最強対最強
時刻は朝日も登ってそれは晴天のはずだったが、マイクロポータルで移動して空を見るとそこには真っ暗なだった。
「これは?」
『あの馬鹿のエーテルの濃度が高く空を覆う程に影響を及ぼしているのだろう』
「そんなにエーテルが多いのか?」
『ああ、それ程影響があると言うことだ。用心しな』
「分かってる、でもあんたも少しは協力してくれてもいいんじゃないか?」
『清明との約束はお前が果たすものだろう、なら私は何も手は出さないよ』
「世界の危機と言うのにお気楽なもんだ」
『私は気まぐれなものでね、まあ気が向いたてもしかしたら口を出すかもしれないね』
九尾は笑いながら消えていく。
一体人のことをなんだと思っているのだろうか?
こいつもこの世界が終われば消えてしまうのに、呑気なものだなと思いながらも足を山の頂上に向かって歩く。
そして、数十分ほど歩き頂上に着いた。
そこにはただ立ち空を見上げている零の姿があった。
「待ちかねたぞ、人間」
「そんなに空を見た所で気分は良くないだろう」
零はふと何かを考えながらも再び視線を空に向ける。
「いや、私のエーテルを発散させても千年前ではもっと綺麗だった」
「確かに今の時代の人間は自然を汚している。だが豊かにはなっているはずだ」
「豊か、その代償にこれほどの汚しているのには変わりはないだろう」
「確かにそうだ」
「私が終わらせなくてもいずれ人間は戦争を始め、滅びる」
「良く言われてるが必ずしもそうとは限らない」
「何故そう言い切れる?」
「人間はいつの時代も災害などで街を破壊され、多くの命が消えていった。でもその度に人間は手を取り合い再生させ発展させてきた」
「手を取り合う。笑わせるな、いつも人間は何か大きな問題が起きない限り手を取り合うどころか傷つけているだろう」
正直耳が痛い、その通りだった。
でもそれでも俺は信じたい。
「俺は人間を信じている」
「その先に絶望があったとしてもか?」
「ああ、人間だけじゃないモンスターともいずれ必ず手を取り合って平和が訪れると信じている」
「馬鹿げた理想だ、そんなもの存在しないし訪れない」
「だったとしても、一人でもその高い理想を掲げることで意味がある。例え成し遂げるのが俺でなくとも後世にその遺志を受け継いでいけば必ず手を差し伸べる存在が現れると信じている」
「そうか、俺はどんなに未来を視てもそんな未来は存在しなかった。なら俺の力で全てを終わらせて次の生命に託す」
「未来は決まっていない、例え決まっていても誰かが大きなエネルギーで流れを変えることは出来るはずだ」
「そうか、ならこれ以上の話は不要だな」
そう言い零は刀を手に持ち構えた。
俺も刀を出し構えエーテルを体中に纏う。
こいつの攻撃では俺のエーテル濃度を体に纏わせて攻撃を無効化することは意味を成さない。
なら最初から刀に、拳にエーテルを込めて一撃でも多く当てる。
お互い動くのに時間はかからなかった。
御影は刀を抜いた。
白い光が刃を包む。
修行の果てに掴んだ力――牙。
空気が震える。
だが零は、わずかに視線を動かしただけだった。
「三手先。右斜め上から踏み込む」
御影が動く。
地面を蹴り、高速で振り下ろす一撃。
だが…。
――空を切る。
「遅い」
背後。
御影の脇腹に衝撃。
空気が抜ける。
振り向きざまに斬る。
「四手目、横薙ぎ。だが浅い」
刃は零の髪を掠めるだけ。
次の瞬間、腹部に鋭い蹴りが入る。
地面に叩きつけられ、土が舞う。
「未来視……か」
「違う」
零は静かに言う。
「お前が未熟なだけだ」
御影は立ち上がる。
呼吸を整える。
牙になれ。
再び踏み込む。
今度は力を“振るわない”。
自分が刃になる。
間合いに入る瞬間、光が収束する。
零の目がわずかに細まる。
「五手目、虚を突く動き。だが……」
御影の身体が消える。
残像。
そして零の死角から突き。
刃が――
止まる。
零の二本の指が、刃を挟んでいた。
「予測の外に出ようとしたな。だが“可能性の分岐”は全て見えている」
ひねる。
刀が弾かれる。
そのまま、肘打ちが御影の顎を打ち抜く。
視界が白く弾ける。
それでも倒れない。
御影は吠えるように光を解放する。
白い牙が無数に空間を裂く。
ビルが崩れ、道路が割れる。
だが零は歩いていた。
嵐の中を散歩するように。
「怒り。焦燥。覚悟。全て読める」
一閃。
御影の肩が裂ける。
血が舞う。
「くっ……!」
「お前は強くなった。だが、強くなった“だけ”だ」
零が一歩踏み出すたび、御影の未来が削られていく。
攻撃は当たらない。
零の攻撃は外れない。
それは戦闘ではなかった。
処刑だった。
御影の太腿が斬られる。
膝が揺れる。
腕に深い傷。
呼吸が乱れる。
「まだ立つか」
「……当たり前だろ」
血が地面に滴る。
視界が赤く滲む。
それでも御影は踏み込む。
今度は考えない。
未来も理屈も無視する。
ただ――本能で。
零の眉が、初めてわずかに動く。
刃が交錯する。
火花。
衝撃。
御影の刀が、零の頬を浅く裂いた。
血。
零の血。
静寂。
「……ほう」
その一瞬だった。
未来が、ずれた。
だが次の瞬間。
零の瞳が深く光る。
「修正完了」
視界が反転する。
腹部に衝撃。
何が起きたのか理解する前に、
冷たい感触が腹を貫いていた。
刀。
零の刀が、御影の腹部を深く刺し通している。
「……っ」
声にならない。
血が溢れる。
零は至近距離で、静かに言う。
「理想は美しい。だが現実には勝てない」
刀がさらに押し込まれる。
背中から血が滴る。
御影の視界が暗くなる。
足から力が抜ける。
「……まだ」
零の胸倉を掴む。
震える手。
「終わって……ない」
零はその手を、静かに外す。
「終わりだ」
刀を引き抜く。
血が噴き出す。
御影の身体が崩れ落ちる。
地面に倒れる瞬間、
月が、ひどく遠くに見えた。
音が消える。
意識が沈む。
視界がぼやけて、暗闇に包まれる。
『無様だね~』
「最後にあんたに会いたくなかったな」
『あら、最後にこんな美人な女に看取られるんだから感謝してほしいくらいだわ』
「千年以上生きた婆さんが何言ってんだ、それにそもそも人間じゃないだろ」
『酷いね~、まさか清明の子孫がこんな人間とは』
「悪かったね、俺は歴史に名前を刻む程の人間じゃない」
『まあそう焦んなさいな、冥土の土産に面白い物を見せてやろう』
「面白いもの?」
『ああ、言っただろう、手は出さないが口は出すと』
「気まぐれか」
『まあそうね、じゃあお見せしよう。…千年前の大和の時代を』




