未知への興味
ここ数日。外へ出る度に、メモ書きの束は増え続けていた。
最初は数十枚だった紙も、今では一抱え分。
記録係が二人になっても追い付かない程だ。
まあ――それだけ改善点が多いという訳だ。
畑。水路。倉庫。道路。市場。
見れば見るほど、手を入れる余地はある。
それは決して“悪い領地”という意味ではない。むしろ、よく回っている方だと思う。
領都を見回っていて、ふと思った。
伯爵家の領地って、こんなものなのかしら?
石造りの家々。活気はあるが、爆発的ではない。市場も賑わっているが、余裕があるとは言い難い。
もっと、賑やかで良いのでは?
もっと、物流が回っていても良いのでは?
もっと、商人が集まっても良いのでは?
――と思ったけれど。
私は、他の領地を知らない。
基準が無い。比較対象が無い。
だからこそ、分からない。
これが“普通”なのか。
それとも“伸び代”なのか。
「お嬢様?」
横を歩く文官が、不思議そうにこちらを見る。
私は小さく首を振った。
「何でもないわ」
頭の中では数字が回っている。
人口。生産量。流通量。税収。
まだまだ、伸ばせる。そう感じる。
そしてもう一つ。この世界特有の要素。
魔物。
地球には無かった存在。
分析出来るかどうかは未知数だが、確実に“脅威”として存在している。
その対処を担うのが――冒険者。
領都の一角に、その建物はあった。
木製の看板。武器を背負った男女が出入りしている。
冒険者ギルド。……入りたい。
「お嬢様」
護衛の声が、少し硬い。
「近付かないで下さい」
「どうして?」
「危険です」
危険。
その言葉が、逆に興味を煽る。
何せ未知の領域。
魔物討伐。
実戦。
戦闘。
分析の対象として、これ以上魅力的な分野は無い。
「見るだけよ」
「駄目です」
即答。即却下。
私は唇を尖らせた。
確かに、伯爵家の跡取り娘がふらりと入る場所ではない。
酒の匂い。金属の擦れる音。荒い笑い声。
空気が違う。
だからこそ、知りたい。
この世界は、魔物と共にある。
それを知らずして、領地経営など語れるだろうか。
農地が荒らされれば?
街道が襲われれば?
物流が止まれば?
内政も、軍事も、全て繋がっている。
私は建物を見上げた。
今は入れないがいずれ。
必ず。
「お嬢様、本日はここまでに」
護衛の声に、私はようやく視線を外した。
分かっている。焦る必要はない。
今は、基盤作り。
生活改善。物流改善。内政強化。
その先には、必ず“魔物”がいる。
そして、戦いがある。
胸の奥が、わずかに高鳴る。
面白そうじゃないの。
未知。危険。未踏。
好奇心は、時に危険だが私はそれを抑える気は、あまり無いらしい。




