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傲慢オヤジの成れの果て!?

作者: 舞茸 満
掲載日:2026/04/24

「煮卵一つくらいサービスしろよ。俺常連だぞ」


 中年の男、剛田は時々行く店で店員に無理を言っていた。

 

「すみません。店長いないので、勝手に出せないんですよ」


 大学生と思われるアルバイトの店員は困惑していた。


「ったく、どいつもこいつも客に対しての感謝は無いのかねぇ」


 丼を空けると、立ち上がった。


「常連を大切にしない店なんか潰れちまえ。もう二度と来ないからな、良いな」


「はぁ、ありがとうございました」


「良いんだな?俺もう来ないからな」


 店員は黙って丼を下げている。


「あ〜あ、俺みたいな貴重な常連さんを一人失っちゃったな。良いのか?」


 剛田が店の出入り口で、声を出している。


「いらっしゃいませ!」


 剛田を押し退けて、新しい客が入ってくる。


「あの…」


 店員が剛田に声をかける。待ってましたとばかりに剛田はニヤけた。


「事と次第によっちゃあ、俺は考え直しても…」


「そこ、出入り口なので退いていただけますか?」


 他の客が訝しんで剛田に視線を送る。剛田は舌打ちをして店を出た。


「二度と来ねぇ!」


 店を出たところで、自転車にベルを鳴らされる。


「おっさん確認して出ろ!」


「なんだこの野郎」


 剛田が文句を言った時には、既に自転車は視線の遠くに行っていた。


「良かったね、もう来ないってさ」


 ラーメン屋の客が店員に話しかける。


「『俺は常連だから煮卵サービスしろ』って。でも、自分は相当シフト入ってますけど、あの人見たこと無いんです」


「いるよねそういう奴。自称常連。常連だとしてもサービスしろって、傲慢すぎるよな」


 ラーメンを啜りながら客が話す。


「そうですね。煮卵くらいとも思うんですけど、要求されちゃうと…」


 客が否定するように手を振る。


「駄目駄目甘やかしたら。そういうのは終わりが無くなるから。常連ってのはさ、俺みたいなのを言うんだよな」


「お客さんは三食うちに来られて、来過ぎですよ。健康心配になります」


 店員が困ったような笑い顔をすると、客も笑う。


「まあでも良かったじゃない。自分から来ないって、出禁宣言してくれたんだから」


「それもそうですね」


 剛田はコインパーキングに止めた車に乗り込む。


「いつも使っているのに、相変わらず高けぇな」


 不満に思った剛田は、支払い機の横にある受話器を取った。それは、故障等の緊急の連絡用だった。


「はい、〇〇パーキング緊急対応窓口です。どうなさいましたか」


「おたくはいつも使っている客に還元する気はないの?」


「は?こちらは緊急対応受付です」


「いや、だからさ。それなら客対応の窓口に繋いでよ」


「無理ですね」


「何だ無理とは!俺は客だぞ、対応しないのか」


「してますよね。その上で無理と申し上げておりますが」


「あーだったらもう良いよ。もう二度と使ってやらねぇからな、覚えておけよ。俺は常連だったんだぞ、良いのか!おい、聞いてんのか!」


 通話は既に切れていた。受話器に向かって怒鳴る剛田を見た、通りがかりの女子高生二人が、気味悪がっている。


「キモ…」


「行こ行こ」


 このやり取りの間にも、料金は上がっていた。


「馬鹿野郎、また高くなったじゃねぇか」


 怒りに任せて精算機に蹴飛ばすと、アラームが鳴り響いた。


 すぐに近くで待機していた警備会社のガードマンが駆けつけた。


「おじさん何かやった!?」


 険しい表情でガードマンが剛田に聞く。


「ピーピー喧しい機械だなこいつは」


 剛田が精算機を指さす。


「あなたね、器物損壊罪だよ!警察に連絡するから!」


 程なくしてパトカーが駆けつけた。


「とりあえず、事情は署で聞くから」


 警察官が眉をひそめている。


「待て、今精算機で金払ったばかりなんだよ、おい!」 


 剛田の訴えも虚しく、パトカーの後部座席に乗せられた。



警察署・取調室


「何で精算機を蹴飛ばしたりしたの」


 若い刑事が呆れた表情で剛田に聞く、


「あの会社はな、俺が常連なのに1円も負けやしねぇんだ。おかしいと思うだろ」


 剛田は椅子に踏ん反り返る。


「だから蹴飛ばした?」


「俺が教育してやってんだ、文句あるか」


「あなたみたいな人がいるから、機械が対応する時代になったんじゃないの?そういうのね、カスタマーハラスメントって言うんだよ」


「カス…なんだ?横文字なんか使いやがって。大体俺は税金払ってるんだ。もう少しおまけしてくれたって良いだろ。運転免許の更新もそうだ」


「おまけしろって、何を。運転免許証持っているなら出して」


 刑事が面倒臭そうに言う。剛田がポケットから運転免許を取り出し、刑事の前に投げた。


「これ、照会してきて」


 刑事が事務員に免許証を渡す。


「今はさ、ATMごと破壊するような犯罪もあるから、精算機なんか蹴ったら壊そうとしていると思われるよ」


 刑事が忠告する。


 先程の事務員が、息を切らして戻ってきて、一枚の書類を渡す。


「うん!?あなた、累積点数超過じゃないの!こんなに違反ばかりして」


 書類には、剛田の違反歴が記されていた。特に短期間に交通違反を繰り返しており、免許停止処分中だった。


「よくこんなに違反するよ…」


「俺は常連なんだ。こうやってひんぱんに金を払ってやっているんだから、少しはサービスしろってもんだ」


 剛田は腕を組んで得意になっている。


「剛田さん、あなた自分の置かれた立場を分かってる?あなたは運転してはいけないの」


「構わん。自分のことは自分で決める。運転するもしないも、俺が決め…」


「おい、留置場開けてくれ」


 刑事がお手上げのジェスチャーをした。


「四番なら大丈夫です」


 事務員の声が聞こえた。


「四番だ?縁起悪いな。他の番号無いのか」


 剛田は両脇を抱えられ、留置場にいれられた。


 夜になり、食事を聞きに留置担当者が来た?


「こういう時は『カツ丼』だろ。知らねぇのか?」


「いつの時代の話しをしてるんだか」


「これだから若い奴は…」


「はいはいカツ丼ね」


 しばらくすると、紙容器に入った弁当が届けられた。


「おい、おれはカツ丼って言ったんだぞ!」


「今日蕎麦屋が定休日なんです。それで勘弁してください。これ、領収書。あとで現金下さいね」


「タダじゃねぇのか。サービスがなってねぇ。散々青い紙やら赤い紙に金払ってやっただろ。払ったもんが強いんだよ」


 剛田が振り返ると、すでに担当者はいなかった。


 [本当にご迷惑をおかけしました]


 離れたところから、声が聞こえた。


 剛田が振り返ると、女性が立っていた。


「おう、お前も来たのか。酷えぞ、毎回金払ってこんなサービスしかしねぇんだここは」


 それは、剛田の別れた妻だった。


「剛田さんは言動が支離滅裂です。常連だの、金を払ったから良いだのと。『払う』ということに、妙に執着されているようですが…」


 刑事が訝しむ。


「私がこの人を、『お払い箱』にしたからなんです」





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