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カストラ

「どうかされましたか!?」

桐生が勢いよくベランダに飛び込んできた。

「いや、なんでもない」

「そうですか」

それ以上は踏み込んでこない。

そういう距離感を、桐生は自然に守る。

そのままリビングで朝食を取っていると、桐生が思い出したように口を開いた。

「御影さん」

「ん?」

「江口さんから連絡が来ています。直接お話ししたいと」

「江口さん……?」

名前を聞いても、靄がかかったように輪郭が掴めない。

「海外で大変お世話になった方だと聞いていますが、それも忘れてしまったんですか?」

「最近、京都の任務より前の記憶が曖昧なんだ」

「すぐ病院に――」

「一時的なものだと聞いた」

「誰にですか?」

「モンスターと人間の歴史に詳しい学者だ。京都で少し散歩した時に会った」

桐生は一瞬だけ言葉を止め、俺の顔を見た。

「……分かりました」

「信じてくれるのか?」

「主の言葉を信じるのが、私と御影さんの関係性ですから」

胸の奥が、かすかに痛んだ。

俺は今まで、誰かに本気で信じられた記憶がほとんどない。

「忘れてしまったのなら、私が全てお話しします」


そうか、と小さく息を吐く。

Giftを覚醒する前、俺はこの人生を終わらせることしか考えていなかった。

それでも今、元の世界の人間に会いたいと思っている。

――少しは、変われたのかもしれない。

「じゃあ、俺の今までのことを教えてくれ」

「はい」

桐生は淡々と語った。

正体を隠して活動していたこと。

本部に知られ、海外任務を転々としていたこと。

そして――江口という研究者と出会ったこと。

「敬語を使わないくらい親しい関係だったそうです」

「そうか……」

翌朝、俺はアメリカへ向かった。

________________________________________

ロサンゼルスの空港でスーツ姿の男に声をかけられ、施設まで車で移動する。

数時間後、辿り着いたのは人気のない田舎の研究施設だった。

白衣を着た中年の男が、タブレットを片手に待っている。

「お、久しぶりだな御影」

「で、話ってなんだ?」

「相変わらずだな。まあいい、行こう」

エレベーターで地下へ降りながら、江口は言った。

「会ってほしい存在がいる。一人の少女……いや、モンスターだ」

「どっちなんだ」

「検査結果はモンスター。だが、見た目は人間だ」

部屋に入ると、無数のモニターが並んでいた。

「名前はカストラ。ドラゴンだ。千年生きている」

「千年……」

「人間に擬態できる。村から村へ移り住み、人間と暮らしていたらしい」

人を襲った形跡はない。

それでも――ギリシャの村は消えた。

「彼女のGiftは、対象のエーテルを吸い上げる」

「花も、か」

「ああ」

だから俺が呼ばれた。

________________________________________

認証が解除され、扉が開く。

そこにいたのは、紫色の髪をした少女だった。

日本人のようで、どこか異国の雰囲気もある。

「あなたが、カストラか?」

「……」

返事はない。

「話をしよう」

「話すことはない」

「じゃあ、隣に座ってもいいか?」

一歩近づくと、少女は怯えたように声を上げた。

「来ないで!」

「俺には触れても大丈夫だ」

「そう言って……皆、消えた」

俺は近づかず、その場に腰を下ろす。

「俺は御影だ。Giftは、Giftを作るGift」

「……?」

「相手のGiftを一時的に止めることもできる」

カストラの視線が、わずかに動く。

「だから、試しに……俺の手を取ってみないか」

「……千年、誰にも触れなかった」

「大丈夫だ。もう君を縛るものはない」

右手を差し出す。

カストラは手袋越しに、そっと触れた。

――何も起きない。

「ほら、大丈夫だろ」

「……消えない」

「ああ。俺は消えない」

その瞬間、堰を切ったようにカストラは泣き出した。

「ずっと……ずっと……」

「もう一人じゃない」

________________________________________

ペンダントを渡し、Giftを抑える仕組みを説明する。

実験は成功した。

「これで……外に出られる?」

「ああ。すぐじゃないけどな」

「待つ」

それだけで、十分だった。

________________________________________

施設を出た後、江口が言った。

「どうやった」

「Giftじゃない。エーテルそのものを抑えた」

「なるほどな……」

日本へ戻る前、俺は三十個のペンダントを作り上げた。

ほとんどのエーテルを使い果たして。

それでも、不思議と後悔はなかった。


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