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朝。
起きた瞬間、嫌な予感がした。
理由は簡単だ。
外が、静かすぎる。
宿を出る。
道が整っている。
人が譲る。
視線が集まる。
誰も話しかけてこない。
「……昨日より悪化してないか」
ギルドに着くと、
入口に張り紙が増えていた。
【重要告知】
【本日より、師範周辺での私闘を禁止する】
誰が決めた。
受付の女性が、
なぜか深く頭を下げてきた。
「おはようございます、師範」
やめろ。
「何があった」
そう聞くと、
彼女は困った顔で答えた。
「昨夜、会議がありまして……」
嫌な単語だ。
「“師範の行動範囲では、
魔物・迷宮・冒険者間の衝突率が低下する”
という報告が相次ぎ……」
知らん。
「結果として」
一拍置いて、彼女は言った。
「中立存在として、
暫定登録されました」
意味が分からない。
【ギルド登録情報更新】
【分類:非戦闘型安定因子】
【権限:不干渉】
【備考:刺激しないこと】
最後おかしいだろ。
【チュートリアル】
【あなたは“世界干渉者”ではありません】
【誤認です】
それを説明してくれ。
その日、
ギルドは異様に平和だった。
口論なし。
依頼破棄なし。
床が光っている。
まただ。
冒険者Aが、
そっと俺に話しかけてきた。
「師範……」
「何だ」
「今日は、何もしない日……ですよね?」
「そうだ」
その瞬間。
ギルド内の空気が、
ふっと緩んだ。
人が動き出す。
自然に。
「……すごい」
誰かが呟いた。
すごくない。
昼。
俺は飯を食いに出た。
一人で。
本当は。
気づいたら、
後ろに三人いた。
全員、距離を保っている。
「なぜついてくる」
「安心するので……」
理由になってない。
食堂。
席に座ると、
周囲の客が静かになる。
店主が、
震えた手で水を出す。
「普通でいい」
「は、はい……!」
何で緊張してる。
【チュートリアル】
【あなたの存在が“場”を形成しています】
【説明不能】
俺も不能だ。
食後、
ぼんやり外を歩く。
目的なし。
やる気なし。
すると、
道端で冒険者同士が言い争っていた。
俺は止まらない。
関わらない。
……のに。
言い争いが、止まった。
二人が、
なぜか俺を見る。
「……すみません」
「俺たち、冷静になります」
勝手にしろ。
【周囲の感情値:低下】
【原因:あなた】
やめろ。
夕方。
森の方角を見る。
迷宮は――
今日も、静かだ。
いや。
静かすぎる。
【ダンジョン状態】
【“様子見”】【継続】
【行動:保留】
保留するな。
宿に戻ると、
ベッドに座り、
俺はため息をついた。
「……何もしないのが、
一番問題なのでは?」
【チュートリアル】
【その可能性を検討中です】
遅い。
窓の外。
街は穏やかだ。
人が笑っている。
掃除している。
秩序がある。
俺は、
何もしていない。
本当に。
それなのに――
世界が、
勝手に整っていく。
「……やっぱり、
目立たない場所に行こう」
そう決めた。
だがその夜、
新しい噂が生まれた。
「師範は、
“動かないことで世界を制御する存在”らしい」
【警告】
【誤解が加速しています】
俺は布団をかぶった。
聞こえないふりをした。
遠くで。
迷宮が、
少しだけ、
震えた。
まるで――
次の段階を、
待っているように。




