現場百回
どうやら――
私の提案というか、改良案は、お父様に認められたらしい。
翌朝、執務室へ呼ばれた私は、端的に告げられた。
「外出は自由とする。ただし護衛は必ず付ける」
それだけでも十分な成果だ。
話はそれで終わらなかった。
「記録係を専属で付ける。加えて、文官も一名。お前の案を整理し、実行へ移す」
ほぅ。私は内心でほくそ笑んだ。
まずまずの成果ね。単なる“お遊び”扱いではない。
領地政策の一部として認められた、という事だ。
父は淡々と続けた。
「成果が出れば、裁量は更に広げる」
試されているがそれは悪い話ではない。
結果を出せば、発言力が増す。
発言力が増せば、出来る事も増える。
領地経営に口を出せる範囲が広がる。
となると――現場百回だわね。
机上の空論ではなく、実地で確認する。
見て、触れて、分析して、設計する。
それが私の武器だ。
屋敷の中庭で待機していたのは、いつもの護衛に加え、若い文官風の男性と、紙束を抱えた記録係。
「本日より随行いたします」
文官は丁寧に頭を下げた。
目は、冷静。観察している。
良い。盲目的に従う者より、疑問を持つ者の方が使いやすい。
「今日は、領都外れまで行ってみるわ」
私は馬車へ乗り込んだ。
市街地を抜け、石畳が途切れ始める辺り。
建物はまばらになり、農地と荒地の境界が見えてくる。
領都の“端”。中心部とは違う空気。
分析。
道路摩耗率:高。
轍深度:増加傾向。
排水性:低。
「ここ、雨が降ると酷いでしょう?」
文官が一瞬、目を見開いた。
「……その通りです」
轍に水が溜まり、馬車が進みにくくなる。
物流が滞る。
小さな問題だが、積み重なれば損失は大きい。
「砂利の敷設と排水溝の追加。優先度は高めね」
記録係が即座に書き留める。
文官は横で、概算費用を計算し始めた。
良い流れだ。さらに進む。
倉庫群。
積み上げられた穀物袋。
分析。
保管効率:中。
害獣侵入率:上昇傾向。
「下段に木製台を敷く。湿気対策と害獣対策を兼ねる」
文官が口を挟む。
「費用対効果は?」
私は即座に答える。
「腐敗率が三割下がるなら、半年で回収可能」
彼の目が細くなる。試しているのだ。
私は構わない。数字で示せる限り、負ける気はない。
馬車は更に進み、領都外れの丘へと出た。
そこからは、領地の一部が見渡せる。
畑。水路。街道。
点と点が、線で繋がる。
生活改善。
物流改善。
保管効率向上。
全ては、繋がっている。
豊かになれば、備蓄が増える。
備蓄が増えれば、生活が強化される。
生活が強ければ――
私は小さく息を吐いた。
今は内政を強化。基盤は着実に整う。
「お嬢様」
文官が静かに言う。
「本気で、領地を変えるおつもりですか」
私は振り返った。
「当然でしょう?」
微笑む。私の贅沢三昧が掛かってるからね。
「出来るのだから」
風が吹く。遠くで、農夫達が働いている。
その生活が、少しでも楽になるなら。
その結果、領地が強くなるなら。
私は、何度でも現場へ出る。
現場百回。それが、私のやり方だ。




