素材市場
まずは。
新たな金儲け出来る方法を探さなくては。
私が出している改善案は、確実に領地を強くする。
だが――地味だ。そして、長期目線。
水路補修も、農具改良も、倉庫効率化も。
成果が出るのは数年単位。
今すぐ金が増える訳ではない。
予算に余裕が無いのなら。
目先の金を、稼がなくては。
私は文官に告げた。
「素材市場を見に行くわ」
「……市場、ですか?」
「ええ。魔物も含めた素材市場」
文官の目が、僅かに曇る。
「荒事の連中の集まる場所です」
「だからこそ、よ」
知らなければ、判断も出来ない。
数日後。
私は護衛と文官を伴い、領都の外れにある素材市場へ向かった。
通常の市場とは違い空気が重い。
鉄と血と、薬草の匂いが混じる。
木箱に並ぶのは、日用品ではない。
牙。角。鱗。
魔石らしき半透明の塊。乾燥させた内臓。
そして、巨大な獣皮。
私は足を止めた。
分析。
魔狼の牙:硬度高。加工適性中。
炎蜥蜴の鱗:耐熱性高。
魔石(小):魔力残滓微量。
なるほど。
素材そのものの価値は、確かにある。
「随分と、雑ね」
思わず呟いた。
保管方法が甘い。湿気対策も不十分。
分類も曖昧。価格表示もばらばら。
文官が眉をひそめる。
「荒事の者達ですから」
「違うわ」
私は首を振った。
「仕組みが無いのよ」
討伐。持ち込み。その場で売却。
終わり。流通の最適化がされていない。
加工の分業も弱い。付加価値が低い。
例えば鱗をまとめて耐熱板として加工すれば?
牙を規格化して武器部材として販売すれば?
魔石を用途別に分類し、価格を安定させれば?
単体素材ではなく、製品として売る。
そこに利益が生まれる。
私は一つの魔石を手に取った。
分析。
不純物多。魔力効率低。
もし、選別技術があれば?
純度ごとに分けられれば?
価格は変わる。
「……面白い」
文官が怪訝そうに見る。
「何がでしょう」
「伸び代よ」
彼は小さく息を吐いた。
「冒険者の市場に、そこまで期待を?」
軽視。やはり、そこに壁がある。
素材は、金だ。
魔物は脅威であると同時に、資源でもある。
効率的な討伐。
安定供給。
加工の最適化。
そこまで整えば、一つの産業になる。
私は市場を一通り見て回った。
数量。品質。流通経路。粗い。
可能性はある。
「加工場はあるの?」
「簡易的なものは」
「専用施設は?」
「ございません」
やはり。ここだ。
私はゆっくりと息を吐いた。
目先の金。長期内政とは別軸の柱。
もしかすると答えは、ここにあるかもしれない。
市場の喧騒の中で私は静かに、次の一手を考え始めていた。




