱気でやられていた。

「伊藤さん!?」

そう。いつの間にか議会の覇権(はけん)西郷隆盛(さいごうたかもり)に握られていたのだ!

「どういうことだ、西郷さん!俺達が留守の間に……みんな西郷西郷って……」

伊藤さんは微かに痙攣(けいれん)しながら泣いている。

木戸さんと大久保さんはお土産が包まれた風呂敷を床に落としてることにも気付かないまま、ポカンと口を開けて固まっていた。

議会のパワーバランスが一気に西郷さんに傾いたんだよね。

「何で西郷さんにパワーバランスが偏ったんですか?」

「ああ、それはですね。西郷隆盛さんのカリスマ性が凄かったというのもありますし、民衆や元武士の方々の意見を政治に取り入れようとしたからですね。権力や名誉に執着しない方ですから」

明治さんは近くに置いてあった新聞を手に取り、私に見せてくれた。

新聞の見出しには『西郷・板垣、海外に目を向けよと主張。留守政府内で議論白熱』という文字。

「西郷さん、策士だぁ……」

「本当の策士はまた別にいますよ」

そう言った明治さんの視線の先には、悔しそうに使節団員を集めて、ぷちっと会議を始める伊藤さんがいた。

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