光に名を付ける
作業場の建設が始まった。
――とは言え。新築ではない。
金は有限。潤沢ではない。
商人と相談の末、選ばれたのは領都外れにある古びた建物。
元は倉庫に使われていたらしい。
石壁は厚いし屋根は多少痛んでいるが、構造自体はまだ生きている。
「改装で済ませましょう」
私は即決した。
基礎があるなら、使えばいい。
これで建築コストは大幅に下げられる。
内部の間仕切りを変更。
作業台を設置。
魔石保管庫を別室に。
水車型充電装置用の小型水路を引き込み同時に魔石充電機も設置。
分析と設計で、無駄なく組み替えていく。
商人の動きも早かった。
素材市場では既に魔石を買い漁っているらしい。
小粒のものから中型まで。
価格が上がる前に、在庫を押さえる。
賢い。
こちらに金が回れば、向こうも販売の仕組みを変えざるを得ないだろう。
魔石はただの討伐副産物ではなくなる。
エネルギー資源。
需要が安定すれば、供給も整う。
冒険者も、討伐効率を意識する様になるはずだ。
産業は、連鎖する。数日後に商人が訪れた。
「お嬢様、もう一つお願いが」
「何かしら」
「ロゴのデザインを」
……ロゴ?
「ブランド化します」
商人は当然の様に言った。
「偽物が出ます。必ず」
確かに光る道具。繰り返し使える。
売れない訳がない。
ならば、印が要る。
私は自室に戻り、紙を広げた。
何にする?この世界の象徴?侯爵家の紋章?
……違う。これは私の発明だ。
私の始まりだ。しばらく考えた挙句。
私は筆を走らせた。
三角形。裾が広く、頂が鋭い。
その背後に、日の丸。
そして、文字。
フジ。ローマ字で、FUJI。富士山と日の丸。
前世の象徴。
この世界の誰も知らない山。
誰も知らない国。
だがもし私の様に、転生した者がいるなら。
日本人なら一発で分かる。
ああ、ここに居るのか、と。他の国の人間は?
……勘のいい人なら、何か意味があると気付くかもしれない。
それでいい。私は完成図を商人へ渡した。
彼はしばらく黙って見つめた後、ゆっくりと頷いた。
「印象に残りますな」
「それで十分よ」
商人は笑った。
「では、この印を全製品に」
光る懐中電灯。
側面に刻まれる、富士の印。
ブランド。
名前。意味。ただの道具ではない。
物語を持つ商品。
私は窓の外を見た。改装中の工房。
職人の声。
運び込まれる木材。
積まれる魔石。
全てが、動き始めている。
光は売り物になり。
魔石は資源となり。
そして私の印が、領地に広がる。
小さな山のマーク。
その意味を知るのは、今は私だけだ。




