03
その日、街は異様な緊張感に包まれていた。
理由は簡単だ。
昨日、森にダンジョンが生まれたから。
朝から冒険者ギルドは大混乱だった。
受付前には人だかり。
皆、同じ話をしている。
「自然発生だぞ」
「しかも、初日だ」
「名前は?」
……名前?
そこで、全員の視線が俺に向いた。
「……え?」
「発見者は、あなたですよね」
「なら、命名権は――」
いや、待て。
そんな重要な役割、聞いてない。
だが、場の空気は止まらない。
早く決めろ、という圧。
俺は、森の方角を見た。
黒い裂け目。
静かで、不気味で、近寄りたくない。
「……じゃあ」
適当に口を開いた。
「“西の静寂迷宮”で」
一瞬の沈黙。
次の瞬間、どよめきが起きた。
「静寂……!」
「深い……」
「初日にして、このセンス……!」
深くない。
ただ怖かっただけだ。
【ダンジョン名が確定しました】
【西の静寂迷宮】
やめろ。
正式にするな。
そのまま流れで、俺は“現場指揮官”になっていた。
冒険者たちが、作戦を求めてくる。
だが、俺は前に出る気はない。
「全員、無理はするな」
「調査は段階的に」
「危なくなったら、すぐ撤退」
当たり前のことを言っただけだ。
だが、彼らは深く頷いた。
「さすが……」
「命を大事にする戦い方……」
結果、こうなった。
冒険者全員がダンジョンに入り、
俺は外で、日向に座っていた。
隣には、あの女傭兵――弓使いがいる。
「……本当に、入らないのね」
「暗いし、怖いし」
「それで、全部うまくいくのが不思議よ」
俺は、ただ待っているだけだ。
報告が上がり、地図ができ、情報が集まる。
【チュートリアル:本来の攻略手順ではありません】
知らない。
昼過ぎ、街から使者が来た。
「市より通達です」
「あなたを、正式に“迷宮指導官”として認定します」
……何それ。
さらに続く。
「加えて、名誉市民の称号に加え、
冒険者ギルドより“名誉師範”の地位を――」
待て待て。
話が大きい。
どうやら、
・戦争帰りの指揮官
・ドラゴン討伐の黒幕
・ダンジョン発見者
この三点が合体したらしい。
俺の意思は、どこにもない。
【社会的評価が異常上昇しています】
怖い。
夕方、仕事(?)が終わった後、
俺は弓使いの傭兵を誘った。
「飯、行くか」
「……高いところ?」
「たまには」
そうして向かったのが、貴族街だった。
石畳。
静かな通り。
明らかに、値段が違う。
料理は、うまかった。
とても。
「あなた、慣れてるわね」
「貴族の店」
「前世で、接待は多かった」
ブラック企業の副産物だ。
その時だった。
通りの向こうで、悲鳴が上がった。
馬車。
暴走。
人だかり。
その中心にいたのは、
高そうな服を着た少女だった。
咄嗟に考えた。
走る?
無理。
俺は、近くの警備兵に叫んだ。
「馬の進路を切れ!」
「右に誘導しろ!」
声が低いせいか、よく通る。
兵士たちは即座に動いた。
馬車は止まり、
少女は無事だった。
周囲が、静まり返る。
少女が、俺を見上げる。
「……あなたは?」
答える前に、誰かが言った。
「その方は、西の静寂迷宮の指揮官であり、
街の名誉師範だ」
盛りすぎだ。
少女の後ろにいた年配の男が、
深々と頭を下げた。
「我が家は、あなたに恩を受けました」
……あ、これ。
面倒なやつだ。
【新たな人間関係が発生しました】
夜風が冷たい。
俺は思った。
ただ、うまい飯を食いたかっただけなのに。
なぜか、
また取り返しのつかない方向に
進んでいる気がする。




