10
朝。
ギルドの扉を開けた瞬間、
俺は察した。
空気が、重い。
人が多い。
多すぎる。
冒険者。
受付。
見覚えのない服装の連中。
「……今日は、何だ」
誰も答えない。
代わりに、
道が開く。
奥。
いつもは使われない会議用の机。
その前に――
三人。
一人は、ギルド長。
一人は、貴族街で見たことのある男。
もう一人は……知らない。
だが。
視線が、
完全に“監査”だ。
嫌なやつだ。
「師範」
ギルド長が咳払いをする。
「お忙しいところ、申し訳ない」
忙しくない。
「街として」
「いくつか、確認したい点がありまして」
確認。
嫌いな言葉だ。
「……手短に」
知らない男が、
一歩前に出る。
「都市管理局の者です」
やっぱりか。
「ここ数日で」
「街の環境指数が、異常に改善しました」
指数?
「犯罪率低下」
「事故件数減少」
「迷宮安定化」
俺を見る。
「原因不明」
知らん。
「しかし」
男は、
資料をめくる。
「全ての起点に」
「あなたの行動が確認されています」
俺、
何かしたか?
掃除した。
整理した。
走れと言った。
「……偶然だ」
沈黙。
「偶然にしては」
「影響範囲が広すぎます」
やめろ。
【チュートリアル】
【緊急解析開始】
【因果関係の説明を試みます】
やめろ。
空中に、
半透明の図が浮かぶ。
円。
矢印。
グラフ。
だが。
文字が、
ぐちゃぐちゃだ。
【説明不能】
【変数が多すぎます】
【前提条件が一致しません】
見た目だけ、
やたらそれっぽい。
「……」
「……」
全員が、
その図を見る。
「……やはり」
「世界規模の調整者……」
言うな。
俺は、
額を押さえた。
「違う」
静かに言う。
「俺は」
「落ち着きたいだけだ」
本音だ。
「掃除するのは」
「気になるから」
「整理するのは」
「仕事の癖だ」
「走れと言うのは」
「健康にいい」
沈黙。
「……」
「……」
誰かが、
小さく呟く。
「それを、街全体でやったら……」
やめろ。
【チュートリアル】
【結論:説明は不可能です】
【対応案:放置】
初めて役に立った。
結局。
「……監視は、続けます」
そう言い残して、
都市管理局は帰った。
ギルドに、
微妙な空気だけが残る。
「師範」
ギルド長が、
疲れた顔で言う。
「しばらく」
「大きな行動は……」
「しない」
即答だ。
昼。
俺は、
いつもの席で飯を食う。
パン。
スープ。
普通。
なのに。
周囲が、
妙に静かだ。
誰も、
騒がない。
「……落ち着かない」
思わず言う。
すると。
「分かります」
隣の冒険者が、
真顔で頷いた。
「最近、静かすぎて」
俺のせいだ。
食後。
俺は、
棚の前に立つ。
……やっぱり、
歪んでいる。
直す。
【チュートリアル】
【行動検知】
【世界への影響:軽微……のはず】
信用ならない。
夜。
宿に戻る。
ベッドに倒れながら、
天井を見る。
「……英雄って」
何だ。
誰かが前に出て、
世界を引っ張る存在。
眩しい。
俺には、
無理だ。
【通知】
【英雄イベント:保留】
【理由:代替基準が存在します】
基準。
「……知らん」
窓の外。
街は、
今日も静かだ。
整いすぎていて。
まるで――
次に来る“何か”を、
待っているみたいだった。
俺は。
その気配から、
目を逸らすように、
布団を被った。




