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日ノ本元号男子  作者: 安達夷三郎
第三章、夏休み開幕と戦の時代
17/22

17話

しばらく私達三人を見ていた安土桃山くんが、手をポンっと打った。

「この安土桃山!美空ちゃんのお友達の安土桃山もお二人の学力向上の為、精一杯尽力させて頂くでありますよ!いざ、安土桃山時代へ!」

平成くんはまだ鼻をすすりながら、私の後ろに隠れている。

「ねぇ、さらっと安土桃山がオレ達のことバカって言った!」

安土桃山くんが高らかに宣言した瞬間、視界がぐにゃりと歪む。

気がついた時、私達は……空の真ん中にいた。

「って、うわぁぁ!大丈夫なの?これ!?」

ビュオォーッと耳元を切り裂く風。心臓が跳ねる。

「大丈夫だよ」

隣の室町くんは、なぜか涼しい顔で私達を見ている。

「少し座標が高すぎるって!あと、何で室町はそんなに冷静なの!?」

平成くんも叫んでいる。やっぱり怖いよね、これ!

「大丈夫でありますよ。さっ、到着です」

にこりと笑った、その直後。

ドンッ、と重い衝撃とともに足裏に地面の感触が戻った。

「よっと、大丈夫でしょう?」

安土桃山くんがこちらを振り返り、私達を確認する。

目の前にそびえ立つのは、鮮やかな朱色(しゅいろ)と金で彩られた巨大な城。

「……安土城!?」

思わず声が漏れると、安土桃山くんは誇らしげに両腕を広げた。

「ようこそであります!」

「めっちゃ派手!これ絶対トレンド入りする」

平成くんはスマホを構え、動画を撮っている。

しかし室町くんは腕を組み、やや苦い顔。

「派手すぎて落ち着かないね……これ、金箔(きんぱく)貼るの大変だったでしょ」

「金箔は権力の象徴でありますよ」

「ふーん。僕は金閣寺と銀閣寺だけで良いかな」

「室町公の金閣寺には勝てないであります……」

案内された茶会会場は、さらに息を呑むほど豪華だった。

そして(ぜん)の上に並ぶのは、食欲をそそる料理の数々。

「あの……この料理は?」

「戦国公と鎌倉公が、『若者の仕事は勉学に励み、知識を身に付けること。年長者は若者達が学べる環境を整えねばならぬ』と申され、用意したものであります!小生はお手伝いであります!」

「ありがとう!これ絶対バズる!」

平成くんは自撮り棒を取り出し、料理と自分を同じフレームに収めて撮影を始めた。

膳の上には、炊き立ての白ご飯に、昆布(こんぶ)だしで味を調えたカブ入りの温かなすまし汁。

小鉢には蒸しアワビやハマチの切り身、ナスのお漬物(つけもの)()でたワカメとタコが彩りよく並ぶ。

「美味しそうだね」

室町くんはすでに座布団に腰を下ろし、箸を手に取ろうとしている。

その時、向かいの(ふすま)が音もなく開いた。

お盆を持って入ってきたのは戦国さんと鎌倉さん。それぞれ、焼き魚と茶碗蒸しを人数分乗せている。

「さあ、遠慮せずお食べになって下さいまし!」

戦国さんが笑みを浮かべると、鎌倉さんが箸を置き、真剣な目で私を見つめた。

「そうだ、君。明治から預かったが、学業の方はどうだ」

差し出されたのは、一学期の成績表とパラメーター表。

「これは、美空ちゃんの学業評価でありますね!」

安土桃山くんが横から覗き込む。

「あー、うん。科目別で自分が全国のどの辺にいるか分かるやつで……」

「何だかボコボコしてらっしゃいますわ。数学と外国語が低いですの」

「そうなんですよ……数学苦手で。ここ一年くらい、落差の激しい数学を何とかしようとしてるんですけど……一向に上がらなくて!やっぱり学歴って必要ですか?」

その問いに口を初めに開いたのは鎌倉さんだった。

「人は内面が大事……とは言うが、表から人の内側を見れるものではない。そんな得体の知れぬ者を見定める時、何処で何を学んだかを判断材料にする人は多いだろう」

「あー、学力の証明とかにもなりますもんね……!」

私は小さく肩を落とした。

鎌倉さんは腕を組み、視線を逸らさずに言う。

「学力向上を目指すなら、望む知識を持った者に教えを()うのは一番の近道だ」

怖い人かと思っていたけど、言っていることは意外と現実的だった。

そのやり取りを、気づかぬうちに誰かが物陰から聞いていた。

「算術ね……」

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