05
三日目。
まず、はっきり言っておく。
俺は、何もしていない。
本当に。
それなのに――
「聞いたか?」
「師範、昨日ダンジョンを睨んで黙らせたらしい」
……知らない。
「いや、違う」
「何も言わず“待て”と教えたんだ」
言ってない。
朝、宿を出た瞬間、
すでに視線が多すぎた。
冒険者。
商人。
なぜか子供。
全員、俺を見ると姿勢を正す。
やめろ。
「師範、おはようございます!」
「今日は走りますか!?」
走らせるな。
「……朝は、消化に悪い」
「食後理論……!?」
違う。
【チュートリアル】
【行動が意味不明です】
俺もそう思う。
街が騒がしい理由は、すぐ分かった。
西の静寂迷宮。
今朝から――
魔物が一体も出ていない。
「これは……」
「師範が怒っているのでは……」
怒ってない。
ただ、近づきたくないだけだ。
誰かが言った。
「……本人に聞こう」
やめろ。
結局、また俺が森まで連れて行かれた。
入口の前。
冒険者たちが、固唾を飲んで見守る。
「……俺は、入らないぞ」
「分かっています」
「“入らない”のが戦術ですから」
違う。
俺は、入口から三歩離れたところに座った。
日陰。
安全。
最高。
すると――
ゴゴ……。
ダンジョンが、低く鳴った。
周囲がざわつく。
「反応した……!」
「やはり、存在を感じ取っている……!」
俺は言った。
「……静かにしろ」
ダンジョンが、静まった。
……え?
【管理者コマンドを確認】
知らん。
冒険者たちは、震えながら頷いた。
「命令一言……」
「これが、師範……」
怖いのは俺だ。
その後、
冒険者たちが調査に入り、
俺は外でパンを食べていた。
弓使いの傭兵が言う。
「ねえ」
「あなた、本当に自覚ないの?」
「何の?」
「ダンジョン、あなたを“主”だと思ってる」
知らない。
本当に知らない。
昼には、
ギルドから正式発表が出た。
『西の静寂迷宮
暫定管理責任者:師範殿』
勝手に決めるな。
【称号が追加されました】
【ダンジョン管理者(仮)】
仮って何だ。
夜、
部屋でベッドに倒れた。
「……平和だったな」
【警告】
【世界進行度が大幅に遅延しています】
「それ、俺のせいか?」
返事はない。
遠くで、
ダンジョンが、
満足そうに鳴いた。
……なんでだよ。




