設計は現場で生まれる
さて。
早速、護衛を連れて出掛けるとするわ。
目的は一つ。スキルの実践。
伯爵家の馬車に揺られながら、私は外の景色をじっと見つめていた。
前回は“見物”。
今日は“観察”。
視線の質が違う。
まず目に入るのは、田畑。
黄金色の小麦畑が広がっている。
一見すると、美しい光景。
「……止めて」
馬車を止めてもらい、私は畑へと近づいた。
分析。
視界に、情報が浮かぶ。
土壌傾斜:南東方向へ約六度。
降雨時、栄養流出率高。
保水効率、やや低。
なるほど。
見た目では分かりにくいが、僅かに斜面になっている。
雨が降れば、栄養は下へ流れる。
上部の土は、毎年少しずつ痩せていく。
「この畑、少し斜めよね?」
護衛が戸惑った様に頷く。
「その通りですが……」
私は地面を指差した。
「石垣を段々に積んで、平らに整地すれば栄養は流れにくくなるわ。水も留まりやすくなる」
段々畑。前世では珍しくもない技術。
この地域ではまだ一般的ではないらしい。
「石垣……ですか?」
「ええ。高さはこの程度で十分」
私は地面に簡単な図を描き、護衛に言う。
「メモを」
彼は慌てて紙を取り出した。
私は口頭で寸法と構造を説明する。
分析とエンジニアの併用。
石のサイズに積み方。
崩れにくい角度。
頭の中では、既に完成形が見えている。
次は、水路。
領都へ続く水路沿いを歩く。
分析。
石材摩耗率:高。
漏水箇所:三。
私は、しゃがみ込んだ。
「ここ。石が削れて隙間が出来ている」
水が、じわりと地面へ染み込んでいる。
僅かな量だ。
積み重なれば無視出来ない。
「このままだと、水量が減るわ」
護衛が目を見開く。
「分かるのですか?」
「見れば分かるわ」
正確には、スキルが教えてくれるのだが。
「この石は交換。ここは補強。あと、この角度も直した方が流れが安定する」
再び、メモ。
彼の筆が忙しく動く。
さらに歩く。
農家の男性が、鍬を振るっている。
分析。
重量配分:前方過多。
柄の角度:効率低。
疲労蓄積率:高。
私は思わず声を掛けた。
「それ、少し貸してもらえる?」
周囲がざわつく。
伯爵令嬢が農具を持つなど、前代未聞なのだろう。
私は構わない。
鍬を手に取り、重心を確かめる。
「柄を少し短くして、ここを細く。刃の角度も変える」
簡易図を描く。
改良型、第一案。
続いて、第二案。
土質が違う場合の変化。
農家の男は半信半疑だったが、図を見て眉をひそめた。
「……軽くなりそうだな」
「なるわ。無駄な力が減るもの」
生活を変えるとそう思っていた。
現場で見ると分かる。
改善は、思った以上に広がる。
畑。水路。農具。
どれもが少しずつ効率を上げれば、収穫量は増える。
収穫が増えれば、税収も増える。
税収が増えれば――
領地は強くなれば、贅沢三昧が待っている!
私は、ふと空を見上げた。
まだ、これは生活改善に領地が豊かになれば。胸の奥で、静かに線が繋がる。
「お嬢様……」
護衛が、少しだけ畏れを含んだ目でこちらを見ていた。
「今日の内容は、伯爵様に報告いたします」
当然だ。
これは、私の“成果”なのだから。
私は小さく微笑んだ。
設計は、机の上だけでは生まれない。
現場で見て、触れて、考える。
それが、私のやり方だ。
前世もそうだったしね。
そして今日。その第一歩を踏み出した。




