受け入れるしかない世界
数ヶ月が過ぎて、やっと目がちゃんと見える様になってきた。
生まれた直後は、光の塊のようにしか感じられなかった世界も、今ではぼんやりと輪郭を持って認識できる様になっている。
天井の模様。
カーテンの揺れ。
差し込む光の角度。
そういったものが、少しずつだが「意味のある情報」として理解できる様になってきた。
言葉も同じだ。
最初はただの音の羅列にしか聞こえなかった周囲の会話も、今では断片的ながら意味を拾える様になっている。
やっぱり――ここは日本じゃ無い。
というか、そもそも地球かどうかも怪しい。
部屋の作りは石造りが基本で、壁には細かな彫刻が施されている。
家具はどれも木製で、やたらと装飾が多い。
ヨーロッパの貴族風……?
まあ、私の勝手なイメージだけど。
少なくとも、現代日本のマンションでは絶対にお目にかかれない内装だ。
そして、ここ数ヶ月で分かった決定的な事実がある。
どうやら私は――伯爵家の跡取り娘として転生したらしい。
こりゃ〜……。
贅沢三昧の勝ち組コース確定だ!
やったねー!私!
面倒くさい上司や、我儘な取引先と相手をしなくて済むぜぃ〜。
満員電車とも無縁の生活!
納期?知らんがな!
残業?何それ美味しいの?
……などと、内心では小躍りしている訳だが。
同時に、気になる事もある。
この世界には――魔法があるらしい。
使用人達の何気ない会話の中に、何度かそれらしい単語が出てきたのだ。
「属性」だの、「魔力」だの。
いやいや。テンプレかよ。
ならば当然、私も使えるのではないか?
そう思って、私なりに色々試してみた。
念じてみたり。
手をかざしてみたり。
呼吸を整えてみたり。
それっぽい単語を心の中で唱えてみたり。
……結果。
変化なし。
全くもって、何も起きない。
おかしいな。
伯爵家の跡取りだぞ?
普通こういうのって、チート能力とか一つくらい付いてくるものじゃないの?
いや、まだ赤ちゃんだからか?
成長したら発現するタイプ?
そういう事にしておこう。
うん。
……でないと、ちょっと夢が無さ過ぎる。
それにしてもふと、別の事が頭を過った。
あの時――一緒に居た、ゆきちゃん。
同期で、数少ない気の合う相手だった。お互いにミリオタって共通点もあったし。
帰りの方向が同じで、電車にも一緒に乗って。
……あの事故に、巻き込まれたはずだ。
大丈夫だったのかな。無事だったのかな。
私みたいに、訳の分からない事になってなければいいけど。
今となっては、確認する手段は無い。
スマホも、ネットも、ニュースも無いこの世界で、知る術なんてあるはずがない。
それでも――無事だったら、良いけど。
「……ぁー」
思わず声が漏れた。
もちろん、意味のある言葉にはならない。
ただの赤子の喃語だ。
それでも、胸の奥に残る感情は、本物だった。ここで、生きていくしかない。
もう、帰れないのだから。




