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正直に言っていいだろうか。
最近――
街が、俺を放っておいてくれない。
朝、宿を出る。
挨拶される。
昼、食堂に入る。
席が空く。
夜、帰る。
なぜか見送られる。
……やめてほしい。
俺は目立ちたくない。
ただ、静かに食べて、
静かに寝て、
できれば、誰にも期待されずに生きたい。
それだけだ。
その日も、
俺はいつものようにギルドに逃げ込んだ。
理由は簡単。
棚が、少しズレている。
気になる。
直したい。
【チュートリアル】
【警告:また清掃行動を確認】
「掃除じゃない。調整だ」
誰に言い訳しているのかは分からない。
棚を直していると、
背後で空気が変わった。
……静かすぎる。
振り返ると、
冒険者たちが、妙に距離を取って立っていた。
「……どうした?」
誰も答えない。
代わりに、
ギルドマスターが、やや緊張した顔で言った。
「師範」
やめろ。
「迷宮の件ですが……」
またか。
「昨夜、深層で異常がありました」
「ですが」
彼は、言葉を選んで続けた。
「師範が街にいる間は、
迷宮が“大人しい”のです」
知らん。
本当に知らん。
【ダンジョン観測結果】
【対象:あなた】
【影響範囲:拡大中】
……ちょっと待て。
「影響って、何のだ」
【説明不能】
【本来、あなたは――】
ピタリ、と表示が止まった。
初めてだ。
【……失礼】
【再計算中】
不安になるからやめろ。
その時。
ギルドの扉が、勢いよく開いた。
「師範はどこだ!」
入ってきたのは、
見慣れない装備の冒険者。
実力者だ。
それだけは分かる。
彼は、俺を見るなり、
深く頭を下げた。
「弟子にしてください」
は?
「俺はまだ未熟だが、
あなたの“無為の構え”を見て、悟った!」
悟ってない。
絶対に悟ってない。
「……断る」
即答した。
静かに暮らしたい。
それだけだ。
だが――
【チュートリアル】
【進行不能】
【原因:周囲の期待値が高すぎます】
知るか。
その夜。
宿に戻る途中、
迷宮の方向から、低い振動が伝わってきた。
以前より、はっきりと。
まるで――
「こちらを認識した」
そんな感じの。
「……関わりたくないんだが」
呟いても、返事はない。
ただ、
空気だけが、少しだけ重くなっていた。
静かに生きたい。
それだけなのに。
どうして世界の方が、
俺に近づいてくるんだ。




